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ホラー小説家の自宅の真実

「そういえば、二人は幽霊を見たことないかい?」


 ホラー作家オージュ・ウォゲが、表面だけを焼いたほぼ生焼けの厚切りトーストに黒ごまペーストの甘いトッピングを塗りたくりながら、目の前の少年らに尋ねる。


「妖怪・お化け……心霊現象・ソレ系の違和感体験などなど。あったら教えてよ」

「……何でですか?」マモが不審げに答える。


 マモはどうにも、オージュ・ウォゲに不信感を抱いている。幼い頃から知っている有名なホラー小説家、読者として楽しませてくれた『尊敬すべき作家』だから、仕方なく一応相手をしているだけの付き合い方をしている。


「え? 何かのネタになるかな、というだけの事だけど?」


 朝っぱらから「心霊話をしろ」と振ってくる異常性はさすがだな、とマモはオージュの淹れてくれたコーヒーをすする。味の奥でコーヒー以外の若干の謎の苦味を感じたが、先日のオージュいわく「マンドラゴラを煎じて混ぜ混んでるんだよ(笑)」だそうで。きっと今回も混入しているのだろう。


「……せんせぇ、のほぉが そぉゆぅケイケンしてゆんじゃ……?」

 戦いすぎて武人化してアホになったギンが、たどたどしくツッコむ。


 言われてみればそうだ。40年以上は生きていて、且つ、不気味なものを好んで生きてきたオージュの方がよほどそんなような強烈な体験談を身近に、豊富に見聞きしてきたであろう。たかが16年しか生きていないガキの話なんざ、何のネタの足しになるのだろう。


「オレはぁ、そゅうの ナイでぅぉー」

”フォークで野菜スープをすくって飲もうとする”ギンの哀れなゆるい姿を見て、マモはだいぶ心配になった。すぐそばにあったスプーンをギンにそっと手渡すと、そのアホはふにゃりと笑う。


「……私も、心霊体験がない人生でしたので先生のお役に立てません。すみません」

 俺はともかく、明朗快活なギンにそういうような不気味な経験があるように見えるだろうか? マモは若干、不愉快になった。


 オージュの言動にいちいち機嫌を損ねてしまうのは何なのだろうか。ギンの“猛烈ハイタッチ”から生還させてもらった恩はあるが、どうにも疎ましい。それが何故かは、自分でもわからない。


「え〜? そぉ? 若い子特有のそういう経験あるかなぁ、とか思ったんだけどなぁ」

 特に残念がった様子もなく、ただ楽しそうに怪しいホラー作家は笑う。


「ぎゃくに、センセェのそぉゆータイケン ききたいぃ」

「え? ないよ?」

「えっ……?」無邪気にオージュに訊いたギンが、ショックを受ける。


「私、霊感とかないよ」

「ぜんぜん……です?」

「全然ですぅ」

 ギンの言葉をオウム返しするオージュにすら、マモは軽くイラついた。


「私の作品、ほとんど『こんな心霊現象あったら怖いなぁ〜起きたらいいなぁ〜』という、ほぼほぼ作り話よ?」

「そりゃあ、オージュ作品のホラーの全てが“実際あった事”だとは思っていませんけど……へぇ……」


 腹立たしさから無視をしようとも思ったが『オージュ霊感ないよ』の衝撃の事実への興味のほうが勝ったので、思わず話を先に進めてしまった。


「ん? まるで『童貞が18禁な官能小説を想像で書いているみたい』だって?」

「んな事、言ってません」


 マモの冷たい返しにすら、オージュは喜ぶ。

「でもぉ、このコワいおうち すんでたらナニカおきるんじゃ……おきてるんりゃ?」

 ギンが“スプーンで”ハンバーグを食べようとしているので、マモが小声で「それはフォーク使え」と端的に教える。


「はは、ギン君。この怖いおウチねぇ……」

 オージュが食事の手を止める。ギッと強い眼力でギンを射抜く。


「実は、何も”怖いところ”ないんだよ!」

「………?」


 まだ数日しかこの変わり者と関わっていないが、その数日でだいぶ『変人』な事には気付いていた。……が、いよいよもって変な事をわざわざキメ顔で言い出したので少年らは困り果てた。



 オージュのこの邸宅は、誰がどう見ても「怖い」ものである。

 外観からして、何かの植物の蔓が絡まりほうだいの朽ち果てた赤レンガ造りの廃墟、廊下は常に薄暗く、間接照明が常に映す影には文字通り『疑心暗鬼』に陥る心理効果が起き、曲がり角が恐ろしい。歩けば奇妙に軋む床。前を通ると、強く“鉄臭い血の匂い”がする開かずの扉。夜はフクロウに木々のざわめき、何が蠢いているのか、物音が定期的に鳴る天井。トイレだって、行こうとすると触手が暴れ、トイレ自体にも壁一面に手……いや、それはオージュ自身が設置した悪趣味のものらしいから……。


 マモはここまで考えてから、はたと気付く。


「……まさか、あのバカみたいなトイレみたく、この屋敷の『怖そうな感じ』は」

「はは、そうです。この『怖そうな感じ』は“造られたモノ”だよ」

「…………???」


 無垢な少年らが、顔をしかめる。オージュは両肘をテーブルにつけ、指を組んで微笑む。

「この家、歴史や怨念が渦巻いていそうな廃墟感あるでしょ?」

「はい……」


「ないよ! この家、新築だよ!」

「?!」


 オージュの突然の明るい声に、少年らは面食らう。

「築10年!」

「歴史もクソもねぇ!」マモが思わずつっこむ。


「え……わざわざ、ふるくつくって、こわそうなイエにしてるらけ……?」

「うん!」


 オージュが案外と並びの良い、白くキレイな歯を見せて笑う。作家というものは、これくらいイカれていないと成功しないのだろうか。これくらいイカれていて、初めて大成するのだろうか。マモは気が遠くなった。


「大工さんとさ、一生懸命”古く作った”んだよ〜。“ヨゴシ”の具合が難しかったなぁ。……でも、これだけ怖い感じにお膳立てしても、私のところに幽霊は現れてくれないんだよね。何でだろう?」

「こんなふざけた、根の明るい人のところに幽霊は現れてくれないかと」

「え〜? 私、ふざけてないよぉ。常に大真面目に生きてるよぉ」


 と、言った後でオージュが少しテンションを落とす。

「……大真面目な人間だから、エルム・ナキュのふざけっぷりにはよくキレ散らかしていたよ」


 マモから見て『ふざけているようにしか見えない人』がキレるほどのエルム・ナキュは、果たしてどれほどポンコツなのだろうか。今となっては、わからない。


「……おにわの、おはかもウソでぅ……?」

「春にはキレイなチューリップが咲くよ!」


 ギンの素朴な質問に、これまた元気に答えるオージュの様子を見て「いや、ふざけてるだろ」とマモは改めて確信した。


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