5(ユーリッヒ視点)
手紙を書くのをやめてから気づけば2年近くたっていた。
2つ下のメアリーも学園へ入学したが…
声をかけるタイミングを見失ったまま日々時間だけが過ぎていく。
今日こそは!っと意を決して声を掛けるタイミングで
「ユーリッヒっ!」
っとマリアが腕へ巻きついてくる。
「またか…。」
はぁっとため息をつきながらもマリアとの時間を優先した。
卒業すれば自由に過ごせる時間もなくなる…何より居心地のいい時間を手放したくなかった。
久しぶりに見るメアリーはさらに美しくなっていた。幼い頃に感じた気持ちが駆り立てられると同時に、メアリーの笑顔をみると苦しくなる。
そんな感情を忘れたくもあった。
メアリーは自分の事が好きなのだから、離れていくはずはない。メアリーが卒業する2年後には夫婦になるのだから、今くらい自由に過ごしたってメアリーは許してくれる。
そう思っていた。
そんなある日ミレイル公爵家から一報が届いた。
メアリーからきていた可愛らしい手紙とは違う。
嫌な予感がしたー。
震える手を抑えながら目を通す。
「メアリーが階段から転落した!?」
最後まで読むことなく慌てて部屋を飛び出していた。
しかしミレイル公爵家へ行くもののまだ容体が安定していないため会えないと言われた。
「また転落死していたらどうしよう…もう失いたくない。」
ポツリとでた言葉に自分自身で驚いた。
【また転落死】【もう失いたくない】
それはだれのことだ…?周りで転落死をした人なんかいない…それも失いたくないくらい大事な人ならなおさら…いや…いた。
愛して仕方なかった【妻】が。
「清華…」
思い出したのは前世のキヲクー。
私には愛する妻と娘がいた。
毎日が幸せだった。前世の私が初めて付き合い、たくさんの幸せを与えてくれた妻。
しかし過去の私は一度過ちを犯してしまった。
平凡で幸せな日々に刺激が欲しかった。
もちろん愛しているのは妻。
しかし妻しか知らないのはもったいないと会社の同僚に連れて行かれた飲み会でマヤに出会った。
小柄で可愛らしくおっちょこちょいなマヤが昔の清華を見ているようで、夢中になるのにそう時間はかからなかった。
マヤと過ごす時間はまるで昔、清華と過ごした時間のようで初々しく懐かしかった。
清華と昔したように、街中で人混みに紛れてキスをしたー。
愛する清華が見てるとも知らずに。
「拓実…?」
ハッと振り返るとポロポロと涙を流す清華がいた。
「なんで…?清華が…」
言葉に詰まってると
「拓実くん?早く行こう?」
マヤが腕を引っ張る
その光景を見た清華走り去ってしまった。
追いかけないと…そう思うのに足が動かなかった。
なんとか自宅に帰ったが清華はいない。
ガチャっー
「清華ー!」
急いで玄関に向かうが帰ってきたのは娘の由美だった。
「あれ?パパ?珍しいねこんな時間に帰ってるの!…あれ?ママは?」
由美が部屋を覗きこんだとき電話がなった。
「清華が転落して亡くなった…?」
目の前が真っ暗になった。あとのことは覚えていない…ただただ清華が死んだそのことだけが頭を埋め尽くしていた。
そんな前世を思い出し、メアリーへの罪悪感や苦しみの原因がわかった。
愛する人を傷つけ、事故とはいえ死に追いやった自分が幸せになってはいけないと言う呪縛だったのだと。
1週間後ようやく会えたメアリーは後遺症もなく軽傷だったそうだ。
だが亡くなった清華と重ねてしまい焦りから強い口調で攻め立てしまった。
結果婚約破棄を言い渡されてしまったのだー。