4(ユーリッヒ視点)
「ユーリッヒ・ラズベル公爵令息様、婚約解消いたしましょう。」
淑女のお手本といっても過言ではないほどの凛と澄ました笑顔でこう答えたのは他でもないー
私の婚約者、メアリー・ミレイル公爵令嬢だ。
メアリーの言葉があまりにも衝撃的すぎて、公爵家からどうやって戻ってきたのかも覚えていない。
「なぜ…こうなってしまったんだ。」
メアリーとの出会いは私が12、メアリーが10の時に開かれた皇帝主催のお茶会だった。
メアリーの母は帝国のバラと言われるほどの美貌の持ち主で現皇帝の妹だ。
そんな母によく似た娘のメアリーも幼い頃から美しかった。
一目見た瞬間、私はメアリーに心奪われた。
光を浴びた紅色の髪は朝露を浴びた薔薇のようにきらきら輝いて美しく、瞳はエメラルドのように深みがありながら透き通る綺麗なグリーン色ー。
何より笑顔が可愛いかった。
お茶会のあとすぐに父上にメアリーと婚約したいと伝えた。そのくらい私はメアリーに夢中になったのだ。
公爵家同士の婚約ということもあって障害もなくスムーズに婚約を結ぶことができた。
「ユーリッヒ様よろしくお願い致します。」
はにかみながら可愛らしく、カーテシーするメアリーは本当に可愛くて私は幸せだった。
だが…
いつからだろうか…
大好きなはずのメアリーと一緒に過ごす時間が嬉しい反面とてつもない罪悪感を感じるようになったのは。
「ユーリッヒ様と一緒に読書する時間が好きです。」
とニコニコと微笑んでくれるメアリー。
その言葉がすごく嬉しいのに…締め付けられるように苦しいー。
この気持ちがわからないまま、15歳になり学園へ入学した。
メアリーとは文を通して交流を続けたが、手紙が来るたび嬉しさよりも苦しい気持ちが大きくなりなかなか筆が進まない日が続いた。
何か気分転換できるものは無いかと学園の図書室で本を選んでいる時に出会ったのがマリアだった。
マリアは元々は平民だったが、ウィズリー男爵家へ養子にはいった令嬢だ。
メアリーや他の令嬢とは違い貴族令嬢らしくない気さくな態度がどこか懐かしさを感じ次第に仲良くなっていった。
「また、メアリー様へのお手紙?」
私の眉間をツンツンと指で突くマリアー。
「あぁ…。」
「眉間に皺を寄せながら書き悩むなら…手紙なんかやめちゃえばいいじゃない。」
マリアはあっけらかんと言い放った。
手紙を辞める…そんな事考えたこともなかった。
手紙を書くことをやめれば苦しくなることもないー。
私は自分の愚かさに気づくことがないまま、楽な道を選んだ。
「マリアの言う通りだな…無理に描く必要なんかないんだ!」
ユーリッヒは書きかけの手紙を丸めてゴミ箱へ捨てると
「アリア相手なら悩む事もなく話が出るのにな」
ポツリとつぶやいた。
マリアと過ごすのは楽しかった。
庶民の暮らしの話や市場の食事など初めて聞いて味わう味のずなのにどこか懐かしくどこか安心するー。
そしてメアリーへの苦しい思いを忘れるには都合がよかった。
「私もユーリッヒと同じ気持ちよ!」
マリアはそう答えるとユーリッヒの腕にピッタリとくっついたー。