未知の物体
原始人Aは自分のパートナーが赤ちゃんを出産するところをジーっと見つめていた。すると後ろから誰かに肩をポンポンと叩かれた。振り返ると原始人Bがいた。原始人Bは原始人Aに指で合図した。海で魚を捕りに行こうという合図だ。その日も大量に獲物が採れた。小さな魚や長い魚、貝もたくさん採れた。原始人Aは原始人Bに、もう帰ろうという意味合いでアイコンタクトをとった。しかし原始人Bは、待ってくれというようなジェスチャーをした。こっちにきてくれ、と手招きまでしてきた。原始人Aは気になって原始人Bのいるところまで潜っていった。すると、海の底に見たこともないような物体がいくつか落ちているのを原始人Aは見つけた。二人は顔を見合わせて頷きあった。そして一旦陸に戻り、女性陣が作ってくれた籠を持って再び潜った。見たこともないその物体を二人は素手で掴んだ。そして二人で協力してその物体を全部籠に入れた。
陸に戻って確認したところ、その物体は全部で16個あった。二人は再度顔を見合わせた。5秒ほど見つめ合っただろうか。原始人Aが突然、覚悟を決めた様子で、その物体の殻を引きちぎった。中には黄色い粒々がたくさん入っていた。「おっおっお」と二人は興奮した様子で声を上げた。そしてもう一度二人はお互いを見た。原始人Aは顔を近づけて恐る恐る粒々の匂いを嗅いだ。原始人Aは何か確信があったのだろうか、また「おっおっお」と興奮の声を上げた。それにつられて原始人Bも興奮の声を上げた。原始人Aがゆっくりとした動作でその黄色い粒々を手に掴んだ。原始人Bは掴まれた粒々を目で追うように見た。原始人Aの呼吸が荒くなる。「フーフー」と音が聞こえる程だ。そして、原始人Aは粒々を口に入れた。原始人Bはその様子を食い入るように見た。原始人Aは何度か咀嚼した。そして鼻からすーっと息を出した。その瞬間、原始人Aの脳に電撃が走った。そしてまた「おっおっお」と言って、飛び跳ねながら原始人Bの周りをぐるぐると回った。原始人Bはその様子を嬉しそうに目で追った。そして原始人Bも素早い動作で粒々を口に入れた。原始人Bの脳にも電撃が走った。二人は向かい合い、脚を外に広げて足踏みしながら、腕を頭の上にもってきた状態で両の掌を叩いた。
二人は残ったその物体を集落に持って帰った。30人ほどの原始人が集まって一つの集落ができている。原始人Bがみんなの前で得意気な顔をしながら粒々を口に入れた。みんなは驚いた様子で原始人Bの行動を見ている。原始人Aはニヤニヤしながら、みんなの驚いた表情と原始人Bが粒々を口にしている表情を交互に見た。原始人Bは物体の入った籠をみんなの前に置いた。後ろの方にいた原始人Cが前に出てきて、我先にといった様子で粒々を口に入れた。「おーー」と原始人Cは嬉しそうな表情で言い、原始人Aと原始人Bの肩を揺さぶった。二人は照れ笑いをした。他のみんなも続々と粒々を口に入れだした。二人と同様、足踏みしながら手を叩く者もいれば、「うおーー」と空に向かって叫びだす者もいた。しかし、子どもたちの間では不評のようだ。みんな苦々しい顔を浮かべている。それを見て大人たちは笑った。原始人Bのパートナーが原始人Bに近づいてきた。そして腕を掴んだ。彼女の目には、原始人Bに対する尊敬の念が見て取れる。原始人Bは満足げな顔でパートナーのことを見返した。二人は見つめ合った。