断章6
日は沈み、すっかり暗くなった。
【聖剣】の本拠地の居間に、ふたつの影がある。
他のメンバーはそれぞれの部屋で寝ている頃だ。
「やってくれたね、キミは」
光を反射しないウィルの赤い瞳。
その言葉は絶世の美女に投げ掛けられる。
「あら、なんのことかしら?」
可憐な声。
居間に彩りをもたらす。
「キミはもう【聖剣】まで取り込み、あのアレクサンドロス様までをも支配したのかい?」
「面白いことを言うのね」
ウィルが直接的に裏切りを言及するのは初めてだ。
それに対し、ヴィーナスはしらばっくれるような返事をする。
しかし、本気でわからないフリをしているわけではなかった。
「オーウェンには、キミの【魅惑】が効かなかったんじゃないかい?」
ウィルの一言に、目を細めるヴィーナス。
「そうね」
その声は冷たく、冷え切っている。
「貴方にもロルフにも、そしてオーウェンにも、私の超能は通用しないわ。他にそんな男なんていないのに、どうしてかしら?」
「それは僕にもさっぱりだよ」
居間を照らすのはロウソクの小さな灯火だけだ。
ウィルの整った顔が不気味に光る。
「キミの目的はなんだい? この都市の最高権力までをも自分の支配下に置いて、それで何がしたい?」
「私の目的は単純――」
ヴィーナスの唇が艶めく。
赤みがかった長い金髪は、自然のもととは思えないほどに完璧だ。
「――この神聖都市の『愛』を、私が全て支配することよ」




