第九十三話 勇者ぬたから
「ところで辰巳はどうやって聞き出したの?」
「ん?」
「そのおじさんの言ってることわかるの?」
「こいつはサツマの悪党とつるんでいただろ? 当然翻訳魔法も使えるんだよ」
『翻訳魔法んでぃいーねーぬーやてぃんゆるさりーんでぃうむとーが?』
「日本語もわかってるはずなのに日本語は話さないんだよな」
「わさんべったばてななもわがねんだおん」
「あれ? 日本語だよ」
「え? 日本語じゃないだろ」
「日本語だびょん。なーにすかへらえだっきゃこったにほんずねわらしこさおがるべな」
「いや、おじさんもだいぶ人のこと言えないけど?」
「え? 通じてるのか? 何語だ?」
「日本語だよ?」
「ええ……俺の知ってる日本語と違う」
「それでその文書解読できたの?」
「なもわがね」
「あのう、それだと虎彦にしかわからないから翻訳魔法使ってしゃべってくれよ」
「なすてなさほんやぐまほうだの使ってさべねばまねてや」
「チョコ、やれ」
「わいやめれ! そのねごさかっちゃがすなて!」
「翻訳魔法」
『わかったから! これでいいだろ!?』
「よし」
『暴力反対!』
『……どっちが悪者かのう??』
「つけた先生が間違ってましたかねえ?」
「もとからああいうとこあるよ」
「ぐる」
『それでおじいさまの文書にはなにが書いてあるんだ?(あんっしたんめーぬかちつぃきんかえーぬーかちぇーが?)』
「わからないって」
「結局にほんごのわかるかたはみなこれを読んでわからなかったわけですか」
「たぶん数百年前の文書だろ?」
「先生なら読めるかな?」
「ウニチビの両親は知らないのか?」
『おじいさまは私にだけ見せてくれたのだ(たんめーやわんびけーんかいみしてぃくぃてーん)』
「見せてくれたのはこの本だけなの?」
『本ではなく文書だ(しゅむちぇーあらん、かちつぃきどぅやる)』
「あ、こっちのメモみたいなやつか」
「それを早く言えよ」
「安定の気の利かなさ」
『最初から文書とは言っていたがのう』
「そちらの文書のほうは読めるのでしょうか? わたしには同じに見えましたけど」
「どれどれ……『かればこう云うが……』……なんだこれ?」
「順番がバラバラなんじゃない?」
「最初はどれだ? ……これっぽいな」
「あ、それっぽい」
「全然わかりませんね」
『わしもわからんのう』
『そっちのほうは読めたがくだらんぞ。たぶん暗号の鍵だ。並び替えればきっと』
「順番ぐちゃぐちゃにしたのはおまえか……チョコ、やれ」
『ぎゃー!』
「『日本から来た勇者へ』……勇者いないけど?」
「そこは気にしなくていいんじゃないか?」
『変なやつだからいいだろう(ふぃんなーやくとぅゆたしゃるぐとーん)』
「……『わたしは那波鬼丸。国文学者だったがある日研究室で本を手に取ったときにめまいがして気づいたら見知らぬ場所にいた。手元にある資料はたった一つで研究もままならないし、夢でなにやら言われた気もするがそんな冒険はしたくないしで、この島のフィールドワークでもしようと腰を落ち着けたところだ』」
「致命的に勇者に向いてない人選だな」
「勇者は神様にお会いしたと言っていましたけど」
「これは全力で聞き流してる感じだよな」
「『ユタの婆さんが勇者の心構えとか話しかけてくるが、勇者をやる気はないので断っている。それよりこの島は自然が豊かで気候もよく住みやすい。島から出たくないなあ』」
「最初からやる気なさすぎる」
『この男がここでもたもたしておったからわしらのところへ来なかったんじゃな』
「『島中をくまなく調べて水の足りないところには井戸を、不作のところには肥料を、争いの絶えないところには按司を置いた。島で見つけた悪さをする者を集めて仕事を与えたりもした。知らないうちに親方と呼ばれるようになっていた』」
「内政チート勇者みたいなことやってるな」
『むかしおじいさまが国中の悪者を討伐して回ったという伝説は本当だったのか?(んかしたんめーぬちゅくにあっちわるむんかいばつぃくゎーちぇーんでぃゆるつぃてーやまくとぅやてーみ?)』
「『そんなことをして何年か経つとユタの婆さんからある娘を紹介された。最初は断ったが家族を持てば考えが変わると言われてしぶしぶ承知した』」
「ハーレム勇者伝説か?」
「『今日は初めての子どもが生まれる日だ。ここに名前を書いておく』……このあとは家系図みたいになってるね」
「横に赤字でなにか書いてあるぞ『今日妻が死んだ。もう生きていけない。子どもたちも大きくなって家にはいない。さみしい』」
「日付が書いてないからよくわからないけど、たぶん何十年か経ってるってことだよね」
『十年くらい泣き暮らしたっていう言い伝えの!(じゅーにんあたいなちくらさんでぃゆるちてーぬ!)』
「『ユタの婆さんがしつこく訪ねてくる。新しい嫁をとれと言って知らん娘を紹介された。自分の孫より若い娘と結婚なんかできるか』」
「こじらせてんな」
「『どうやらわたしは若いまま年をとらないようだ。どおりでいつまで経っても死なないわけだ。今日最初の息子が死んだ。葬式のため島を出たらユタの婆さんにだまされて結婚してしまった』」
「ユタの婆さんのキャラが濃い」
「『また新しい家族ができそうだ。家族はいいな。また島を巡って船を改造したり料理を作ったりした』」
「なるほど。この人家族がいるときだけ島のために役立つからユタの婆さんが連れ出したがってるんだな」
『この料理、たぶんうちの宿ですよ!(くぬうぶん、わったーぬやどぅどぅやるはじ!)』
「家系図の名前に一つずつ赤線が引かれてるのは亡くなったからか」
「このあとも家系図が続いてるね。最後のほうは……『妻が死んで悲しんでいたら、娘がわたしのことを心配して婿養子をとった。わたしもさすがに年をとったようだ。孫が生まれたらその子にあとをまかせようか』」
「これはウニチビが生まれるまえか? このあとは線が引いてない……鬼末ってウニチビのことか?」
『ああそれだ。おじいさまがそれを見せながら「ここにおまえのことが書いてあるんだよ」と言って……(い~あんやさ。たんめーぬうりみしやがちー「くまんかいやーぬくとぅかちぇーんどー」んでぃち……)』
『わし、こういうの弱いんじゃ……』
おまけ 翻訳
みなさんの翻訳魔法にさらに翻訳をかけますので字幕付きでお楽しみください。
『翻訳魔法んでぃいーねーぬーやてぃんゆるさりーんでぃうむとーが?』
→翻訳魔法って言えばなんでも許されると思ってるのか?
「わさんべったばてななもわがねんだおん」
→俺が話してもお前なにもわからないんだもん
「日本語だびょん。なーにすかへらえだっきゃこったにほんずねわらしこさおがるべな」
→日本語だろうよ。なに教えられたらこんなにどうしようもない子どもに育つんだろうな
「なもわがね」
→なにもわからない
「なすてなさほんやぐまほうだの使ってさべねばまねてや」
→どうしてお前に翻訳魔法とか使って話さないといけないんだ
「わいやめれ! そのねごさかっちゃがすなて!」
→うわっやめろ! そのねこにひっかかせるなって!




