第八十九話 わるむん
「ひとまずここで下っ端ともめても意味ないから本丸に乗り込もうか」
「クチコミってやつ?」
「カチコミだし、それもイメージ悪いからガサ入れって言おうな」
『物騒じゃのう』
「先頭で乗り込みそうな顔でよく言う」
「先に制圧しましょうか?」
「イージーすぎる」
『……まだ臭いか?(……なーだにうぃだかさみ?)』
「拾ったときよりはマシだよ」
『しー!(やんけー!)』
『……(……)』
「おい、あの詐欺師のとこに行くぞ」
『はっ?! そうであった(はっさ?! あんやたっさ)』
「あちらの屋敷ですね。露払いだけしてあります」
「うむごくろう」
『じゃからなんでえらそうなんじゃ』
「忍者だからだよ」
「違うだろ」
『だれもいないが……(たーがんうらんしが……)』
「静かに」
「あの部屋にそろっています」
「こんちはー」
『だれだ?!』
『警備はどうした!』
『いったーやあぬとぅちぬふぃるましーやから!』
『えーひゃーたーがやからやらひゃー!』
「御用だ!」
「ひかえおろう!」
「それはまだ早い」
「そっか」
「混沌ですねえ」
『なんでこの様子を見てほっこりしとるんじゃ……』
「まあとりあえず全員取り押さえようか」
「がるるるる」
「あ、チョコちゃんおかえり」
「すっかり影の仲間になってるな」
『なんだこの猛獣は?!』
『ひゃー!』
「逃げまどう人々」
「そうなりますよね」
「なんでだよ! かわいいだろ!」
「辰巳が乱入した」
「……そうなりますよね」
『わしは見てるだけでじゅうぶんお腹いっぱいじゃ』
「もうそろそろいいんじゃない?」
「そうですね。ん゙ん゙っ、ええ~い皆の者、静まれしずまれい! この紋章が目に入らぬか! こちらにおわすおかたをどなたと心得る! 畏れ多くもキゥミュィァマェントゥ王国の御寵児、トラ様にあらせられるぞ! 一同、トラ様の御前である! 頭が高い! ひかえおろう!」
「みんなぽか~んとしてる」
『一人ですべったみたいになっとるぞ』
「……トラ様?」
「やっぱBGMがないとダメかな?」
「あ~そもそもクマモトから離れすぎてて王族の紋章とか全然通じないよな」
「辰巳おかえり。正気に戻ったね」
「強制的にな」
「ぐるう」
「トラ様……」
『はしごを外された感じになっとるな』
「まあ騒動は収まったからいいんじゃない?」
「なんかいい感じのセリフ言ったほうがいいんじゃないか?」
「かっかっか……だっけ?」
「一気に全シーンすっ飛ばしてラストに行ったな」
「めでたしめでたし」
「そんなセリフないだろ」
「あ、思い出した。タツさん、エドさん、懲らしめてやりなさい!」
「もう懲らしめたよ」
「んー、じゃああれだ。……この人たちなにしたの?」
「そこからか」
『俺たちゃなんも悪いことはしてねえぞ!』
「だまらっしゃい! そのほうたちの悪事の数々、この虎彦、しかと見届けたぞ!」
「おお」
『なにを見届けたんじゃ?』
「そこがわからない」
「ええと、トラ様、この者たちはウニチビの両親をだまして借金のカタに勇者の島を不当に占拠し、勇者の人気を利用して観光地として暴利をむさぼり、邪魔なウニチビにも借金を負わせて追い払うことで両親に取り入って操りやすくし、さらにはあちこちでウニナーの人々に暴力を振るったりだまして金を巻き上げたりしていました」
「んーと、なんの罪もない勇者の末裔をおとしいれ、勇者の島を乗っ取ろうとするとはふとどきせんばん! 首を斬れ!」
『ひえっ』
「そんなこと言わないだろ。……さては虎彦、ちゃんと見たことないな」
「あんまり知らないかも」
『いきなり首を斬るのもなんじゃな』
「こやつらはもともとサツマにいた悪党たちで、地元で悪さをしすぎていられなくなったのでオニナパに移って荒稼ぎをしていたようです」
『なんでそんなことがわかるんだよ』
「サツマじゅうで聞き込みをしましたから。あなたのお母さんが心配していましたよ」
『そんなわけねえだろ。もう十八年以上帰ってないんだぞ』
「録音ですが、『十八年まえにでっいっかあそいぎいもどっこねそのねむしこんせわらしっせえせっねばんもあっ』」
『……こやかかんこえか?』
「いなかのおっかさんが泣いてるぜ」
『よくその会話に急に割り込めるのう』
「辰巳はちょっとおかしいから」
「ぐる」
『ぐすん』
「なんだこいつら急にめそめそし出しやがって」
「泣かしたの辰巳じゃん」
『それよりあの悪者はどこへ行った?(うりやかあぬわるむのーまーかいんじゃが?)』
「え?!」
「また逃げたか?」