第八十七話 翻訳の翻訳+おまけ前編
「ところでこの一方通行の翻訳腕輪なんとかなりませんか?」
「さっき試してみたんだけど、翻訳腕輪なしだと完全に通じないんだよな」
「翻訳腕輪はちゃんと動いてるってこと?」
「そう。翻訳されてこれなんだよ」
「サツマでは問題なかったのにどうして?」
「これ翻訳魔法を使って意思を伝える意志が必要なんだよな」
「伝えようと思っていないことは翻訳されないんでしたね」
「サツマの人ってみんな翻訳魔法に慣れてるからとりあえずいつでも魔力に意思を乗せようとしてるんだと思うんだけど、オニナパの人たちはそれが弱いんじゃないか?」
「そもそも翻訳魔法を知らないんじゃないかな」
「こちらからは翻訳魔法で伝わるけど向こうからは伝える意志が弱いのでうまく翻訳されないということですね」
「試しにお姉さんで人体実験しよう」
『ぬーぐとぅやいびーが?!』
「話すときに注意してほしいことがあるんだけど、この腕輪を着けて、言葉にするまえに伝えたいことを頭のなかに思い描いて、それがそのまま届きますようにって強く願いながら言葉にしてみて」
『うー、……変なの(うがんちゅみいびたん)』
「あれ?」
「心の声が漏れてる?」
「ある意味器用ですね」
『どういうこと? これでいいの?(はなしびけーんっししまびーみ?)』
「ちょっと違うけど、慣れたらいけるかも」
『そんなことよりわたしも勇者の島に行きたいよ(なりゆんでぃ?)』
「すごく漏れてる」
「客商売だから頭のなかと客向けの言葉が一致しない訓練を自然と積んでるのかも」
「影の才能がありますね」
「なんでもスカウトしようとするな」
『行きたいのならついて来ないか?(いちぶしゃんでぃいらーうーてぃくーに?)』
「おっと唐突に口説きだしたか?」
「おじさんはちゃんと翻訳されてる」
「考えたことそのまま口にして生きてそうですもんね」
『ようやく普通に会話ができるのう』
『え? 行ってもいいの?(あい、どぅーぐりささびーくとぅ……)』
「もうとりつくろわなくていいから本心だけ話しなよ」
「全員にタメ口でいいぞ。許可する」
『なんでお主が許可するんじゃ……』
『そんなこと言ってあとからよそで変な評判流す客いるからね(あんしぇーないびらんくとぅ)』
「いろいろあるんだね」
「それよりこのさっきから顔かくして転がってるおじさんなんとかしろよ」
「それは辰巳がやったんじゃん」
『なにも言うな(むぬやんけー)』
「島に行きたいって言ってやれ」
『行きたい!(えーたい、うやぐみさあてぃんわんにんしまんかいいちぶさいびーしが、じゅんにゆたさいびーみ?)』
『ああ、いいぞ(い~、ゆたしゃゆたしゃ)』
「復活した」
「打たれ弱すぎる」
おまけ前編
みなさんの翻訳魔法にさらに翻訳をかけますので字幕付きでお楽しみください。
間に古文をはさむとわかりますよね(強制)。
意味がわかりやすいように漢字を混ぜて、直接対応する語がないかまたはわかりにくい場合は[]で意味が通る言葉を埋めておきます。
『はいたい。ゆーいめんしぇーびーたん』
→はい(女性丁寧語尾)。よう御見え召し侍り居りたり。
→こんにちは。よくいらっしゃいました。
『ぐすーよー、やどぅんかいぬんちけーっしいちゃびらたい』
→御総様、宿向かい御御使いして行き侍らむ(女性丁寧語尾)。
→みなさん、宿にご案内しましょうね。
『なーまーがなねーかとぅまゆるとぅくるぬあてーあいびーみ?』
→いまや[どこか今晩]泊り居るところの当てはあり侍り居り(疑問)?
→もうどこか今晩泊まるところの当てはありますか?
『わったーやどーうぶんいっちんうんしらーさいびーんたい』
→我達宿は御盆一[番おいし]さあり侍り居り(女性丁寧語尾)。
→わたしたちのやどはお食事が一番おいしいですよ。
『くまんかいいめんしぇーびれー』
→こ間向かい御見え召し侍れや。
→こちらへいらしてください。
『ぬんちけーさびたん』
→御御使いし侍りたり。
→ご案内しました。
『はいさい。ぐすーよーながみちっしうくたんでぃんさーいびらに? でぃーさい、くまうてぃみふぃさあらてぃうじゃんかいいみしぇーびれー』
→はい(男性丁寧語尾)。御総様長道して御草臥れもしあり侍らぬ(疑問)? [さあ](男性丁寧語尾)、こ間居りて御膝洗ひて御座向かい居召し侍れや。
→こんにちは。みなさん長旅でおつかれでしょう。ほらここでおみ足を洗ってお座敷へいらしてください。
『うーふーいちゃびらたい。くまーうんじゅなーぬうじゃやいびーんたい』
→(最上位の行動を促す声)行き侍らむ(女性丁寧語尾)。こ間は御胴[たち]の御座であり侍り居り(女性丁寧語尾)。
→さあ行きましょう。こちらがあなたたちのお座敷です。
『ゆーゆーとぅしみしぇーびれー』
→悠々とし召し侍れや。
→ごゆっくりなさってください。
『ぐぶりーさびら、うぶんぬしこーいなとーいびーんたい』
→御無礼し侍らむ、御盆の[支度]成って居り侍り居り(女性丁寧語尾)。
→失礼します。お食事のご用意ができております。
『あぎじゃびよー。んなくたんでぃんじてぃゆーゆくとーるむんぬ……』
→[あらまあ]。みな草臥れ出でてよう[休み]て居るものの……。
→あらまあ。みんなくたびれてよくお休みだこと。
『ぐすーよーぬゆくとーるとぅくるぐぶりーそーいびーたしが、うぶんぬしこーいなとーいびーたくとぅ、ぬんちけーがちゃーびたんどー』
→御総様の[休み]て居るところ御無礼し居り侍り居りたるとが、御盆の[支度]成って居り侍り居りたること、御御使い[に]来て居り侍り居りたりぞ。
→みなさんお休みのところ失礼しておりましたが、お食事のご用意ができておりますので、ご案内しにきたんですよ。
『ぐすーよー、くまんかいめんしぇーびれー』
→御総様、こ間向かい御見え召し侍れや。
→みなさん、こちらへどうぞ。
『くぬうじゃうてぃうぶんぬしこーいなとーいびーくとぅゆーゆーとぅしくぃみしぇーびれー』
→この御座居って御盆の[支度]成って居り侍り居りこと悠々として呉れ召し侍れや。
→このお座敷でお食事のご用意ができておりますのでごゆっくりなさってください。
『ぐぶりーさびら。しだるさらーさぎやびら』
→御無礼し侍らむ、済みたる皿は下げ侍らむ。
→失礼します。済んだお皿お下げします。
『うー、うになーうとーてぃなみてぃぬくとぅやるはじやいびーんどー。わったーぬいっちんうんしらーさいびーしが』
→(最上位の肯定の返事)、ウニナー居って居って嘗めて(平均)のことであるはずであり侍り居りぞ。我達の一[番おいし]さあり侍り居るとが。
→はい、ウニナーでは普通のはずですよ。わたしたちが一番おいしいですが。
『わったーやうになーぬゆーしゃぬあとぅやくとぅくぬあじぬうふむーとぅどぅやいびーる』
→我達はウニナーの勇者の跡であることこの味の大元ぞであり侍り居る。
→わたしたちはウニナーの勇者の子孫ですからこの味の元祖なんです。
『あんやいびーん。あんやいびーしが、うになーぬゆーしゃぬあとーうふさるくとぅ、うりむっぱらどぅんやれーあんすかでぃきいびらんたるはじ』
→[そう]であり侍り居り。[そう]であり侍り居るとが、ウニナーの勇者の跡は多さあること、それもっぱらぞもであれば[それほど]出来侍り居りたるはず。
→そうです。そうですが、ウニナーの勇者の子孫は多いので、それだけではそうは成功しなかったでしょう。
『くりかーぬっちょーはんぶのーゆーしゃぬあとぅどぅやいびーるはじ』
→こ[の辺]の人は半分は勇者の跡ぞであり侍り居るはず。
→この辺の人は半分は勇者の子孫でしょう。
『ゆーしゃーちょーみーどぅやたくとぅぐねーじぬさちだっちゃるとぅちねーじゅーにんあたいなちくらさんでぃやりとーいびーん』
→勇者は長命ぞでありたること御内儀の先立ちたるときには十年辺り泣き暮らしたと言われて居り侍り居り。
→勇者は長生きだったので奥様が先立ったときには十年くらい泣き暮らしたと言われています。
『ちゅいなーかーるーうにびちっしじゅーにんあたいなちくらちっしじゅーにんみぬちゅらうだびぬあとぅしまからんじてぃくーんぐとぅなてぃねーやびらんどー』
→一人な変わる御根引きして十年辺り泣き暮らしてして十人目の清ら御荼毘の後島から出でて来んごとなりてない侍らんぞ。
→一人ずつ結婚して十年くらい泣き暮らして十人目のお葬式のあと島から出てこないようになってしまったんですよ。
『なーだんじてぃちゃーびらんはじ』
→いまだ出でて来侍らぬはず。
→まだ出てこないでしょう。
『くぬやどぅぬさんべくにんあたいんかいないるはじやいびーくとぅ、うりやかんかしどぅやいびーるはじ』
→この宿の三百年辺り向かいなるはずであり侍ること、それよりか昔ぞであり侍るはず。
→この宿が三百年くらいになるはずですから、それよりむかしでしょう。




