第八十二話 ウニナーぬ勇者
「あれ? もしかしてあの勇者マニアが言ってた調子に乗って死の渓谷を作ったりしたあの桃太郎勇者?」
『ふぐぅっ?!』
「思ったよりダメージ受けてるな」
「『この線から入ってくんな! ばーかばーか!』でしたっけ?」
『ばーかばーかとは言うとらんわい!』
「意外と記憶がはっきりしてるんじゃないか?」
「賢者のことをたまにお母さんと呼んでいた?」
『なんでそんなこと知っとるんじゃ?!』
「四天王の最後の手紙を読んだからだよ」
『な、なん、じゃと?』
「桃太郎あての手紙もあるぞ」
『……おぬしら、いったいなにもんじゃ?』
「オレの父さんがいまの勇者で、辰巳が賢者?」
「別に賢者は適性に書いてあるわけでもないけどな。勇者は適性なんだろ?」
『適性?ってなんじゃ?』
「あれ? 適性診断の水晶玉見たことないの?」
「全員がやるものではないですからね。でも魔導都市なら魔道具として普及しててもおかしくない気がしますが」
『……なんじゃと?! おぬしの父上が勇者じゃと?!』
「反応おっそ」
「情報が多すぎて理解するのに時間がかかったやつ」
『勇者……魔王はどうなったんじゃ?』
「ぎくっ」
「魔王は倒されたよ」
「完膚なきまでに消え去ったよ」
『……なんで棒読みなんじゃ?』
「ところでなんで勇者の話をしていたんでしたっけ?」
「話をそらそうとしている」
「せんせは勇者なの?って聞いたら急にそういう話になった」
『ああそうじゃったそうじゃった。わしもせんせもおっちゃんもみんな勇者の国から来ておっての、ここの料理の味はそれに似とるっちゅう話じゃったの』
「簡単に話がそれた、というかもとに戻った」
「オレも辰巳もその『勇者の国』から来たから当然その味は知ってるよ」
『そうか! そういうことじゃったか。わしより詳しくて当然じゃの。わしはあまり勇者の国のことを覚えとらんからのう』
「あそっか。まだ小さかったんだっけ。たこやきの話する?」
『たこやき! なんだかうっすら記憶にあるんじゃよ。楽しかった思い出が』
『ぐぶりーさびら。しだるさらーさぎやびら』
「あ、いいところに。お姉さん、ここの料理の味付けはオニナパでは普通なの?」
『うー、うになーうとーてぃなみてぃぬくとぅやるはじやいびーんどー。わったーぬいっちんうんしらーさいびーしが』
「なんでそんなに自信あるの?」
『わったーやうになーぬゆーしゃぬあとぅやくとぅくぬあじぬうふむーとぅどぅやいびーる』
「へー! そうなんだ! なるほどー!」
「虎彦、一人で納得してないで説明してくれ」
「あ、そうか。まずこの味付けはオニナパでは普通らしい。でもこの宿が一番おいしいんだって」
「確かにおいしかったですけど、他のところで食べたことがないのでわからないんですよね」
「なんで一番って言い切れるんだ?」
「それはね、ここの人はオニナパの勇者の子孫で、この味の元祖だからだって」
「は?」
「え?」
『この店の先祖が勇者ということかの?』
『あんやいびーん。あんやいびーしが、うになーぬゆーしゃぬあとーうふさるくとぅ、うりむっぱらどぅんやれーあんすかでぃきいびらんたるはじ』
「そうだよねえ」
「なにに納得してるんだろう……」
「あのね、オニナパの勇者の子孫はたくさんいるからそれだけで成功するわけないよねって」
「そんなにたくさんいるんですか、勇者の子孫って?」
『くりかーぬっちょーはんぶのーゆーしゃぬあとぅどぅやいびーるはじ』
「半分くらい勇者の子孫なの?!」
「ハーレム野郎か?」
『ゆーしゃーちょーみーどぅやたくとぅぐねーじぬさちだっちゃるとぅちねーじゅーにんあたいなちくらさんでぃやりとーいびーん』
「十人か?」
「違うよ。十年。勇者は長生きだから奥さんが死んだときは十年くらい泣き暮らしたって」
「おお、十年……なんかごめん」
『ちゅいなーかーるーうにびちっしじゅーにんあたいなちくらちっしじゅーにんみぬちゅらうだびぬあとぅしまからんじてぃくーんぐとぅなてぃねーやびらんどー』
「十人目のお葬式のあと引きこもりになったの?」
『なーだんじてぃちゃーびらんはじ』
「まだ出てこないんだ」
「やっぱり十人か」
「一人ずつ結婚したんだよ」
「ということは勇者が現れたのは数百年まえということでしょうか?」
『くぬやどぅぬさんべくにんあたいんかいないるはじやいびーくとぅ、うりやかんかしどぅやいびーるはじ』
「へー、ここ三百年もやってるんだ! すごいね!」
「勇者がそれよりまえだとすると……」
『わしがこの世界に来たのと同じころじゃろうな?』




