第七十一話 胃薬
「眺めはいいけどそれだけだね」
「サービスもまあ普通だし」
「そうでしょうね」
『(きぃいいぃい~~!!!)』
「じゃあ魔導学院にでも行く?」
「それは明日にしようぜ。腹減ったし」
「あ、オレたち食べちゃったからな」
「そうでしたね。タツ様にもわさびチーズ牛丼を召し上がっていただくべきでした」
「え? なにそれ……」
『軽食でしたらすぐにご用意いたしますが』
「あ、それなら自分の方がうまいから」
「あ、バルサミコ酢サルサささみサンド、いいなー」
「もう食ったんだろ?」
「ばるさむささ……言えませんね」
『(どっから出したの? なんで? うちの飯がまずそうってこと?)きぃいいぃえ~~!!!』
「どしたん?」
「びっくりした」
「がるるる」
『あ、いえ、なんでもありません。ちょっと持病が』
「お薬いる?」
「なんの薬だよ」
「なんかないの?」
『ああ、申し訳ありません。お気遣いなく。たいしたことではありませんから……』
「たぶん胃薬が一番効きそうですよ」
「じゃあこれ」
「飲んで」
『え? ここで、ですか?』
「はいお水」
『ごくり。なにこれ~気分爽快~』
「そんなにすぐ効くかな?」
「胃で溶けて速く効くからな」
『さっきからなんだかえらい人そうで緊張してたんですけど~いい人ですね~』
「あれ? なんか間違えたかな?」
「ちょっと、あぶない薬じゃないよね?」
『こんななんちゃって高級宿に泊まろうとする人なんてたいしたことないと思ってましたけど~お客さん本物っぽいですよね~』
「いろいろぶっちゃけはじめたぞ」
「これ自白させる効果とかありますか?」
「変なことに使おうとしない」
『うわ~高いな~ぼくこの部屋初めてなんですよね~。今日は先輩に押し付けられて~』
「自由な人だね」
「もしくは自由にされちゃった人ですね」
「そんな成分入ってたかな?」
『かわいい猫ちゃん~』
「ぐる?!」
「ちょっと、これもうそろそろなんとかしたほうがよくない?」
「ていっ」
『きゅ~』
「鮮やかでございます」
「いや、鮮やかじゃないよ。ホテルの人に変な薬飲ませてチョップして気絶させたらヤバくない?」
「始末するか」
「ぐる」
「こら」
「困りましたね。始末しましょうか」
「こら。そこの影の人も反応しない」
「……よくわかりましたね」
「どうしよう」
「おふとんに寝かせてなにごともなかったかのようにふるまう」
「あれ? つい寝ちゃったみたい。てへぺろってなるかよ」
「ならないかな」
「洗脳とか」
「こら」
「……冗談ですよ。やっぱり宿の人を呼んでくるしかありませんね」
コンコン
『失礼いたします。なにか粗相があり……えええ?』
「ちょっと気分がよくなって寝ちゃったんですよね」
「普通気分が悪くなって倒れるんじゃない?」
「どっちでも同じだろ」
『お客様のベッドで……大変失礼いたしました。……ちょっと、起きて!』
『むにゃ……パン……』
「ダメそうだ」
「しばらくここで寝かしておくといいよ」
「そうですね。わたしたちはちょっと用がありますので」
『あ、かしこまりました。行ってらっしゃいませ』
「……ふう」
「いいのかな? まあいっか」
「きっと疲れてたんだよ」
「ぐるう?」
「ヒツジ先生にもらった薬なのに」
「そもそもあいつの怪しい薬なんか信用できませんよ」
「ええ……」
「でも『なんかむかつくときに飲ます』って書いてあるんだよ」
「もしかしてそれ胃薬じゃなくない?」




