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第七十話 魔導都市の宿

「それで、これが魔法がまったく使えなくても自立して動作するように改良してさらに超小型化したイヤリング型翻訳魔道具だ。どうだまいったか」


「これは外国での諜報活動に役立ちそうですね。小さな声を聴きとれるようにもできますか?」


「盗聴しようとすんな」


「これを着ければ翻訳されるってこと?」


「そうだぞ。着けてやる」


「ん。んぅ? なんか変な感じ」


「俺の言ってることは聞こえるか?」


「日本語だよね?」


「じゃあこれは?」


「あれ? クマモト語なのに日本語に聞こえる? いや同時に聞こえる?」


「わたしの言葉はどう聞こえますか?」


「いつものエドさんの言葉に日本語版エドさん吹き替えが重なってる」


「ぐるう?」


「チョコちゃんはいつもといっしょだね」


『わたしの話してることはわかりますか?』


「おわ、サツマ語とクマモト語と日本語が重なって聞こえる」


「あれ? 虎彦はやっぱちょっと特殊なのかな? 俺だと日本語ひとつにしか聞こえないんだけど」


「わたしにはキゥミュィァマェントゥ語にしか聞こえませんね」


「なんかいっぱい混ざってて混乱するよ」


「んー、ちょっと調整してみる」


『トラくんは研究しがいがありますね』


「トラ様を研究対象にしないでください」


『そうですよ。わたしが先に勇者様の話を聞くんですからね』


「いやそれも……」


「勇者の話?」


「あ、それは」


『タツ様も勇者様の国からいらしたんですよね? 勇者様の話をしましょう三日ほど寝ずに』


「とりあえず学院資料館に行ってからにしましょうか」


「学院?」


「むかしの勇者関連のものがあるらしいから見たらなにかわかるかなと思って」


「へえ、そんなもの残ってるんだ」


『勇者様の倒した魔王四天王の一人ですけどね』


「魔王? 四天王?」


「あ、あー! その話はあとでゆっくり説明するから」


『わたしが説明しましょうか?』


「いえ、今日の宿に向かわなければなりませんので」


「おお」


『なんならわたしの家で朝まで』


「あ、それじゃあ失礼しますね」


「なんでそんなに急ぐんだ?」


「辰巳、ちょっとだけ黙って」


「ええ……?」



*****



「ふう、一時はどうなることかと」


「逃げきれたね」


「なにから逃げてるんだ……」


「あれは魔王より手ごわいかもしれませんよ」


「魔王が顔見知りみたいな言いよう」


「そ、そんなわけないじゃないですか」


「それでどこに向かってるんだ?」


「宿を手配済みなのでそこに向かいましょう」


「いろいろ隠さなくなってきたな」


「ぐるる」


「チョコちゃんは辰巳たちが魔道具の研究してる間お昼寝してたのか」


「ケーキいっぱい食って寝たら太るぞ」


「ぐう」


「どの口が言うって」


「あ、ここですね。着きましたよ」


「おお、なんだこれ。さっきの塔とはまた違う方向性だけど、やっぱ塔なんだな」


「デカいねえ」


「ここがこの都市で一番快適な宿だという評判だそうです。なぜか上の方の階がいい部屋とされているようです。トラ様たちも抵抗はないようですので、失礼ながら最上階をとらせていただきました」


「おお、最上階」


「王侯貴族か」


「王族だけど」


「宿の人の反応もそんな感じだったそうです。不思議ですね」


「まあ単純に上の方が眺めがいいだろうし、コストもかかってるから高くてしょうがないんだよな」


「逆にえらい人は二階以下にしか住まないっていうクマモトルールのほうが不思議だよ」


『ようこそユシワルシャゼンシデの塔へ』


「ほんとにここで合ってる? ここが一番快適な宿なの?」


「ん? なにか問題あったか?」


「いや名前がなんか」


『お客様は帝王コースでご案内させていただきますね』


「コースってなんだ?」


「最上階をとったらそうなったみたいです」


「たぶんサービスがよくなるんじゃない?」


『そのとおりです。当宿でできるかぎりの最上級のおもてなしをさせていただきます』


「VIP待遇か」


『それではさっそくお部屋にご案内いたします』


「何階?」


『二十四階でございます』


「さっきのひとつ上だね」


『え? ほかの塔の二十三階にいらしたんですか?』


「さっきまで魔道具師組合長と会ってたからな」


『さ、さすがでございますね。この都市に住むものでも二十階以上に上がることはめったにありませんから』


「へえそうなんだ」


『(本物だ。これは本物の王侯貴族だ……)こちらの昇降魔道具へどうぞ』


「そういえばさっきの味噌タルタルカツ丼結構おいしかったよ」


「なんだそれ? 合うのか?」


「たまごと油増量って感じ」


「うまそうに聞こえないな」


『(なんだこの人たち。昇降魔道具にもビビらないで雑談してるぞ?)こちらの魔道具は特別製でして地上から最上階まで五分ほどで到着いたします』


「え? そんなにかかるの?」


「窓があるわけでもないのにそんなにゆっくりされてもな」


『(窓? 昇降魔道具に窓??)』


「全面ガラス張りのやつよくあるよね」


『(全面?! ガラス張り?! よくある?!?)』


「こっちではこれが普通なのか?」


『(普通?! 特別製っていったでしょ?!)』


「五分もかかるならなにか案内とかしたほうがいいんじゃない?」


『え? あ、すいません。ええといつもは昇降魔道具の説明をさせていただくのですが』


「え? なにを説明するの? ただのエレベーターなのに」


『え??』


「え??」


「虎彦、ただ昇ったり降りたりする以外になんか変わった機能があるのかもしれないじゃないか。よし聞こう。説明してくれ」


『あ、いえ、ただ昇ったり降りたりする魔道具です』


「え? なにを説明するの?」


「虎彦、やめて差し上げろ」


『……まもなく二十四階に到着いたします。足元に気をつけてお降りください』


「ある意味めずらしかったね」


「普通一分かからないよな」


『(王侯貴族、怖……)』


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