第六十七話 勇者伝説
『勇者はそのとき持っていた木の枝を振るってこう言った「たこ殴りや!」お供のイゥヌは走って吠え、ゥサルは火の玉を投げつけ、トリゥは剣を突き刺した』
「これいつまで続くんだろ」
「このかたも正気に戻らないタイプの人でしたか」
『こうして魔王四天王の一角であるモモンタクッ・マジナッは倒された。とこういう……あれ? どうしました?』
「えっと、お供がイヌ、サル、トリなのは勇者が決めたの?」
『もちろん勇者様が名付けたと言われています。もしかしてなにか意味があるんですか?』
「むかし話に出てくるキャラなんだよ。その勇者ふざ」
『やはり勇者様は伝説になぞらえてお供を名付けられたのですね! ちゃんと役割通りに振舞うことを重視していたようですからなにか呪術的な意味があったのかもしれませんね』
「そんなことはないと思うけど」
「その、勇者伝説は東のほうが多く残っているそうですけど、どういう理由なんでしょうか」
『そりゃ勇者様は東から来たからですよ。東の外れの海辺に流れ着いた大きな薄紅色の球体に入っていたそうですよ』
「ええ……」
『子どものころにそれを見せられた勇者様は「やっぱわいももたろうちゃうか」って言いだしたらしいですね』
「この辺の言葉とは違うんですね」
『なぜか生まれたときから周りと違う言葉を話していたそうです』
「どこから来たんだろうね?」
『怒られたときの口癖が「せんせにゆうで」だったらしいですよ。みんな意味がわからなかったようです』
「なんかいやな感じがする」
『魔王四天王に捕らえられていた賢者に出会ってからはとてもいい子になったと言われています』
「そのころ何歳?」
『五~六歳だと思います。賢者が十六歳でほぼ十歳差だったはずですから』
「賢者はどこから来たの?」
『賢者は魔王四天王に捕らえられていたんですが、なぜか「四天王は悪くないわ。わたしを保護してくれたの」って言ったそうです。洗脳されてたんでしょうか』
「絶対悪くないやつ」
『倒された四天王も改心してそれからは勇者様と賢者といっしょに暮らしたそうです』
「たぶん最初から悪くないやつ」
「ほかの四天王っていうのはどうなったのでしょうか」
『勇者様たちは見つけられなかったようです』
「ん? じゃあ魔王は?」
『勇者様が作った巨大渓谷に阻まれて魔王はこちらに来れなくなったようです。そのあとしばらく魔法が使えなくなりましたが』
「勇者が魔王を倒したんじゃないの?」
『いいえ、当時国境付近で常にいさかいがあったのを憂いた賢者が仲裁することを勇者様に進言したようですが、その結果キレた勇者様が魔法を暴発させあの渓谷ができたようです。ですから魔王とは直接関係ありませんね』
「え、じゃあ魔法が使えなくなったのは魔王が倒されたからじゃなくて、勇者がデカい魔法を使ったから?」
『まあそうなりますね』
「(なんだ、そうか……)じゃあ魔王が倒されたあとも魔法が使えるのはおかしくないんですよね?」
『ん? まあそうですね。ちなみに勇者様が魔法を使うときには「この線から入ってくんなよ!」と言ったそうです』
「迷惑系勇者じゃん……」
「ずいぶん太い線ですね」
『東の端から魔法を打ったので、西のほうに行くに連れて幅が広くなっています。勇者様が十歳くらいのころの話なんですよ。すごいですよね!』
「すごいかすごくないかで言ったらすごいけど」
「それで結局魔王は倒さず四天王も見つけられずに事故で渓谷を作って魔法を使えなくしたその子はそのあとなにをして勇者と認定されたんですか?」
『え? 四天王から賢者を救った時点で勇者確定ですけど?』
「ザルい」
「勇者が学校を作ったって話を聞きましたけど」
『ああ、学校を整備したのは賢者ですね。四天王マジナッといっしょに孤児院を開いたり保育園や学校を建てたりしたようです』
「めっちゃいい人じゃん」
『この魔導都市の中心にある魔導学院を作ったのもマジナッだと言われていますよ』
「断然そっちのほうがすごいじゃん」
『勇者も学校や魔導学院に通ったそうです。そのときの話が』
「あ、それは結構です」
「賢者様も勇者と同じ世界から来たはずですが、なにかそれについては残ってないんでしょうか?」
『ああ、賢者はねえ、意味わからんですけど「きょういんめんきょとかんりえいようし取っといてよかった」とか言ってたらしいですよ。なんなんでしょうね?』
「絶対優秀なやつ」
『あと四天王マジナッも「僕の研究が引き継げる人に巡り合えて幸せだよ。だいがくでもなかなか理解されなかったからねえ。ここにからすくんがいてくれたら助かったのになあ」とよく言っていたそうです。なにがなんだかわかりませんよね』
「絶対日本人なやつ」
「その四天王マジナッの資料はないんですか?」
『マジナッ学長の書き残した謎の暗号はいまでも学院資料館に展示されてますよ』
「辰巳回収してそれ見に行こう」
『それより勇者様の話もっとしましょうよ~』
「え、いや、もういいかな」




