第六十三話 伝説の魔導都市
「それじゃお世話になりましたー」
『また来てね』
『いつでも歓迎いたしますぞ』
『このお菓子あげるわ』
「ありがと。またねー」
「貿易の件は数日中に連絡の者が参りますので少々お待ちください。……できれば翻訳魔法の腕輪をご用意いただけると助かります」
『ええ承知しました。それではお気をつけて』
ひごっどんのいた町を出て王都のある南のほうへと馬車を進める。
「なんにもないね」
「田舎の割には道路がしっかり整備されてるな」
「この先に翻訳魔法の魔道具に詳しい魔道具師のいる街があるそうです。王都より栄えているとか」
「まえにエドさんが言ってた魔導都市ってやつ?」
「あれは『南のほうに世界一の魔導都市がある』っていうむかしからの言い伝えがあるだけで本当はどこにあるのかわからないんです。王国内にはそんな街はありませんでしたし。ただの伝説だと思っていましたが、これから向かう街がもしそれだったらすごい発見ですね」
「おお、それはわくわくだね」
「むかしの勇者はなんであの渓谷を作ったんだろうな?」
「この国の王にも面会の申し入れをしていますので、王都に着いたらそれも聞いてみましょう」
「何百年も国交がない国から急に連絡が来て慌ててるんだろうなあ」
「大丈夫ですよ。大きな騒ぎにならないよう寝ている間に直接枕元にそっと置いて来ましたから」
「もっと慌てるだろ」
「あ、見て。森の向こうに建物がチラッと見えてない?」
「お? 森の木よりかなり高いぞ。こっちではちょっと見たことない建物だな」
「見張りの塔でしょうか? それにしては違和感がありますが」
「まだ結構距離がありそうなのに存在感あるな」
「なんか高層マンションみたいな」
「まんしょんというのはなんでしょうか?」
「住宅だな。あの窓の一つひとつが部屋で、そこを間借りして大量の人間が住む」
「なんと鳥小屋のような」
「それ以上はいけない」
「王都でも三~四階建てくらいなら見かけたような気がするけど? あれがもうちょっと伸びただけだよ」
「三階より上は使用人の住まいや物置として使うのですが、あれは全部……」
「それ以上はいけない」
「そういえば翻訳魔法の魔道具ってどんな感じ?」
「この腕輪ちょっと解析してみたんだけどな、全然わからないんだよな。ヤギさんの魔道具は見てすぐわかったんだけど」
「難しいってこと?」
「いや、なんかうまく隠してあるっていうかセキュリティーがしっかりしているというか」
「ほえー」
「あの低台の魔道具師めの守りが甘いということですね」
「クマモトだとそもそも魔道具を解析して改造できるような人がいないからあれで問題ないんだけど、きっとたぶんこっちでは偽造防止とか改造防止とかしないといけないレベルで魔道具師がいるんだと思う」
「ヤギさんみたいな人がたくさんいるってことか。高層マンションに引きこもってるのかな」
「いや、引きこもりは関係ないだろ」
「こちらでもあのまんしょんに出前をしているんでしょうか? 鳥小屋に餌を運ぶよう……」
「それ以上はいけない」
「あ、なんか建物が見えてきたよ」
「………………巨大ですね」
「門か? ここから魔導都市ってことか?」
「まえに屋台とか出てるよ」
「おお、門が巨大すぎて小さな屋台とか目に入らなかった」
「やっと森を抜けましたね。あの門までまだしばらくかかると思いますよ」
「うわー。門と同じ高さの壁がずっと続いてるね」
「これ作るのも維持するのも大変そうだな。崩れたりしたら大事故だ」
「欠けもひび割れもないところを見るとできて数年のようにも見えますが、表面はかなり歴史を感じる風合いになってますね。不思議です」
「魔法かな? すごい魔道具が作れるならあの門や壁も魔道具なのかも」
「魔道具は使う人が魔力を与え続けないと動きませんからね。あの規模のものを維持するのにどれだけの犠牲を捧げ続けるのか見当もつきません」
「ちょっ怖っ」
「人間を燃料にするのはやめような」
「魔力を使うなら人間が一番効率がいいのです」
「そういえば魔力って結局なんなんだろうね。魔王がいないと魔法が使えないとか」
「ああっもうすぐ屋台に着きますよ。トラ様なにかお召し上がりになりますか?」
「全力でごまかそうとしている」
「なんの屋台なんだろう?」
「全力でごまかされている」
「ぐるう!」
「あ、チョコちゃん」
「影と先導してくださったのですね。いつもありがとうございます」
「ぐる」
「影とすっかり仲良くなっちゃったな」
「うるぐう」
「串焼きのおいしい店がある? よし行こう!」
「よし」
「全力でうやむやになった」




