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第六十話 門番

「フィゴッドさあおじゃすか?」


『おおカテ、どうした?』


「あれ? 門番さんだ」


『ああ、お客さんがいらしてたんでしたね。フィグォルド様を助けていただいて本当にありがとうございました』


「まあ気にするな」


「辰巳たまにえらそうだよね」


「タツ様はえらいですから」


「全肯定はやめろ。なんか不安になるだろ。ボケてもツッコミがいない……」


『フィグォルド様、本日の報告をしに来たのですが、特に急ぎの用件もないので明日でも大丈夫です』


『ならこのまま晩ごはんを食べていきなさいな』


『しかしお客さんがいらっしゃるのに』


「宴は人数が多い方がいいよ。門番さんも座って」


『お客様がそう言ってくださってるんだから座りなさい』


『ではお言葉に甘えて』


『さっき話した、わたしたちが初めて出会ったときにうちにいた患者さんっていうのがこの子なのよ。本当に危ない状態で』


『ちょ、急になんの話ですか』


「患者のプライバシーとかないんだ」


『マネタとおばあさんの作った薬でなんとか命をつなぎとめたんですよ。わたしもそれで感動しましてねえ。医者のいないこの町に薬草を運ぶ商人になろうと思ったんです』


『フィグォルド様が命がけで運んでいらした貴重で高価な薬草を無償で譲ってくださったからわたしは助かったんだと先代に教えていただきました。このカテ・カンナ、フィグォルド様に心より忠誠を誓っております』


『だからおまえは大げさすぎるって言ってるだろう』


「門番さんはひごっどんが大好きだよね」


「それで一人で危ないところに行くなって言ってたのか」


『カテは弟みたいなもんだからもうちょっと気楽に接してほしいんだけどねえ』


『いまは別のところにいるけどちょっとまえまでうちに住んでたのよ。両親は流行り病で亡くなってたし、この子も体が弱かったから心配で』


『このとおりこの町ではわたしたちに懐いてましたしね。どこに行くにもついて来て』


『わああ! やめてくださいよ!』


「親戚とかに会ったらよく見る光景だ」


『カテ兄は警備兵になったときにお父さまからお祝いにもらった指輪と、むかしお母さまにもらったぬいぐるみが宝物なんだよ』


「ばかすったん! なんよっとか!」


「よくある兄弟げんかだ」


「仲良しだねえ」


「じゃあここでひごっどんのいいとこを発表してもらおう」


「なに急に」


『この人は目利きの商人で特に薬草の品質を見極めるのが得意なのよ。それに優しくて気前がよくて、いつも町の人のためになることばかり考えてるの。どうせ今回もフユッゴロのおじいさんが腰を悪くした噂でも聞いて薬草を採りに行ったんでしょ? ふらふらとどこかへ行ってしまうのがちょっと問題よね』


『お父さまは商人としてどうかと思うわ。みんなの役に立つものを仕入れてくる腕はいいけど、それをほとんどただで配っちゃうんだもの。人柄を売ってお金をもらってるのって商人って言うのかしら?』


『フィグォルド様は町中の人に敬愛されていてこの町を代表する人物です。ヌッカマッのフィグォルドといえば周辺の町村でも知られていて、わざわざ薬を買いに遠くから訪ねてくるほどです』


『わたしはただの商人だよ。売れるものを仕入れてくるのは当たりまえだし、薬だってマネタの腕がいいからじゃないか。困ったときに助け合うのも当然だろう? それなのに町の顔役だのよくわからない会議に出ろだの領主様に陳情しろだの面倒な、いや厄介な……えーとそうだ、身に余るようなことを言われても困るんだよ』


「全部ダダ洩れ」


「それで町の人もすぐ噂してたんだな」


『そういうとこが好かれているんですよ』


「じゃあ次、マネタさん」


『マネタは美しくてかわいくて強くて優しくてわたしを導いてくれる女神だよ。すばらしい薬を作りだす神のような腕前も、患者を救う奇跡を起こし献身的に世話をする姿も、ときどき厳しくわたしを叱る声もほれぼれするねえ』


「なんか始まった」


『お母さまは厳しくて怖いけど、言ってることは正しいってわかるから感謝してるわ』


『あら、そんなふうに思ってたの?』


『この町の住民はマネタ様に一度は叱られたことがありますからね。喧嘩してる人にマネタさんに言い付けますよって言うとおとなしくなりますよ』


『カテ、あとでお話ししましょうね』


『ぼ、僕じゃないですよ!』


「僕とか言い出した」


「次は娘」


『娘って、わたしはデコンよ』


『この子はちょっと礼儀作法ができないのよねえ』


『あれ? ちょっと方向性が違わない?』


『デコンはあちこちで問題起こしてわたしも呼び出されたことがありますね』


『カテ兄?』


『出来の悪い子ほどかわいいって言いますから』


『お父さま?』


「まあ愛されてはいると」


『わたしをほめる番じゃないの?!』


「はい次、門番さん」


『この子はまじめなんだけどちょっと融通が利かないところがあるのよね』


『もっと肩の力を抜いて気楽に生きてほしいんだけどなあ』


『あなたは抜きすぎよ』


『カテ兄は町の女の子から結構モテてるのに「いえ、わたしは職務が」とか言って断ってるのよ。本当は嬉しいくせに』


『あ、あれは仕事中だったから』


『ユルッがフラれたって泣いてたわよ』


「え? ゆ、ユルッさあがおいんこっばす、す、すっなごっ」


『ユルッにはもう新しい彼氏ができたわよ』


「まあタイミングってあるよね」


「『職務が』とかかっこつけもやりすぎ注意だな」


「よかぶいしちょっわけじゃなか!」


『「心より忠誠を誓っております」』


「中二病だな」


『まあまあ泣かない程度にしときなさい』


『……ながないもん』


「門番さんはなんで門番になったの?」


『この町を守るためだ。ぐずっ』


『この子はねえ、フィグがふらふらと町の外に行くたびにあの門でずうっと帰りを待ってたのよ。それでずっとそこにいるなら門番でもやれって』


『カテ兄は「フィグォルド様遅いなあ、なにかあったんじゃないか」ってうるさいのよ。だから門のまえで待ってればいいじゃないって言ったらずっと待ってるの』


『ああっ言っちゃダメって言ったのにぃ』


『なんだ、帰るといつもいるから門が好きなのかと思ってたよ』


「そんなに心配ならついて行けばいいのに」


『えっ?』


『そういえばいつ言い出すかと思ってたんだけどおとなしく待ってるのよね』


『カテ兄は頭堅いから思いつかなかったんでしょ』


『ええええ、……ついて行っていいんですか?』


『別にいいけど』


「冒険は楽しいよ」


『もういい大人だし好きにしていいと思うわ』


『フィグォルド様、置いて行かないでくださいね』


「しばらく彼女はできなそうだねえ」


『ぐぅっ』


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