第五十三話 見覚えがある
「この辺りの魔物を管理している猟師さんです」
「あっけ増えよらっとはよか肉だけん、そろっと収穫しぎゃ行かにゃんて思うとったばい」
「おおなんか言葉が違う気がする」
「ギリ意味はわかるけど言語能力さんもうちょっとがんばってほしいな」
「どんなふうに聞こえてるの?」
「ああ虎彦は翻訳されてないのか。なんか……熊本っぽい?」
「ここはクマモトだよ?」
「いや、そうじゃなくて」
「見えてきたったい。あいがよか肉の魔物たい。うまかけんね」
「昨日トラ様に召し上がっていただいたのもこの肉料理ですよ」
「あれか! 牧場じゃなかったの?」
「まさか温泉を利用した牧場ってこれのことじゃないよな?」
「そいとは別だん。こん肉は天然もんの高級品だけん」
「みんなナチュラルに肉呼ばわりするのやめない?」
「それにしてもあいつどっかで見たことある気がするんだよな」
「ああオレもなんとなく見覚えある気がしてたんだ」
「あん肉はこん国ん名前ばとってキゥミュィァムンヌて呼んどったい」
「クマモン?」
「クマモンだな」
「クマ○ン肉かあ」
「ボケタコといっしょに温泉につかってるやつもいるな」
「それにしても大量にいるね」
「おお大猟ぞ」
「あれ全部獲るの?」
「うんにゃ、あっこに突っ込んでんいかんばい。ぐるいば回ってあっこから出てさるきまわりよらっとば狩ろごたっばいね」
「クマモンがたくさんいるからボケタコは出てこられないし、クマモンは少しずつ出てきてくれて管理が楽ってことか」
「俺一人でん管理しきっけんね。よか狩場ったい」
「どうやって獲るの?」
「さしよりこっち来んね。あっこにクマモンの見ゆっど?」
「あ、ひとりでフラフラしてるやつね」
「ぐるいにほかのクマモンのおらんこつ確認して、おい、クマモン、こっち来んね!」
「え?」
「あ、気づいたぞ」
「首傾げながら歩いてくる」
「なにかに気を取られて道草食ってるな」
「クマモン、はよせんね」
「来た」
「そのまま連れて帰る、こしこんこったい」
「ええ……」
「ついて来るんだ……」
「めっちゃ覗き込んでくるんだけど」
「クマモン、なにしてるの?」
「なんかバタバタしてるな。しゃべらないのか」
「よくわからないね」
「虎彦がわからないならわからないだろうな」
「あまり言葉が通じてしまうのもあとを考えるといろいろ困りますからね」
「あと、かあ」
「どう考えてもこっちの言ってることは伝わってる気がするけどな」
「こんまま大きく育ったら危険だけん、やらなしょんなかたい」
「え? まだ子どもってこと?」
「まあそうか。水場からあふれたボケタコみたいなもんだろ? まだドロヘドリンになってないやつ」
「魔物ですからね。いまは危険がなくても早めに間引くのは対処の基本ですね」
「むかし飼うごて馴らしよったもんのおったとが、一年後に食われてしもうたったい」
「小熊はいくらかわいくてもやっぱり飼うのは危険ってことだな」
「そっかあ。クマモン、元気で出荷されるんだよ」
「元気なポーズしてるな」




