第五十二話 天国と地獄
「いやあいい風呂だねえ」
「どこのおやじだ」
「ぐるる」
「チョコちゃんも満足だってさ」
「トラ様に気に入っていただけてよかったです」
「それにしてもこんな……自然豊かな温泉だとは思ってなかったな」
「本物の露天風呂だよ」
「天然の岩のくぼみに自然に溜まった温泉だと言われていますね」
「でっかい岩だねえ」
「本当に岩なのかちょっと疑問だけど」
「ぐる?」
「岩じゃなかったらなんなの?」
「なんか形がアレじゃん」
「地元ではドクロ岩と呼ばれているみたいですね」
「頭蓋骨を逆さまにしたみたいな」
「こんなデカい頭の動物なんているわけないよな……よな?」
「トンチンカンよりもデカいよね」
「あー、この世界だとありうるのか?」
「この大きさと形だとドラゴンくらいでしょうか」
「ドラゴンなら父さんに聞けばわかるかな?」
「あのとき倒したドラゴンはもうちょっと小さかったと思いますよ」
「これがドラゴンの頭蓋骨だとしても何百年か何千年か経ってそうだよな」
「ドラゴンも温泉に入ってたのかな」
「むしろドラゴンが暴れて噴火とかしてそう」
「ここって噴火するの?」
「何千年かまえに噴火したと記録にありますけど、その一回きりでまったく活動がありません」
「絶対ドラゴンのしわざじゃん」
「まあわからんけどロマンある温泉だな」
*****
「ふう、食ったくった」
「山のなかとは思えない豪華料理だったな」
「ここは地熱を利用して年中収穫できる農法が研究されているんですよ」
「なるほど」
「ちねつ?」
「温泉が出るくらい地面が暖かいから冬でも作物が育つってことだ」
「なるほど」
「また温泉の成分が肥料にもなるみたいです」
「それでこんなにおいしいのか」
「牧場もあるので肉や卵や乳も豊富ですし、料理もよく研究されていますね。地元の人もこの温泉をよく使うみたいです」
「あれ? だれもいなかったけど?」
(にこり)
(貸し切りにしたとは言えないんだろうな)
「ぐるぐる」
「チョコちゃんがなにか話あるって」
「ああそういえばなんか言ってたな」
「がうるる」
「この近くに温泉が湧いてるとこがあって、そこにボケタコが湧いてるらしい」
「うえ、あいつら温泉にも湧くのか」
「ぐるるる」
「そこを餌場にしてる魔物も増えていてもうそろそろあふれてきそう……ってやばいじゃん」
「マジか」
「がう」
「ちょっとこの辺りを管理しているものに連絡してみますね」
「場所だけでも確認しといたほうがいいかな」
「チョコさんに案内していただければありがたいです」
「ぐう」
「いいよって」




