第三十五話 チョコの冒険
「ぐるがう」(起きろ)
「むにゃうすぴ~」
てしてししてもタツが起きない。
まあしばらく旅をしていたから疲れが出たのかもしれない。
寝かしてやろう。
部屋を出て階段を降りる。
右の小部屋が風呂だ。
風呂桶に栓をして魔法でお湯を入れる。
「がうう」
やはりお湯に浸かるのはいい。
なぜいままで入らなかったのか不思議なくらいだ。
タツやトラがいれば体を洗ってくれるのだが、いまはお湯を浴びるだけでよしとしよう。
ぶるぶるっ
魔法で温風を出して乾かす。毛並みがふわふわになってとてもよい。
昨日はタツの父上にもたいそう気に入られてもふられまくった。
最後に手をなめてひげを整える。
キッチンに行くとタツの父上と母上がそろっていた。
「あらおはよう~」
「チョコたん、今日も毛並みがいいな」
タツによると父上はデレモードと崩壊モードがあるらしい。
いまはまだデレモードだな。
「朝ごはんはステーキよ~」
「ぐるるる」
「おおチョコたんうれしいか? 俺もうれしいぞぉ」
若干壊れてきたな。
いい匂いがする肉を食べよう。
タツについて森を出てからいろいろなものを食ったが、やはり人間の料理というものは奥深い。
一度真似をして魔法の火であぶってみたが、こんなふうにいい匂いにはならなかった。
「はふっはふっ」
「あああチョコたん~はふはふしてるぅ~」
これはもう崩壊モード一歩手前だな。
食べ終わるまでは絶対に触らないあたりきちんと教育を受けている感じがする。
「チョコちゃん、ブロッコリー食べる?」
「ぐる」
コリコリもさもさしてなかなかいい野菜だ。
父上の視線がうるさい以外はとてもいい食事だ。
「がう」
「チョコたん~食べ終わった? ブラッシングしよか」
「ぐる」
父上はブラッシングの訓練を積んだかのような熟練の技を持っている。
だが抜けた毛玉の匂いを嗅ぐのはちょっと気持ち悪い。
「うぐるう」
「ん? 出かけるのか? 気を付けてな」
「る」
父上はトラほどではないが異常に察しがいいな。
家を出てぐるっと周りを観察する。玄関、車庫、花壇、塀、裏庭、物置、その屋根に上るとタツの部屋が見える。
あいつまだ寝てるな。
「あ、チョコちゃん、おはよう」
「ぐるるう」
隣の家の窓からトラが顔を出している。
そちらの敷地へ飛び降りるとヒメサマが花壇の手入れをしている。
「あら、チョコちゃん、ごきげんよう」
「ぐるる」
「そうだわ、おいしいトマトが成ったのよ。召し上がる?」
「ぐう」
小ぶりで真っ赤な柔らかそうな実からヘタを取り除いてくれたのでかぶりつく。
甘酸っぱくて爽やかな味だ。のどの渇きを癒してくれる。
「チョコちゃん、お散歩?」
「ぐるう」
「そっか。探検しなきゃね」
「がう」
「辰巳が起きない? あいつは結構ねぼすけだからね」
「トラちゃん、チョコちゃんとお出かけしてきたら?」
「うるる」
「ひとりで行くって」
「あらそうなの? 気を付けてね」
「ぐる」
二人に見送られながら塀に飛び乗って辺りを見渡す。
この二軒の敷地は自分の縄張りとして確定しているが、このままどこまで縄張りを広げられるか確認しとかなくては。
隣の塀の上をぐるっと歩いてみたが特にほかの獣の縄張りではなさそうだ。次。
裏の敷地にはなにかいるな。
「わんっ」
「がう」
「くうん」
大きな獣だが特に強そうではないな。ここは縄張りってことでいいだろう。
「あら、りっぱな猫。見かけない子ね」
「ぐる」
トラの家の裏の人間だ。特に敵意は感じないな。縄張り。
「にゃー」
「ぐる?」
タツの家の裏には変な獣がいるな。もしかしてあれが「猫」か? ずいぶんユルい感じだが。
「がう」
「んにゃ? にゃ~ん」
なにを言ってるのかわからんがここはあいつの縄張りなんだろう。敵意は感じないが謎の余裕を感じる。
まあいい放置しよう。
「あ、チョコ、そんなとこにいたのか。おはよう」
「ぐるがう」
辰巳が起きたようだ。物置の屋根からベランダに飛び移る。
「うわっ。ジャンプ力すごいな。おかえり。どこ行ってたんだ?」
「がう」
「わからないけど楽しそうだからいいか」
タツは一番言葉が通じないが、いっしょにいると安心する。
森で独りだったときに突然現れて「君に決めた!」とか言い出したときはヤバいやつに遭ったと思ったけど、いつもそばにいて優しくなでてくれる。
冒険の旅について来てとうとう異世界にまで来ちゃったけど、これでよかったと思ってる。
「おなかすいた。朝ごはん食べようか」
「ぐるるう」
「ん? 食べないのか? もしかしてもう食べたのか?」
「たっちゃん~もうみんな朝ごはんは済んだわよ~」
「お、チョコたん、おかえり。楽しかったか?」
「ぐるる」
「そうかそうか。父さんと風呂入るか?」
「ぐる」
「よーしよしよし。キタコレ」
「気持ち悪いよ、父さん」
「今日の朝ごはんはピーマンとブロッコリー山盛りよ~」
「なんで?!」
ひと仕事したからもういちど風呂に入ってもいいだろう。
今度はちゃんと洗ってもらおう。




