第三十四話 王城でパーティー
「王城といってもまずは城壁のなかに入る門だな」
「貴族街の塀よりずっと立派だねー」
「そとから見るとこの城壁の内部全体が王城と呼ばれていますね。城壁の周りと上には常に警備兵がいます。正門は王城に入ることを許された貴族しか通れません」
「正門ってことはほかにも門があるのか?」
「裏門がありますが使用人と搬入専用になっています。警備は同じくらい厳重ですよ」
「王城内に住んでる人もいるんだよね?」
「王城には王城警備兵や近衛騎士と使用人、それから特別に許可された食客が住んでいますね」
「ああ、ウマさんとかネズミさんは住んでるって聞いたな」
「鍛冶師長は食客扱いですね。料理長は使用人に含まれます」
「サルさんは屋敷があるって聞いたことがあるような」
「名誉魔法師団長は厳密には魔法師団を引退してますからね。正門のすぐ近くの大きな屋敷がそれですよ」
「さすが名門貴族。ほとんどの貴族は通いってことだな」
「そうですね。正門をくぐってすぐのあの辺の建物が下級官吏のいるところです。あちらが騎士の詰所で奥に宿舎が見えます。半分ほどが通いですが」
「たぶんあの辺が鍛冶工房だよな。煙が出てるし」
「王城の敷地も広いねー。全然見たことないや」
「トラ様は居城からほとんど出たことがありませんからね」
「あの立派なのが王のいる城だよな」
「伯父さんの職場だよね」
「ええそうです。王城内では特にあの城を指して王城と呼びます。上級官吏の執務室もあります。宰相や大臣たちが集まっていつもなにか企んでるところです」
「言いかた」
「さらに奥にまた塀に囲まれた居城があります。ご存じのとおり城とは地下通路でつながっていますが。王城と居城をまとめて王宮と呼んでいますね。」
「あ、あっちの塔が東の塔だね。じいちゃんばあちゃんが住んでる」
「そうです。反対側が西の塔で陛下とご家族がお住まいです」
「塀の周りにいるのは警備兵?」
「キゥミュィァンですね。わたしの元部下たちです。王族専門の警護部隊です」
「ああクマさんかー」
「はいクマさんです」
「顔がだらしないぞ」
「地下通路だけじゃなくてそとにもいたんだね」
「トラ様はほとんど地下通路から出ませんでしたからね」
「ほかに行くとこないし」
「工房とか見に行けばよかったのに」
「厨房ならよく行ってたよ」
「ああそれでつまみ出されてたんだろ」
「料理長すぐ怒るんだよな」
「トラ様のつまみ食いの手腕はなかなかのものですからね」
「え? エドさんなんで知ってるの?」
「珍しく(あ、しまった)って顔してるストーカー発見」
「職務ですから」
「厨房なんて絶対担当じゃないでしょ」
「トラ様担当ですから」
「エドさんオレの担当だったからいつもいたんだね」
「うっそ、そうです」
「正直に吐いて楽になりなよ」
「あ、着きましたよ。さあ降りましょう」
「逃げた」
「逃げたね」
*****
「みなよくぞ無事で帰って来たな!」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「おつかれ」
「あら~おかえり~」
「あれ? 父さん母さん? なんで?」
「うちのもいるぞ」
「エドもご苦労」
「はっ、勇者様。ありがたきお言葉」
「相変わらず固いな~」
「それで帰って早々で悪いが、軽く祝賀パーティーをやろうと思うんだが、どうだ?」
「なんのパーティー?」
「帰ってくるたびにパーティー開く気じゃないだろうな」
「まあその説明も兼ねての食事会だ」
「王様の提案を断れるわけないしおなかすいてるのでいいですけど」
「辰巳、言葉遣いには気を付けなさい」
「はーい」
「ぐるるう?」
「あのね、あれが辰巳のお父さんだよ」
「ぐる」
「チョコちゃんがご挨拶するって」
「あら~かわいい猫ちゃん~」
「ぐるう!」
「辰巳のお母さんだよ」
「めっちゃ最速で懐いたな」
「いつ見てもチォグザィナャッの行動とは思えないですけど」
「信頼関係ってやつ?」
「この猫はどうしたんだ?」
「拾った」
「ちゃんと面倒見れるのか?」
「ぐる」
「チョコちゃん、自力でなんとかしちゃむしろダメだよ」
「る?」
「飼い猫はね、飼いぬしが食事を用意して家も用意してお猫様の奴隷のように尽くすんだよ」
「おい虎彦、どこで得た知識だ」
「ぐー?」
「そうそう辰巳んちでぐーたらして必要なものは全部辰巳に用意させるんだよ」
「ぐる」
「でお父さんは辰巳にその覚悟があるのか聞いてるんだよね?」
「ああそうだ。猫は気高い生き物だからな。もふもふたまらん」
「え?」
「ぐるぐる」
「なでていいって」
「本当か?! では失礼します。うわああああああもふもふだぁ」
「ぐるう」
「父さんって猫好きだったのか」
「キャラ崩壊のしかたが親子って感じするよね」
「俺は別にキャラ崩壊してないだろ」
「夜チョコちゃんなでてるときの顔ああなってるよ」
「マジか。見せられないな」
*****
「というわけでこの四人でパーティーを組んで週末だけ冒険者として活動することにしたんだ」
「どういうわけだよ。週末冒険者ってなめてんのか? ゲームじゃねえんだぞ」
「勇者がいれば危険はないし、そのほかのバランスもとれている」
「どこに行くの? 週末だけだと近場しか行けないよね?」
「ジュリの便利魔法にセーブの魔法があって、いつでも王宮に戻ってこれるし、つづきもロードできる」
「なにそれ便利」
「ゲームバランス崩壊してるんだけど」
「馬車の転移魔法陣を使えば似たようなことはできますが」
「あれって緊急時だけじゃないのか?」
「王宮と馬車の間でいつでも何度でも転移できますよ。都度魔力供給は必要ですが。馬車の安全な置き場所を確保すればいつでも旅の続きができます」
「なにそれ便利」
「王城に戻るルートを体験するのは結構勉強になったからいいか」
「次から一時帰宅は転移でいいよね」
「でもあの高価な馬車の転移魔法陣と同じことができる魔法ってチートすぎない?」
「異世界人チームならなんでもありだよね」
「さすが勇者。常識の破壊者」
「はは、ほめてもなにも出ないよ」
「ほめられてると思ってるのすごい」
「そうだ、父さん三郎太さんに失礼なことしたでしょ」
「三郎太? だれかな? そんな名前のやついるわけないよね?」
「これだよ。やらかした本人は覚えてないっていう最悪のパターン」
「もしかしてボーまみれのジョルジョさんかしら? たしか勇者様が気に入ってそんな名前で呼んでいた気がするわ」
「ボーまみれの……ああ、あいつか」
「冒険者やるならついでに酪農の村に寄って謝っておいてよ」
「なにを謝るんだい?」
「通りがかりに『おまえはジョルジョって顔じゃねえ! 三郎太だ!』って言われて以来いまだに三郎太って呼ばれてるんだよ」
「あら、それは勇者様の名付けよね」
「なにそれ?」
「勇者様が気に入った人間に名前を与えるのは祝福なのよ」
「全然そんな感じじゃなかったけど」
「伝わってなかったのね。いいわ、ちゃんと説明しに行きましょう」
「姫さまが直々に説明に行くなんて幸せすぎてショック死しそうだな」
「もう勇者様ったら」
「はいはい」




