第三十三話 王都
「お、見えてきたぞ。もうすぐ王都だな」
「おー。出るときはあんまりわかってなかったけど、城下町のそとも結構人がいるしもう町だよね」
「門のなかよりそとのほうがほかの町に雰囲気近いかもな。城下町は建物とか道路とかちゃんとしててかなり差があるもんな」
「むかしは門のそとは危険だったので人は住めませんでしたし、屋台も門の周辺にしかありませんでしたよ」
「なにが危険だったの?」
「王都周辺はまだ騎士団が見回っていましたから魔物や盗賊が跋扈するような危険度ではありませんでしたけど、さすがに定住できるほど安全ではありませんでしたので」
「あ、父さんが魔王退治したから?」
「そうです。勇者様のおかげで門のそとでも暮らせるようになりました」
「へー。勇者召喚まえがどんなだったのかちょっと興味あるな」
「オレは安全なら気にしないけど」
「虎彦はどこを冒険する気なんだよ……」
「もうそろそろ門に着きますよ。護衛が周りに増えますが気にしないでください」
「入門者の列ができてる」
「この門はなにをチェックしてるんだ?」
「基本的に城下町に用のある者はだれでも通れますが、王都を追放された者や犯罪者、危険物や違法な物をなかに入れないように身分や身体持ち物検査をしています」
「飛行機みたいな感じ?」
「みたいだな」
「城下町はだれでも入れますが、中心部の貴族街へは限られた人しか入れませんのでご安心ください」
「なかにも門があるってことか」
「出るときも通ったっけ?」
「お二人とも興奮してましたからお気づきにならなかったかもしれませんね」
「城から出るときってなんかいっぱい通るからわかんないんだよね」
「冒険者組合は城下町だよな?」
「そうですね。城下町でも細かい木戸や衛兵詰所なんかが配置されていますので、うち側に行けば行くほど治安が安定しているんですが、冒険者組合はどちらかというとそと側のほうですね」
「そうだ! 冒険者組合で報告?しないと」
「なんかすることあったっけ?」
「ないの?」
「なにも依頼とか受けてないし、売るものもないぞ」
「そのほうが冒険者っぽいのに」
「ああ、特に義務的なものはありませんが、組合長に挨拶させましょうか?」
「組合長のほうに挨拶させるんだ……」
「帰って来たよって報告する! あとペッペに教えたゲームのことも説明する!」
「ああ、そういえばチョコのこともあったな」
「ぐる?」
「一応挨拶しといたほうが余計なトラブルは防げるだろ」
「そうですね。(組合長に連絡を)」
「影さんよろしくー」
「おいやめて差し上げろ」
*****
「よ、ようこそいらっしゃいました。お疲れのところわざわざご足労いただきまして恐縮でございます。冒険の旅はいかがでしたでしょうか?」
「ハゲのおっさん、ちーす」
「虎彦、ハーゲンさんだぞ」
「わかってるよ、ハーゲのおっさんだよね」
「ハーゲン・オッサゥでございます」
「ほら合ってる」
「……」
「それで、今日はなにかご報告があると伺いましたが」
「あ、あのね、酪農の村の近くの森のペッペのことなんだけど」
「ペッペ、あのいたずら好きの魔物ですか?」
「そうそう。ペッペと友達になったんで、ほかの冒険者の人もあまりいじめないでね」
「と、友達ですか?」
「あー、ペッペはそとから来る人間と遊びたいだけらしいんで、適当に遊びに付き合ってやれば害はないってことだ」
「遊びに付き合う、といいましても」
「ゲーム教えといたよ」
「サイコロを振って出た目の数であらかじめルールが決まった道を進むゲームだ。あいつらちゃんとルールを守ってゲームができるぞ。一部の人間よりマシかもな」
「にわかに信じがたいですが……」
「冒険者組合がトラ様のお友達を傷つけるということがどういう結果になるかわかりますね?」
「ひっ」
「ちょっとエドさん、威圧しないで」
「まあ一度森に行ってみればわかるはずだ」
「わ、わかりました」
「あと森で拾ってきた猫のチョコだ」
「ぐるう」
「チォグザィナャッの仔じゃないですか。討伐報酬なら窓口に」
「これは猫だ。俺が飼う」
「ひっ」
「ちょっと辰巳、威圧しないで」
「魔獣を飼う場合の手続きなどあればお願いします」
「あ、特に手続きはないのですが、飼いぬしがわかるように首輪などをしてもらうことになっています」
「あとでかわいい首輪買いに行こうね」
「ぐるぐる」
「トラ様はまるで猛獣使いのようですな」
「猛獣? いないよ?」
「は、ははは……」
*****
「あ、これか」
「そとから見るとかなり仰々しいな」
「貴族街への門ですからそれなりに見た目は大事なんですよね」
「警備兵がいっぱいいるね」
「貴族街を取り囲む塀の周りを警備する兵の詰所にもなっていますからね」
「結構高い塀だね」
「四か所の門以外はずっとこの塀が続いていますよ」
「めっちゃ整列して敬礼してるぞ」
「お疲れー」
「馬車のなかはノーチェックでいいのか?」
「王族であるトラ様はもちろんですが、貴族の馬車もいちいち検査するわけにいかないので、素通りですね。貴族以外の不審者を入れないことが主目的です。まれに出入りする貴族が疑わしいような事件があった場合には検問することもありますが」
「なるほど」
「なかは全然違うね」
「デカい屋敷ばっかりだし、歩いてる人もいないな」
「貴族は基本的に馬車で移動しますからね。使用人も敷地外へは馬車で出入りしますし」
「だんだん屋敷がまばらになってきたな」
「王城に近づくほど高位貴族の居住区になりますので、敷地が広くなり庭園などが備えられているので建物の間隔が空きますね」
「エドさんちはどこ?」
「わたしは王城の警備兵ですので王城内に居室をいただいております」
「あそっか、いつもいるもんね。今度遊びに行ってもいい?」
「トラ様がわたしの居室にですか? くっ、なりません。ほかの警備兵などもいる場所ですので高貴なかたをお招きするような、くっ」
「ずいぶん抵抗してるな。ムリすんなよ」
「そりゃトラ様をお招きしたいですよ! わたしだって! なんという不幸! こんなとき屋敷があれば」
「じゃあエドさんオレの部屋においでよ。それならいいよね」
「!?! なんという幸せ! 屋敷がなくてよかった!」
「エドさん、落ち着いて。キャラ崩壊してる。いや、もともとこうだっけ?」
「だんだん素が出てきたよな」
「もうすぐ王城ですよ!」




