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第三十二話 一時帰宅

「ふぁあ~。眠い」


「四時起きは辛い」


「魚獲りはもっと早く起きてるぞ。俺たちは獲った魚を集めるだけだからゆっくりだ」


「マジか」


「大変だねー」


「これから昨日行った村を回って魚を回収して注文を取って港町に着くころには日が東南の高いところにある」


「九時ころか。昨日も十か所くらい寄ってたからな。結構な労力だ」


「毎日回るの大変だよね。村に冷蔵庫があればもうちょっと余裕ができそうだけど」


「あの冷やす魔道具か? あれがあればそりゃ便利だけどよ、毎日こうやって回るのは商売だけじゃないからな。急病人が出るかもしれないし。よっぽど海が荒れないかぎり毎日出すぜ」


「おお、かしらかっこいい!」


「おほ? あ、うわ、そんなまっすぐほめられるとくすぐってえな」


「村にとっての重要インフラなんだな」


「タツ様、いんふらとはなんですか?」


「ええと、生活を維持するために必要な設備とか仕組み? この船が通ってないと漁村での生活が成り立たないってことだよな。町にとっての道路や港や外壁や自警団みたいなもんだろ」


「なるほど。配達組合もそのいんふらになっていくかもしれませんね」


「急病人が出たときの緊急連絡なんかの体制も取ったほうがいいかもな」


「お、そりゃいいな。医薬師なんかとも連携を考えとこう」



*****



「あー、やっと着いたね」


「なんかすげえ久しぶりに感じるな」


「頭ぁ! (もや)いやしたぜ!」


「ああごくろう! これで船旅は終わりだぜ。これから荷を下ろしてあちこち届けるんだがおまえたちはどうするんだ?」


「お魚料理は昨日ごちそうしてもらったし」


「途中の村で海藻いろいろ分けてもらったし。魔法袋がもういっぱいなんだよな。一度帰って荷物整理しないか?」


「ヤギさんとこ?」


「いや王都とか、あーその先とか」


「じゃあお土産買わなきゃね」


「土産物なら市場の先のこぎれいな店がならんでるとこがおすすめだぜ。いろんなとこから変わったものが集まってるからな」


「かしら! ありがとう!」


「配達組合がんばってください」


「ぐるるる」


「おう! 達者でな!」


「またね!」



*****



「ヤギさんとこでいろんな魔道具見たのもあるけど、この町に集まってくるものをざっと見たらこの世界の技術や文化のレベルがなんとなくつかめてきたな」


「魔よけの香筒とかヒトモドキの耳とかおもしろいものあったね」


「魔よけって言っても熊よけの鈴程度だろうな。うまく効けば遭遇しないで済むけどばったり出くわしたらどうにもならない」


「魔よけにそれほど絶大な効果があるなら勇者様を召喚するほど困ったことになりませんからね」


「なにかこの世界に足りなそうな道具でも開発するか」


「辰巳のほうが勇者っぽいかも」


「いやおまえの父さんは完璧にテンプレ勇者だぞ」


「あれはアレとして」


「タツ様は伝説にある異世界から来た賢者様のようですね」


「なにそれ初耳」


「この世界に初めて魔道具をもたらしたと言われています」


「ヤギさん師匠として重要なこと教えてくれてないじゃん」


「二人とも急に盛り上がっちゃってそんな話する余裕なかったよね」


「う、すまん」


「王宮に戻ったら魔道具の歴史についても詳しい者を手配しましょうか?」


「あ、助かる」


「辰巳のお勉強タイムか」


「虎彦、おまえもなにかやれよ」


「オレは地図を見て次に行くとこ決めるね」


「まあいいけど」


「よし、お土産も買ったしヤギさんにも挨拶したし、準備オッケー」


「帰りに生チーズ買おうぜ」


「魔法袋にまだいっぱい入ってるでしょ」


「意外となかみ把握してるな」


「だって食べてないし」


「日常の料理はともかく落ち着いて開発するような場所なかったからな」


「ヤギさんちの台所はアレだったからね」


「ひどかった」


「じゃあ王宮の厨房でティラミス開発ね」


「だから帰りに生チーズ買ってこうな、な」


「わかったから。ボーにも会いたいし」


「よっしゃ」


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