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第二十九話 配達組合と出前部隊

「町の道を隅々まで知ってる人、町の人の顔をよく知ってる人、脚の速い人、力持ちの人、各商人組合や船乗り組合の人、港の関係者や屋台の人たち、冒険者組合に魔道具師組合、そして町長」


「よく集めたなあ。さすがに大事になった実感が湧いてきた」


「こんな組み合わせが一堂に会することなんて町の歴史上初でしょうな」


「あ、組合長、おつー」


「虎彦、もうちょっとちゃんとした言葉遣いを」


「まあまあ、タツ様。堅苦しいよりは私も気楽でございますから」


「みんなすぐそうやって虎彦をあまやかすんだから」


「トラ様は愛くるしいですからね」


「溺愛の度がすぎる」


「わ、わたし、こんなの、ムリ……」


「あ、引きこもりのストレスが限界?」


「グィネ、わたしの後ろに隠れていなさい」


「エドさん、やるな」


「ぐるるう」


「タツ様、なぜニヤニヤしてるのですか」


「それではお集りのみなさん、これから配達組合の結成と出前事業の発足についての説明会を始めます。お席にご案内いたしますのでなかへどうぞ」


「お、やっと始まるな」


「高台の魔道具師様、タツ様、トラ様、エド様はこちらのお席です」


「うわー完全に主役じゃん」


「もうわたし帰るぅ」


「ひな壇かよ。せめて円卓みたいな感じにできなかったのか」


「発案者ですからね。明らかに立場が違うのはしかたないかと」


「めっちゃ注目されてるね」


「はぅ」


「ヤギさんは挨拶以外黙ってていいから気絶だけしないで」


「挨拶なんてムリィ……」


「はは、高台の魔道具師様のご紹介は私がやりますから軽く会釈か手を挙げていただければ大丈夫ですよ」


「今日の司会は組合長?」


「ええ。流れはある程度こちらで制御できますからあまりご緊張なさらずに」


「みなさんお席にご案内しました。資料もお渡ししてあります」


「ああそうか、ありがとう。それでは始めましょうか」



魔道具師組合長が立ち上がりぐるりと見渡すと会場のざわめきが収まった。



「みなさん、本日はお忙しいなかお集りいただきありがとうございます。司会進行を務めさせていただきます魔道具師組合長のニェョヌィゥ・クリムタゥと申します」


「組合長ってニョニョさんって言うんだ。知らんかった」


「魔道具師組合からは、今回の議題となります配達組合の結成と出前事業の発案者であります、かの高名な高台の魔道具師様、優秀な魔道具師タツ様、そしてお仲間のトラ様とエド様がご参加になります」


「(けだるげに目を伏せてうなづく)」


「よろしくお願いします」


「あ、よろしく!」


「(一礼)」



ちょっと会場がざわついた。“高台の魔道具師様”が人前に出たことはほとんどないらしいので初めて見た人たちが驚いているようだ。



「なんとお美しい」


「あのように若い女性だとは思っていませんでした」


「すべてを冷静に見通すようなあの目。落ち着きあるお姉さまは素敵です」


「高台の屋敷にお一人で隠遁してなさるというから隠居じじいかと思うておったわい」


「陰気で高飛車でいけ好かないやつかと思ってたけどいい人そうだ」


「ほかの魔道具師やらは聞いたこともないが、いったいなにものなんだ?」


「なんかヤギさんすっごい誤解されてるね」


「虎彦、これは勘違い系っていうんだ。こういうときは黙って放置しといたほうがいいんだぞ」


「ご、誤解……勘違い……」


「えー、それではそちらから順に軽く自己紹介してもらえますか?」



最初に町長、次に冒険者組合長、次いで各商人組合からの代表者、それから船乗り組合の代表と港の管理者、屋台の各エリアの顔役、と総勢二十名ほどが挨拶をした。



「ここから本題に入らせていただきます。高台の魔道具師様に代わりまして私のほうからご説明いたします」



んー。眠くなってきたなあ。



「トラ様、あちらで少し休憩なさいますか?」


「んえ? んぅ」


「ぐるう?」


「ゎたしも……」


「高台の魔道具師様、タツ様、あとはお任せいたします」


「えぇ……」


「ん。虎彦を頼む」


「かしこまりました。失礼いたします」



こっから記憶ないけど、どうやら大成功だったらしいよ。


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