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第二十八話 出前

「ただいまー」


「生きてるかー?」


「なんという画期的な発明の数々! さすがは高台の魔道具師様!」


「ぅう……」


「なんとかすべて処理されているようですね」


「ああ、お連れの冒険者の方々、これはすばらしいですな!」


「書類に問題はなかったですか? なにか説明が必要なことは?」


「高台の魔道具師様にざっと解説していただきましたし、特に問題はありませんでしたよ。このまま登録手続きに入らせていただきます」


「二人ともおなかすいてる? 肉とスープとお団子どうぞ」


「ああっおいしそう!」


「そうですな。もうこんな時間でしたか。すっかり夢中になっていました」


「書類を片付けさせていただきますね」


「俺たちも食べようか」


「いただきまーす」


「ぐるるる」


「ふぅ落ち着いたわ」


「いやあ高台の魔道具師様にこんなお弟子様がいらしたとは」


「弟子?」


「だれが?」


「ひぃぅっ?! 睨まないで……」


「こちらのタツ様はこの魔道具師の弟子などではなく、立派に独立した魔道具師様ですのでお間違えなきよう」


「いや、一応魔道具のこと教えてもらったから弟子でもいいけど」


「初めに共同研究と申し上げたはずです。もうお忘れですか?」


「いえ、あの、はい、そうでしたな。はは、ちょっと年でその」


「きっちり訂正してその脳に刻んでいただきましょう。タツ様は、そこの一介の魔道具師単独ではなしえなかった新しい発明を生み出した優秀な魔道具師様です」


「あ、はい、申し訳ございません! タツ様、失礼いたしました。とんだ勘違いを」


「わたしはほとんどなにも教えてなんかいないわ。勝手に理解して新しいことをやり出したのよ。タツ君は本当に優秀よ。わたしの弟子なんてわたしは言ってないわよ。信じて」


「ヤギさん必死の弁明」


「大丈夫。ヤギさんがそんなこと言わないのはわかってるよ。ぽっと出の若造が急に偉大な高台の魔道具師様と共同研究って言われて信じるほうが少ないよね」


「高台の魔道具師という名前が独り歩きしすぎなのでは? この辺で切り刻んでおいたほうが」


「ぴぇっ刻まれる……」


「いやいやいやいや、エドさん、落ち着いて!」


「辰巳にもエドさんの過保護発動?」


「確かにいままで高台の魔道具師様の作品をいろいろと見てまいりましたが、今回の発明は一風変わって斬新で画期的なものばかりでした。それがタツ様の功績と言うことになりますとこれは大変なことでございます」


「そのとおりです。タツ様の優秀さをお認めになるのが賢明です」


「エドさんっていつから辰巳の大ファンになったの?」


「結構怒られそうなことしてた気がするんだけど」


「ツンデレ?」


「ツンデレではありません。物事は正しく評価すべきだと言っているのです」


「カタブツ?」


「そうよ、カタブツなのよ。いつもきっちりしてて融通が利かないのよ」


「虎彦に関してはあまあまだけどな」


「そうよね。どこのおじいちゃんかと思ったわ」


「エドおじいちゃん?」


「ぐふっ」


「効いてるぞ」


「でも父さんと同じくらいの年でしょ? ……エドパパ?」


「うぐぅ」


「すごく効いてるぞ」


「辰巳もやってみたら?」


「え? ……と、父さん?」


「おぅっ」


「あまり変な刺激与えちゃダメよ。思い込み激しいんだから」


「わたしが……わたしが二人を守らねばならんのだ!」


「なんかのスイッチ入った?」


「目がやべえ」


「このスープおいしいわね。赤魚のつみれスープ?」


「ああ、魚市場の屋台にあったやつだ」


「市場の方にはあまり行かないから知らなかったわ」


「引きこもりだもんね」


「ぐ」


「出前とかないの?」


「でまえ?ってなに?」


「注文したものを屋台から家まで届けてくれるしくみだ」


「屋台の集まってる辺りの近所に持って来てくれるのは聞いたことがあるけど」


「町じゅうに届けるのはムリか」


「貴族の使う商店なら家まで来てくれるでしょうけど」


「郵便屋さんとかいないの?」


「ゆうびんってなにかしら?」


「手紙を届けてくれるの」


「手紙はその手紙の配達の依頼を受けた個人とか組合によって違うわね。直接届けてくれる場合もあるし、組合に留め置かれてて取りに行くときもあるわ。依頼内容によっても違うでしょうけど」


「手紙や荷物を配達する専門の業者みたいのはまだないんだな」


「個人的に行商人や冒険者なんかに頼むのが一般的でしょうね。いつ届くかわからないけど」


「各町内の配達組合みたいのを立ち上げれば、手紙や荷物や出前を迅速に届けることもできるようになるな」


「町の間の移動はいままでどおりのルートを利用すれば可能ね」


「なるほど。このようにして新しい発想が生まれてきたのですな。魔道具だけではなく新しい事業まで! これはすばらしいですぞ!」


「うおっ組合長聞いてたのか」


「町の組合長同士の交流会というものがありましてな、商人組合や冒険者組合のものが人手が余っていて新しい事業を立ち上げられないか悩んでいたのですよ。絶対に喜ばれるはずです」


「ほう。余剰人員がいて各組合の連携もとれるならうまくいくかもしれないな」


「この町で試してうまくいけばほかの町にも広がる可能性はあるわね」


「これで引きこもりでも出前できるね」


「でも注文はその屋台まで行かないとできないでしょう?」


「あ、そうか。ネットとかないんだ」


「ねっと?」


「あーええっと、遠くの人と話したり連絡する手段ってないのか?」


「手紙?」


「そうなるのか」


「屋台に手紙を配達してもらって、返事を配達してもらって、注文を配達してもらって、できたものを配達してもらう?」


「ムリだな。なにか魔道具でうまいことなんとかならないのか?」


「無茶なこと言うわね。つまり屋台に行かずに屋台のメニューを見て注文を伝えられればいいのよね?」


「すごく高価な伝心の宝珠はありますけど、すべての屋台とお客さんがそれを持つのは非現実的ですね」


「あ、エドさん復活した」


「伝心の宝珠は高位貴族の一部しか持てない非常用の魔道具じゃない」


「宝珠って言うくらいだから相当高そう」


「おいくら?」


「一組で男爵家が領地ごと買えるくらいね」


「怖っ」


「それって全部の屋台に置く必要はないんじゃない? 出前屋さんが持ってればじゅうぶんだよ」


「……そうか。それだ! 虎彦たまに頭いいな」


「トラ様はいつも優秀でらっしゃいますよ」


「過保護ね」


「出前組合の本部みたいなとこに連絡用の魔道具があって、登録したお客さんとなんとか連絡がとれれば、屋台で買ってきて届けられるな」


「結局その連絡手段が問題よね」


「呼び鈴みたいなやつできないの? この人が用事あるってわかれば聞きに行けばいいよ」


「なるほど。二度手間になるけどそれならできそうだな」


「貴族の屋敷で使う呼び出し魔道具ならあるわ。それを拡張すれば」


「新規事業だけでなく新しい魔道具開発まで! これはワクワクしますな!」


「最近ずっとこれやってるからなれちゃった」


「トラ様は優秀ですからね」


「もう親バカだな」


「うれしそうにニコニコしちゃって。トラ様がかわいいのはわかるけど」


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