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第十九話 風呂

「ああ温まるねえ」


「あー結構疲れが溜まってたんだな」


「ふう、幸せです」


「ぐるる」


「チョコちゃんもお風呂気に入ったんだね」


「虎彦のそれは翻訳されて聞こえてるのか?」


「翻訳? そのままだけど」


「そのぐるるってのでわかるのか」


「わからない?」


「わからん」


「だからか。むかしから学校帰りとかに動物と話してると高確率で変人扱いされるの。みんなわからないのかな?」


「あー、確かに虎彦よく犬猫に絡まれてたよな。あれ、挨拶でもしてたのか」


「そうだよ? 普通に話してたのにむしろいままで気づかなかったのすごいね」


「つまり異世界ではそのような能力が一般的なわけではないんですね?」


「虎彦以外には見たことないし、それもいままで知らなかった」


「言語チートがあってもわからないんだね。なんでだろ?」


「ぐるう?」


「野獣じゃないよ。たぶん」


「逆に人間の話してることは動物たちに理解されてるのか?」


「ぐるぐる」


「わかるって。大体みんなわかってるよね」


「マジか」


「他国で諜報のために動物を使うとかいう話は聞いたことがありますが、そういう能力者がいるのかもしれません」


「噂話くらいなら集められるけど、基本的にみんな人間のことに興味ないと思うよ」


「そりゃそうか。特別訓練されてないかぎりないな」


「別に頼んでおけば監視くらいしてくれるだろうけど」


「マジか」


「……その話はあまりよそで話さないでくださいね」



*****



「ずいぶん長風呂だったわね。簡易風呂三台もあるの?」


「一台にいっしょに入ってたんだよ」


「えっ?! えぇっ? ……そういうことなの?」


「どういうことだよ。たぶん違うぞ。見たらわかる」


「次はヒステさん?」


「わたしは……一人で入るわよ」


「当然だろ。……こうなってる」


「なにこれ?! なによこれ?! 貴族でしょ?! 絶対!」


「貴族じゃないよ」


「まあまあ、湯舟に浸かったら気持ちがわかるから」


「木のお風呂? しかも庶民の使う桶とは違う。なんかいい匂い。これが簡易風呂なわけないじゃない! すごい魔石とか使ってる高級品じゃないの?」


「いいえ、これはまったく普通の簡易風呂だったのですが」


「辰巳ががんばった」


「どんな魔力よ! 簡易風呂なんて普通ちょっと気休め程度の仕切りくらいしか出せないわよ! しかもこれこんなに長時間維持されてるのおかしくない? 普通離れたら消えちゃうでしょ」


「そうなのか? 勝手に消えるもんなの?」


「……普通は、ええ、普通はそうでしたね。麻痺してました」


「唯一の異世界常識枠! 頼むよ」


「エドさんも庶民とはちょっとズレてるよね」


「ああ、きれいなお湯は張りなおしといたから冷めるまえに入ってくれ」


「あ、ありがとうございます。こんなお風呂に入れるなんて夢みたい」


「クさんとはいっしょに入らないの?」


「へ? な、なんでいっしょに入るのよ! そんなわけないじゃない! そんなわけ……」


「虎彦、行くぞ。ではごゆっくり」


「失礼します」


「あとでね~」


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