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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
結末の濫觴
9/71

奇妙な関係

 少しずつ賑わいを感じさせる教室。クラスメイトたちが他愛もない話で盛り上がっている中、聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと綾音であった。顔には絆創膏等が貼られていて痛々しい。


 「おはよう綾音。」

 「……おはよう雨宮くん、何か用?」

 「いや……別に。」


 それだけ交わして席に向かう。取り巻きからどうしたのか尋ねられている様子だ。


 「意外と根性あるんだなあいつ。あんなことがあって俺に毅然とした態度とれるなんて空賊でも中々いないぞ。」

 『確かにマスターに制裁された空賊は皆、怯えたような目でマスターから距離を置いていましたね。綾音様は気高い方なのでしょう。』

 「気高い奴がいじめなんてつまんねぇことするのかねぇ……。」


 そんなことを話していると、ガラガラと音を立てて誰かが入ってくる。途端にクラスは静まり返った。堂々と入ってくる女生徒にクラス全員が黙り込み注目する。


 「このクラスだったんだね。どうも初めまして。私は東雲千歳しののめちとせ。この学校じゃあそれなりに有名人だから名前は知ってるかもしれないけど礼儀だ。」


 昨日、俺の正体がバレてしまった女性だった。友達になってくれと確かに頼んではいたが、まさか本当に友達になろうとするなんて……意外と義理堅いのだなと感心する。


 「それでその……あー……えっと……実は昨日、君を街で見かけてね。大したことじゃないんだが、もし暇があるなら次の昼休みに一緒に……。」


 とはいえ、友達になるやり方をそこまで深く考えていなかったようでどうも辿々しい。俺は早々に種明かしをするため、耳をこちらに近づけるように伝え、周りに聞こえないように千歳に耳打ちした。


 「訂正だ!今すぐ来てくれ!早く早く!!」


 まだ中身が俺であることを伝えると、千歳は興奮した様子で俺の腕を掴み引っ張る。嵐のような出来事だった。


 高嶺の花として知られる東雲千歳が見たこと無いような活き活きとした表情で雨宮蒼音を連れて行った。退屈な日常、どうでもいい話をしていたクラスメイトたちは、その刺激的な話題に盛り上がる。東雲千歳が連れて行ったのが男性だったのもあり、男子生徒たちは苦悶の涙を流し、逆に女生徒たちは黄色い声をあげて早速話のネタにしている。


 「ねぇ綾音……知ってた?あいつ、東雲と付き合いがあったなんて。」

 「知らないわよ、何で私があいつのこと全部知ってないといけないの?」

 「い、いや……。」


 取り巻きの一人が恐る恐る綾音に話しかけると、想像通り不機嫌な返事だった。彩音は苛立ち気味に蒼音が去っていった席を見るのであった。


 東雲千歳しののめちとせに連れてこられた部屋は小さな部屋だった。学校という教育機関に私室があるとは考えにくい。だというのに千歳はまるで勝手知ったる我が家のようにポットを取り出し、インスタントコーヒーを手に取る。


 「あ、コーヒーは苦手かい?緑茶もあるけど。」

 「そうだな、緑茶の方が良いかも。」


 コポコポとお湯が注がれる音がして、しばらくするとティーカップを持った千歳がやってきた。


 「ほら、熱いから気をつけな。どこでも座って良いよ。応接室のようなものはないしね。」


 緑茶の入ったティーカップを受け取り適当なところに座る。千歳もまた座りカップに口をつけた。


 「ここはどこなんだ?生徒が入り浸って良いところなのか?」

 「ここは私に与えられた学習室だから大丈夫だよ。表向きは科学研究部の部室だけどね。改めて自己紹介をしようか。私の名前は東雲千歳。この学校では特待生という立場を一応貰っている。」


 聞くところによると、彼女は極めて成績優秀どころか学生にして既に研究学会にも顔を出している一人前の研究者だという。ニュースでも度々話題になっており、学校としてはこの上ない優秀な存在だというのだ。


 「もっともニュースでは私の容貌ばかりで肝心の研究内容については二の次さ。やれやれ大衆の衆愚化もここまでくると度し難いね。」

 「しかし、そんな凄いなら毎日のようにマスコミが大挙してそうなものだけどなぁ。」

 「そこは政治力というやつだね。私の実家はそれなりに大きくて、そういう連中も黙らせるのさ。私自身の評価とは関係ないけれども、こういう時はありがたい……それよりも。」


 ティーカップを置いて狭い室内でグイッと千歳は俺に距離を詰める。


 「蒼音が戻れなかったということは、まだ中身は異世界の君のままということだね。実に興味深い。私は今それで頭の中が一杯なんだよ。」


 興奮した目で俺を見る。そういうことか。チャイムが鳴った。朝のホームルームが始まる。


 「それじゃあ自分、教室戻るんで……。」

 「逃さないよ。」


 グイッと服を掴まれる。キャプテンドレイク様なら簡単に振り払えるのだが、この体ではそうはいかない。


 「いやでも先生に怒られるし。」

 「私の口添えなら許されるから大丈夫。それよりも異世界のことについてもっと詳しく教えてくれないか。」


 力では千歳の方が上のようで俺は為す術なく千歳に引っ張られて席に戻される。腰をガッチリとホールドし逃さないようだ。息が荒く、ハァハァとした吐息が顔にかかる。


 「悪いが法律で異世界のことを話すのは禁じられているんだ。」

 「む、そうなのか……まぁ確かに影響を考えたら仕方ないか。それなら別の側面で聞いてみよう。」

 「聞き分けが良くて助かるけど別の側面って?」

 「話を整理すると君の肉体と精神はまるで別。しかも精神は同じ人間ではなくまったく常識の違う異世界の知的生命体。これはね、とても希少なものだよ。当然その証明は出来ないので学会発表には繋がらないが……私の好奇心が刺激される!」


 それはそうだろう。だからこそ自分の存在をこの世界の人々にあまり知られるわけにはいかない。最悪、研究対象として解剖されかねないからだ。


 「大事なのは君の主観なんだ蒼音。それはデータでは読めない。まず第一に持った感想を私に教えてくれないか。」

 「う、うーん……いきなりそんなこと言われても特には……。」


 期待を孕んだ視線を向けられるが本当に特にこれといった感想はない。ここは俺のいた世界とは違う世界。何もかもが新鮮で情報量が多すぎる。故に感想が思い浮かぶよりも驚嘆という感情で占められるのだ。

 素晴らしい芸術品を目の前にすると言葉を失う……というのがあるがそれと似たようなものだな。


 「あっ……でもあれはあるな。」

 「!!?なんだいなんだい!?教えてくれよ!」


 ものすごい剣幕で押し倒される。こいつさっきとキャラが違いすぎないか。


 「い、いやだ!なんかお前怖いもん!アイビー!どーせこいつにはバレてんだ!跳ね飛ばせ!」

 『かしこまりましたマスター。』


 合図とともに自動防御魔法を展開し千歳を突き飛ばす。思いの外、強かったのか「う゛っ」とうめき声を上げて身体を壁に打ち付けていた。


 「お、おーい大丈夫か……?でも年頃の女の子が無理やり押し倒すのは……ひぇっ。」


 俺は心配しながら言った。でも、本当は怖かった。彼女は何をしようとしていたんだ?


 「ふ、フフ……こ、これが異世界の叡智か……まさかこの身で経験できるなんて……なんて貴重な経験……!」


 千歳は蹲りながら笑っていた。ニタニタと。


 「……アオトの友達にさせるのが怖くなったぞ。」


 俺は呆れて言った。昨日、友達になってくれと頼んだのは自分だがこんな奴だったとは思わなかったからだ。


 「うーむ、まぁ私自身、アオトのことは昨日の出会い以前にも出会っているのだがあまり印象はなかったなぁ。まぁ他クラスだからというのもあるが。」


 身体を起こし真面目な顔をする。忙しい奴だ。


 「アオトが生きる気力をなくしたのがいじめではないとするならば……まず彼の日常を知ることが大事じゃないか?」

 「……!なるほど、つまりこの学校のアオトを知っている人に情報を聞くわけだな。」

 「そういうことさ。だが……。」


 千歳は立ち上がりまた距離を詰めてくる。しかし今度は真剣な表情だ。


 「ふむ、やはり。言動もそうだが君、いくらなんでもこの世界の高校生になる気がなさすぎるな?ケアはしっかりしないと駄目だよ。その身体だって預かり物なのだから。」


 俺の髪や肌を触りながらそう答えた。身だしなみの類のことなのだろうが確かにそういったことはしていない。するつもりがないからだ。


 「今の君の態度では私以外にもいずれバレる。いいや、バレなくとも不審に思われるだろう。それは望ましくないことだ、違うかな?」

 「う、それは確かに……。けどこの世界のことなんて俺には……。」

 「安心したまえ。だから私がいるんだ。教えてあげるよ、その代わりアオトは感想を教えてくれ。その希少な状態。きっとこんな奇跡は一生起きないだろうからね。」


 なるほどギブアンドテイクというわけか。異世界の情報ではなくあくまで俺が感じた感想だというのなら……確かに法に接触することもない。それに長期戦になるのならどのみちこの世界での協力者は必要だ。


 「分かった。これから頼むよ千歳。友達としてだけでなく協力者として。」

 「勿論だともアオト。いいや異世界からの使者よ。どうか私を退屈させないでくれよ。」


 握手を交わす。奇妙な関係だが、これで俺のこの世界での活動は盤石となったはずだ。

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