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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
結末の濫觴
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さらば異世界よ

 ───見られた。聞かれた。俺の正体。その中身。よりにもよって同じ学校の生徒に。いやまだ手はある!


 「ほう……お前もまた"導かれし者"というわけか。前世の契り交わした同志とこんなところで再会できるとは嬉しいぞエンターシャ!」

 『突然どうかしたんですかマスター、頭がおかしくなったのですか?』


 頭がおかしい奴の真似をしてるんだよ察しろ馬鹿。


 『魔法倫理コード限界時間経過。自動解除します。』


 それはアイビーの自動機械音声。魔法倫理コードの制限を超えると自動で警告し、解除される。これは自衛手段でもあるのだ。もしも万が一、倫理コードを無視したことで世界に悪影響が出てはまずいのだ。

 だが今は、タイミングが悪かった。肉体強化魔法は解除されるプロセスで魔法陣が周囲に浮かび、そして俺の体内へと格納されるように戻っていく。

 俺は冷や汗をかいた。


 「そ、それは……何?」


 ありえない挙動をした謎の装置。少女の目にはまさしくそう見えただろう。そのせいで今の俺のおかしな発言が無駄に信憑性を帯びてしまった。


 「知らない?今、流行りのおもちゃ。税込み4800円。」

 「ありえない挙動してた。物質が自在に変形し宙を移動して再構成するなんておもちゃの域を越えている。」

 「くっ……そうさ!そのとおり!雨宮蒼音とはこいつの名前だが本当は違う!俺の名はキャプテンドレイク!ユグドラシル界よりこの世界に異世界転移してきた、異世界人だ!」

 『マスター、開き直りですか??』


 俺の堂々とした振る舞いにはアイビーも驚きを隠せないが、よく考えれば怯える心配はないのだ。何故ならば……。


 「心配するなアイビー、よく考えたら今日で俺はおさらば。ならば問題はないさ。アオトの悩みは解決したんだからな。」

 「悩み?どういうことだい?」


 最早下手な言い訳は騒ぎを大きくするだけと考え、俺は洗いざらい説明した。事故のこと、蒼音が生きる気力を持っていないこと、そしてその原因は解決したこと。


 「なるほど……実に興味深い。」

 「まぁそういうわけだ。今日のことはまぁ不思議な思い出として胸に秘めておいてくれよ。このとおりだ。」

 「残念だけどそうだね。元より今日のことを他の人に話しても頭がおかしい女と思われるだけさ。」


 それは言われてみればそうだ。正体がバレた焦りからか根本的なことが抜け落ちていた。ともかく彼女には口外しないことを誓ってもらう。

 船の様子を見に行くということも伝えたが、彼女はついてこようとはしなかった。本当に一晩の幻として彼女は終わらせるつもりなのだろう。理解が良い人で良かった。


 「あ、そうだ最後に……。」

 「……なんだい?」

 「見たところ同じ学校みたいだけど、俺……雨宮蒼音の友達になってくれないか?ほら……その、他人事ではあるんだが僅かでも肉体を共にしたよしみだしさ。」

 「変なところで義理堅いんだな。分かったよ。"廊下で弁当を食べるような"変人じゃないなら、私は構わないよ。」


 彼女は微笑み手を振り立ち去っていく。

 ああ、そうか。どこかで見た顔だと思ったら、あのとき出会っていたのか。


 「……なんだよ、意外といいヤツじゃないか。」


 人は見かけによらないものだと思いながら、俺も彼女とは逆方向に歩き出す。


 山奥。トーマスが言っていた隠し場所だ。


 「おうドレイク、お疲れ。いやぁしかしあの大空賊が随分とかわいらしい姿になってまぁ……。」

 「おっさんくせぇぞトーマス、何だ孫でも欲しい年頃か?」

 「空賊なんてしてねぇで普通に家庭を築いてたらそんなのもあったかもなぁ……んで、これからどうするんだ?」

 「それなら明日、復活するから安心しろ。この姿ともお別れだ。」

 「早いな!?生きる気力も湧かなくなるほどの問題ってそんな簡単に解決すんのか?」

 「多感な時期なのさトーマスくん。ほんのちょっとしたきっかけだよ。」


 「はぁ……」と適当な相槌をうつトーマス。

 隠蔽されている船の様子を見る。一見ただの山の一部にしか見えない。これならば問題ないだろう。


 「まぁでも良かったよドレイク。ほら精神は肉体に引っ張られるって言うだろ?ソウルコンバートの事例としてあるんだ。真面目だった奴が急に素行不良になったりとか。だから長期戦にならなくて本当に良かった。」

 「中身がガキになるってか?天下のキャプテンドレイク様を舐めるなよ、外見はこうでも俺の精神性はダンディズム溢れる空の男そのものさ。」


 得意気に胸を張る。

 こうして俺の異世界での、ちょっとしたハプニングは嵐のように終わった。めでたしめでたし。



 「の、筈だったんだがなぁ……。」


 翌朝、憂鬱な気分で登校する。結局あれから雨宮蒼音は一度も目を覚ますことは無かったので、任務は続行だ。


 『いじめ問題は彼の本質的問題ではなかったようですね。もっと別の視点で観察する必要があります。』

 「そんなこと言っても、この世界のことなんてまだそんなに知らないのに……。」


 忌々しげに校舎を見る。これからいつまでここに厄介することになるのだろうか。

 教室に入るとまだ人は疎ら。元の姿に戻れるとワクワクした結果早起きしたせいだ。面倒だが教科書を広げて適当に予習する。自然科学分野はともかく、社会学や文学なんかは流石に勉強しないと分からない。この世界独自のものだからだ。


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