天駆け巡る希望船
「だから何だ。だから犯罪行為が許されると?クズの理屈。自分のことを棚に上げて、強者にすがる。ドレイク、お前は辟易しないのか?無能どもに担がれて。奴らは決してお前に見返りを渡さない。無意味だ。クズは我が身可愛さに人を売る。お前がオーパーツを得たのは……偶然だと思ってるのか?」
魔導中央王朝に潜り込んだのは情報提供があったから。察しが付く。オーパーツにこの世界の位置情報を刻み、俺の魔力を利用して異世界融合に目安点として利用する発想は良いとしても、俺がそのオーパーツをどういう形で、疑いなく手に入れるか理由が必要だった。
一番手っ取り早いのは、それがお宝であると錯覚させて奪わせること。間抜けに信じた俺にオーパーツを奪わせるだけ。
「関係ねぇなぁ!うるせぇんだよアンブロース!誰がとか何とか!俺は俺だ!俺がやりたいからやったことだ!!自分でしたことに!自分ですることに!誰かがどうかとか、関係ねぇんだよ!!」
手を高く掲げる。この身体は雨宮蒼音の身体。無茶をして傷つけるわけにはいかない。やることは一つ。こいつらの作戦、計画、何もかも無茶苦茶にして終わらせる、最高のカードを今ここで切る!
「来い!!ゴールデンッ!ハインドッッ!!!!」
その合図は起動の合図。偽界召喚など関係がない。それは俺の一部であり、俺の切り札なのだから。
山が光りだす。迷彩魔法が解かれていく。消費した魔力は既に回復。いやそれどころか、今この世界は魔力に満ちている。大気を震わせその船は顕現する。船首は照準をつけるかのように動きだす。狙いは……移民船イカロス。
急発進。森を吹き飛ばし、獣たちは逃げ出す。大地を揺らし、大気を切り裂き、突如現れた巨大船は空を飛ぶ。そして急加速し、そのまま空中に浮かぶイカロスに衝突したのだ。
船内は警告アナウンスで大騒ぎだった。大慌てで向かうイカロスの作業員たち。理解不能な出来事が起きたのだ。
空間にヒビが入る。ゴールデンハインドの圧倒的攻撃に耐えきれず空間魔法そのものが破壊されたのだ。そしてそのまま突撃してきたゴールデンハインドの衝角はアンブロースへと直撃する。
アンブロースは何が起きたか理解が一瞬できなかった。目の前に突然出現した船。その船首が自分にぶつかっている。とてつもない衝撃、呼吸すらままならない。
「ドレイクよぉ?本当にいいのぉ?これって一応条約違反なんだけど、俺ちゃん知らないよ?」
気の抜けた声がした。船は自動で動いたのではない。誰かが乗っている。
「構わねぇよトーマス!何せ俺は魔王で、俺たちは空賊!条約なんて、クソ喰らえだ!」
ドレイクの駆る船、ゴールデンハインドには当然、いくつか武装が備え付けられている。ラム、ショットアンカー、音響兵器、チャフ……そして大砲。
大砲の中でも最も威力の高い主砲は、ゴールデンハインドの正面に鎮座している。その形状は船体と一体化しており、船首に固定される。正面に出てくる敵をぶっ飛ばす、ドレイクの性格が分かる兵器だった。そう、船首に設置されているのだ。その名をハイパーカルバリン砲。
アンブロースは感じた。自分の目の前で収束する恐ろしいエネルギー量を。それは人の手では決して届かない膨大な魔力量。巨大な船、兵器だからこそ為し得る超火力。本来ならばそれは要塞や強固な重戦艦をうち貫くもの───。
まさか、まさか、まさかこいつは……正気なのか、正気でこんなことを!!!
「きさっ……貴様ッッ!!恥を知らぬかドレイクきさまぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
怒り狂ったように、呼吸すら困難な衝角の一撃を腹部に喰らいながら、アンブロースは叫んだ。
「正義の味方でも相手してると思ったか?行くぜ!エネルギー充填完了!ハイパーカルバリン砲発射準備!対ショック結界展開!!」
もがくアンブロースだが間に合わない。衝角の一撃はゴールデンハインドの強い魔力が込められていた。治癒だけでも時間がかかり、ここから抜け出すのは手間がいるのだ……!
目の前に、光の粒子が高速で集っていく。さながら処刑のカウントダウンのようだった。
「照準よーし!いや照準いるかこれ?まぁいいや!ドレイクちゃん、承認許可頼むぜ!」
「オーケーだトーマス!ハイパーカルバリン砲!ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
その言葉と同時に、放たれる。莫大な魔力の放出、辺りは閃光に包まれた。その破壊力は神の雷のようだった。イカロスに大穴を空ける巨大な大槍が突き刺さったかのようだった。轟音が大気を震わせ、周囲もろとも吹き飛ばす。
これこそがハイパーカルバリン砲。決して人間一人相手に使うものではない、対要塞攻略兵器である。





