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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
同じ景色、同じ世界
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希望照らすオーバーロード

 「嬉しいぜアンブロース!お前のような王子様に名前が知られているなんて……なぁ!」


 ドレイクはその手を指揮棒のように振るうと無数の炎の剣が形成される。それは先程アンブロースが見たものと同じだが、数が桁違いだった。偽界召喚とは結界魔法。その特性は術者の魔術行使を補助動力として使用することも可能。

 放たれた刃は空間を焼き尽くしアンブロースへと多方向から、まるで意思があるかのように向かう!


 だがその刃は届かない。アンブロースが魔法陣で構成した防御術により無力化されたのだ。驚きこそはしたが、彼にとってこの程度の魔法は容易く防御できるのだ。


 「だが……だがな……ドレイク!魔王とは大層な異名だが、所詮は犯罪者という括りの中での話。不敬者が!真の王たる力をその目に焼き付けるがい…………。」


 数が増えようと自分の防御術を突破できなければ無意味。そう思っていた。

 違っていた。それはただの囮、本命は遥か上空にあった。それは星、無数の星。ロータス・イグノランスが使う偽界召喚とは根本的に違う。星は大きくなっている。あっという間に大きくなっていたのだ。


 「悪いな洒落た名前はてめぇらで考えてくれ!」


 叩きつけられる巨大な隕石。圧倒的質量攻撃。通常の術師であるならばこれで終わっていた。だがアンブロースは違う。王族、ユグドラシル界のトップに君臨するもの。その血統は決して飾りではない。


 即座に異常性を認識し重力魔法を展開、その強度を高め続ける。高密度に錬成された超重力はあらゆるものを吸い込み収束縮小していく。そして出来上がるのは極小ブラックホール。アンブロースの制御から離れたそれは黒点となり、無数の隕石郡を異次元的に吸収する。

 生成されたブラックホールは一つではない。アンブロースの周囲に黒点がいくつか漂う。全てが無限の重力を内包している即死級魔法。


 「諦めろドレイク。なぜ我々がお前を野放しにしていたか理解しているのだろう?決してお前に敵わないからではない。ただの目安、目印に過ぎぬのだ。アオトの身体をソウルコンバートしている理由は分からないが、不純物のお前には出ていってもらおう。お前は場違いなのだ。大義なき戦い。お前のような気まぐれな男に振り回される暇はない。」


 そう、分かっている。あの時、偶然オーパーツを見つけて、この世界に転移した。そう思っていた。だがそれは違う。何度も繰り返した世界で、俺は必ずこの世界に来ていた。ありえないことだ。そこには偶然を必然とするものがあった。それこそがあのオーパーツの本質。この世界の座標は、あのオーパーツに刻まれていて、それが俺とゴールデンハインドを導いたに過ぎない。

 つまり……綾音は理解していないが、連中を招いたのは俺だ。それを伝えて時間逆行すれば俺はこの記憶をもとにオーパーツを使用しないで、この世界に来ないという手段もありえる。


 だが手遅れだ。もう綾音は時間逆行の能力者だと知られている。そして、俺がこの世界に転移するのは綾音がそのウタカタに覚醒する前の話。即ち、異世界融合を止めるには彼女は無力とならなくてはならない。できない話だ。


 連中は既にこの世界への行き方を確立しつつある。少しずつ自分たちだけでこの世界に転移する術を身に着けている。もしかしたら、次の時間軸では異世界融合なんて手段を使わなくても、転移ができるようになっていて、邪魔な綾音を殺し、ゆっくりと俺を使わずに異世界融合を行い、この世界の人々に強制的にウタカタを覚醒させることだって可能かもしれない。

 リスクの大きすぎる賭け。それも一度きりの。

 だから……だから彼女は何もできないのだ。時間逆行というチート級の能力を得ておきながら、狡猾に、まるで蛇のように、アンブロースは確実に追い詰めていたのだ。


 「……アンブロース、てめぇは俺がなんと呼ばれているか知っているか?」

 「何だ突然……"魔王"だろう?大層な名前だ。自称しているのならやめた方が良いぞ?恥ずかしいにも程がある。」


 確かにそれもあるが、そう呼ばれるようになった経緯がある。卓越した魔法の使い手だから?残虐極まりない悪徳を積み重ねてきたから?そんなものは全て後付けだった。本当の理由は別にある。


 「元から俺は義賊として活動していた。てめぇからすると犯罪者であることに変わりないし、俺自身別に犯罪者であることを否定するつもりはない。それでもたくさんの人々を救ってきた。」


 無力感。停滞した社会。貪るように奪われる日々。

 ユグドラシル界は異世界航行技術を使い、数多の世界を移動していた。繁栄の影には犠牲がある。人攫いなど当然のように横行し、奴隷として見知らぬ世界で使われるものもいた。ドレイクが開放した奴隷たちの中には、元の世界が破壊し尽くされ、戻れなくなってレジスタンスに身を落としたものもいる。

 彼らは力が欲しかった。希望が欲しかった。自分たちのしていることが間違っていないと認めてほしかった。


 「人々は皆、願ったんだ。閉塞した絶望的な世界を誰かが変えてくれないか。シンボルが欲しかった。例えそれが国に弓引く極悪人であろうとも、希望の光が欲しかった。王国に立ち向かう力の象徴として!王政に立ちはだかる、もう一人の王として!!故に呼んだ。人々は俺を魔王とッッ!!」


 それが魔王の真実。そして空賊キャプテンドレイクの正体である。ドレイクには何もない。従えるものはいないし、守るべき国もない。ただの象徴として、人々の希望としてそこに君臨したのだ。誰もが胸に抱く、実在しない理想郷の王として。

 彼が今、ここに立つ理由はそれだけで十分だった。例え世界が違えど圧倒的な暴力に虐げられ絶望している少女一人を守れずして、何が王だというのか。何が希望だと言えるのか───!

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