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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
結末の濫觴
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告解

 「命じよう、我が理を以て……!放てッ!!」


 射出。炎の剣は一斉に目標へと向かい凄まじい勢いで放たれた。

 だがその剣はアンブロースに刺さることはなかった。狙いを逸らされた。重力魔法の厄介なところである。

 アンブロースは愕然としていた。冷静に対応はした。炎の剣は躱した。しかし今のは……今のは……。


 「我が子らよ、我が願いに応じて集え。星辰は砂となり無限の宇宙を描け。」


 更にの周囲にきらめく星空が出現。いいや違う、星空に見えるものは全て砂粒。ただし普通の砂粒ではない。全てが魔力を有した星粒。星の子であり粒子であり、光子である。

 その星空が重力魔法により展開された黒い渦に向けてなだれこむ。無限にも近いその質量、魔力を受け止め黒い渦は力を弱める。


 同時に距離を詰める。重力魔法は無効になった。肉体強化魔法を最大限に引き絞り、そして放つ鉄拳。その一撃は圧倒的な力をもって致命的な一撃を与える。


 「お前は───誰だ。」


 その一言で瞬時に障壁が形成される。魔力により構築されたその障壁は極めて強固。アンブロース自身が高度な魔法使いであることが分かる。

 まるで壁を叩きつけたような感覚。アンブロースに漂う空気はまるで変わっていた。


 「今の一連の所作はウタカタではない。明白だ。高度な魔法の使い手、お前はこの世界の人間だ。それは間違いない。だが先程の魔法は付け焼き刃などではない。熟練した戦士の術。誰だ、お前は誰だ。アオトはどこへやった。」


 怒りが込められた言葉だった。ただならぬ怒り。今まで楽観的な態度を見せていたアンブロースが初めて怒りを露わにする。


 ジリリリリリリリリリリリリリ!!!


 けたたましい音が船内に鳴り響く。警報音だ。あれだけ派手に船内を破壊したのだから当然といえば当然。


 「緊急事態発生、機密コードエリアに侵入者を確認しました。直ちに排除してください。」


 警報音の原因は一連の騒動ではなかった。侵入者という物騒な響き。会場の皆が騒ぎ出す。この船内に知らない何者かが入ってきたのだ。


 「侵入者だと?どういう……ことだ。万全の警備をしていたのではないのか。」


 アンブロースも想定していない出来事だったのか、その報告を受けて困惑を隠しきれない様子だった。

 俺自身、何が起きたのか、理解できなかった。唖然と立ち尽くす俺の腕を、誰かが力強く掴んだ。振り返ると、あのスーツを着た綾音の姿があった。彼女は何も言わずに、俺を引きずるように走り出した。抵抗することもできなかった。どこへ連れて行くつもりなのだろうか?俺はただ、彼女の後ろ姿について行くしかなかった。


 パーティー会場から遠く離れた一室。粗野なつくりで綺羅びやかな来客用のエリアとは異なる。恐らくは船員用の部屋だろう。


 「クソッ何なんだ一体……綾音、お前何か知っているのか?なんであいつの名前を知っているんだ。」


 次々と起きる出来事に頭の中で整理がつかない。綾音ならば何か知っているのではないかと尋ねる。自分と同じ顔をした見知らぬ者。アンブロースとは何者なのか。


 「馴れ馴れしく名前を呼ばないで。」


 冷たく、そして怒りが籠もった抗議の声だった。明らかな嫌悪を見せる。


 「間違いなく、その身体は雨宮くんのはず。だって入れ替わったなんてありえないもの。でもそう、確かにそうなの。お前は誰なの、雨宮くんはどこにいったの。答えなさい。」


 綾音は涙ぐみながら叫んだ。彼女が雨宮蒼音だと思っていたものが偽物だったということなのか。彼女は信じられなかった。彼女は雨宮蒼音を取り戻したかった。


 そういえばそうだ。今まで自分の正体を教えたものは雨宮蒼音とそこまで親しくない者たち。初めてなのだ。彼のことを知っている、親しい間柄であった相手にこの秘密を打ち明けるのは。

 当然の反応だった。自分の友人が意味の分からない存在に中身が変わっている。不気味であることこの上ない。


 「返してよ、お前が何者なのか知らないけど、どうして雨宮くんなの。返してよ!!」


 俺の胸ぐらを掴み言い寄る。彼女の目には涙が溜まっていた。悲痛な表情はまるで何もかもが手遅れになったのではないかと、怯える子供のようだった。


 「ち、違う……事情があるんだ。俺だってこんなことしたくはなかった!」

 

 俺は必死に弁解した。これまでの出来事を。俺の本当の名前はキャプテンドレイクで、不慮の事故で雨宮蒼音を瀕死の状態にしてしまったことを。

 そして適切な治療を施したはずなのに、意識が戻らないのは蒼音自身に問題があるということを。


 荒唐無稽な話なのは自分でも分かっているが、それでも俺は真摯に伝えた。それが蒼音と交流のあったものに対する礼儀だと思ったからだ。


 「ああ……あぁぁああぁぁぁ……。」


 意外なことに綾音は俺に怒りや悲しみをぶつけることはなく、顔を両手で覆い泣き崩れた。信じてもらえたのはありがたいが、まさかここまで鵜呑みにしてもらえるとは思わなかった。


 「だ、大丈夫だ。身体は問題ないんだ。いわゆる脳死みたいな状態でもない。精神こころの問題なんだから、いずれ目が覚めるさ。」


 もしかすると蘇生が絶望的なのではないかと勘違いしてしまったのではないかと思い、俺は説明に補足する。


 「違う……違うの……あなたの説明は正しい。きっとこうしてこの場にいるのはあなたのおかげ。雨宮くんが目を覚まさないのは……他ならぬ私のせいなのだから。」


 涙を流しながら、悲痛な声で絞り出すように綾音は答えた。自分のせいだと。

 そういえば気になることがあった。アンブロースの言葉。綾音のウタカタは時間を巻き戻すもの。そしてそれにより起きた奇跡。何度でも繰り返すという言葉。


 「綾音……お前一体何を抱えているんだ?」


 恐る恐る口にする。

 綾音は観念したかのように、静かに語り始めた。今までの出来事を。

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