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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
結末の濫觴
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世界とのバイパス

 移民船イカロス外殻部。巨大な船体を浮遊させる動力は未知の技術であり、この世界で解明できるものは存在しない。

 その航空目的上、外部は基本的に完全に封鎖されており、メンテナンス用のハッチとハシゴがある程度である。高度にして数百メートル。超高層ビルに匹敵するその高さに突如出現した物体。当然の如く強烈な風が吹き荒れ、気温も地上と比べて低い。

 そんな過酷な環境下であるというのに、生身の人間が一人、しがみついていた。


 一人の男が風に煽られながら、巨大な機体にしがみついていた。それはこの世界に存在しない乗り物だった。異世界からやってきた移民船イカロスだ。その上部甲板は数百メートルの高さにあった。超高層ビルに匹敵する高さだ。当然のことながら、強烈な風が吹き荒れ、気温も地上と比べて低い。


 そんな過酷な環境下であるというのに、彼は生身でイカロスに登っていた。その名は火柱義焔。ウタカタ革命党の当主である。火柱はイカロスの中に零士がいると確信していた。

 零士は火柱にとって許しがたい存在であった。イカロスに侵入する方法を探したが、ハッチのようなものは見当たらなかった。

 そこで彼はイカロスの継ぎ目や凹凸やハシゴを手繰り寄せて、まるでボルダリングのように少しずつ上部に登っていった。その執念は既に人のものではなかった。


 「ハァ……ハァ……おのれ零士……このようなものを我が祖国に招き入れるなど……義士の風上にも置けぬ愚劣……!」


 息を切らしながら呟いた。昔はこの程度造作もなかったというのにと、自身の老いを憂いながら一息つく。


 「ステルス機……否、潜水艦のようなものか。」


 改めて移民船イカロスの上部甲板から見渡し、火柱はこの世界に存在する乗り物の類似性と当てはめる。その人並み外れた洞察力もまた火柱の武器の一つであった。彼の頭の中には既に、イカロスの外部構造がシミュレートされている。そして通常の侵入方法は困難であると結論づけた。

 機体に触れる。外壁の感触は見たことのない合金。おそらくは異世界の科学。しかし火柱の目的は外壁の材質を確認するためではない。少し移動してまた手を外壁に当てる。それを繰り返すこと数十回。


 「ここか。」


 そう呟いた瞬間であった。バコン!というけたたましい金属音。火柱が触れた部分の外壁が破壊されて、穴が開いたのだ。穴に飛び込んだ。

 着地。船内は無骨で薄暗い。周囲を見渡す。誰もいない。


 「さて零士よ……いつまでも貴様の思いどおりになると思うなよ?」


 火柱は不敵な笑みを浮かべ、歩き始めた。


 直感的なものであった。それを見つけたのは偶然なのか運命的なのか。広大な船内で火柱が侵入したエリアはトップセキュリティエリア。だが来賓を招くものではないのは内装から明白であった。ではなぜセキュリティクラスがトップクラスなのか。火柱はすぐにその答えを知ることができた。


 あからさまに厳重な扉だった。まるで銀行の金庫のようだった。あるいは核シェルターか。複数の認証を突破してようやく侵入できる厳重に扉。このエリアに入ること自体が困難であるのに、更にまた認証を要求される。それくらい重要な場所なのだ。

 そして今、火柱はその区画の内側にいる。外壁を破壊して侵入。セキュリティは想定していなかったようだ。もっともそれは常駐セキュリティの網にかかっていないだけで、すぐに船の破損と判断し警報音が鳴り響くだろう。

 火柱は奥にある扉に手をかける。鍵はかかっていなかった。


 「これは……。」


 室内は会議室を兼ねた研究室のようだった。無造作に書類がいくつも束ねられている。その中で適当な書類を火柱は掴んだ。


 それは此度の事件……異世界融合計画の詳細であった。火柱もある程度は零士から聞いている。異世界との融合により情勢は混乱するということ。ウタカタという能力に人々が目覚め、治安の悪化が起こりうるということだ。

 報告書と思わしき書類を読み進める。


 現時点ではこの世界への移動手段は少数でしか行えない。魔力のない世界でのバイパス接続は困難であるためだ。

 解決。超常的魔導器、いわゆるオーパーツにこの世界の座標をセッティングする。そうすれば奴が使用して世界とのバイパスが確立される。奴が持つ魔力は甚大で、その存在だけで世界との融合に影響を与えるからだ。以後、座標入力及びオーパーツの盗難を忘れないよう注意。注釈、奴との接触は極力避けること。勘が鋭く我々と同じユグドラシルの人間であるため記憶の継続が起きている可能性大。


 実験によりこの世界の特異性が判明した。魔力の存在しない世界。そして起きる化学反応ウタカタ。魔力が存在しえないからこそ起きた奇跡である。

 ・高濃度の魔力を注入すればよりレベルの高いウタカタを得られるのではないか?拉致した原住民をいくつか実験として高濃度魔力を注入。

 ・結果、失敗。魔力が存在しない世界であるがために、そこに住む人々は、いや生命体は魔力に対しての免疫不全。僅かな魔力は薬になるが、高濃度なものは毒となる模様。実験体は皆、死亡を確認。

 ・補足、ただ死亡したわけではない。その死亡過程で様々な希少な現象を見ることができた。人間以外の生命体に対しても同様のことを施した結果、ユグドラシル界にも存在しない新たな物質の誕生を確認。物質は材料科学的に優れた性質を有しており、ユグドラシル界のさらなる発展を約束するであろう。

 ・此度の現象を"魔力変容反応"と称する。

 ・ならばやることは一つである。この世界に、融合した世界にゲートをつなぎ大量の魔力を散布する。素材は大量にある。その変化が今から楽しみで仕方がない。


 報告書を掴んだ手に力が籠もる。

 ぐしゃりと握り潰す。火柱は怒りの形相を浮かべていた。

 この計画が意味することは虐殺である。それも全世界の。わが愛しき祖国が、美しき大地が、異世界の訳の分からぬ連中に穢されるというのだ。


 ジリリリリリリリリリリリリリ!!!


 突如鳴り響く警報音。明白であった。ついに発覚したのだ。自分の侵入が。だが構いはしない。すでに火柱の魂には強い炎が燃え盛り始めた。己が大義と信念はより深く燃えたぎる。


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