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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
結末の濫觴
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少年と魔王

 時は遡り、ユグドラシル王歴21538年。そこは剣と魔法の不思議な世界。魔導中央王朝はユグドラシル法をもとに世界を支配していた。しかし、その法に反抗する者たちもいた。彼らは空賊と呼ばれ、魔導帆船に乗り世界を駆け巡った。


 「おいアイビー!もっと航空速度上げろ!!」


 魔導中央王朝から一隻の魔導帆船が猛スピードで飛び出す!そしてそれを追いかけるかのように数隻の魔導警備隊!そのシンボルマークはユグドラシル法の執行者の証だ!


 彼らは空賊。魔導帆船に乗り世界を駆け巡る!そしてその船長を務めるキャプテンドレイク!『魔王』の異名を持つユグドラシル界を荒らし回る最悪の犯罪者だ!そしてその相棒であるAIのアイビーと航空士のトーマスである!


 『前方に戦闘用警備艇が複数。砲身は全てこちらに向けられています。マスター、脱出の準備を。』


 圧巻だった。このドレイクの駆るゴールデンハインドを取り囲むように、無数の攻撃艦隊。一斉掃射で塵一つ残らないだろう。だがその程度のことは、魔王と呼ばれたドレイクにとっては想定の範囲内だった。


 「アイビー、そいつは違う。ここは突き抜ける!たかが数十隻で、この俺を止めようなんざ傲慢も良いところだ!」


 ドレイクは手をかざす。精神を集中させると周囲に魔法陣が五重に現れる。そして唱えるのだ、彼が魔王と言われるその所以を!


 「炎よ、風よ、精霊よ。我が声に耳を傾けよ。我が意志に従いて、我が力となれ。我が敵はここにあり。全てを灰に帰せ!」


 彼の周囲に展開された魔法陣は空に向かい、そして拡張化。その詠唱を終えた瞬間、炎の渦が巻き起こった。炎と風の複合魔法、炎を纏う荒らしである!

 戦闘用警備艇はその炎の嵐に巻き込まれ次々と墜落していく。ひとたまりもない、災害級の高等魔法なのだ。


 「待ちやがれドレイク!今日という日は逃さねぇぞ!!」


 だがそんな炎の嵐をものともせず突っ込んでくる警備艇が一隻!彼はよく知っている。名前など知りたくもないが、卓越した操舵技術と防御魔法でドレイクの魔法をかいくぐり、そして最後までしつこく食らいつく宿敵だ!


 「くそっ、またあいつかよ!ストーカー野郎が近寄るんじゃあねぇ!!」


 魔導弾を放つが躱す!躱す!躱す!悔しいが、認めたくないが、おそらく操舵技術だけで言えば奴のほうが格上。ドレイクは認めざるをえなかった。


 『追っ手は小型ですが最新型です。このゴールデンハインドでは航空速度が負けます。いずれ捕まるでしょう。』

 「冗談だろ!?おいトーマス、アイビーのデマに反論してくれ!」

 「無理だな、あいつら相当だぜ。義賊ドレイクもここまでかぁ……南無阿弥陀仏。」


 勝手なことを言いやがる。なにかないかとお宝……オーパーツと呼ばれる超常的魔導器を漁る。王朝が隠し続けている太古の遺産だ!

 その中で、何やら強い魔力反応を示すものがある。今まではこんなことはなかった。


 「見せてみろドレイク。珍しい、空間属性の魔法を封じ込めた魔導器だ。この船の無茶にあてられて目が覚めちゃったか?」

 「空間属性魔法っていうと時空転移か!?アイビー!すぐにこの魔導器をゴールデンハインドにセットしろ!逃げ切れるぞ!」

 『かしこまりました。異次元転移使用可能。衝撃準備推奨。』

 「OKだアイビー!ワープ準備完了!行き先は……逃げ切れるところだ!」


 愛船ゴールデンハインドの目の前に、突如としてワームホールが開く。ドレイクは迷わずその中に飛び込んだ。時空を超える瞬間、彼は自分の幸運に感謝したのだった。

 一方、彼を追っていた魔導警備隊は、またもや手が届きそうなところで彼を見失った。悔しさに舌打ちしながら、次のチャンスを待つしかなかった。


 『航路安定、振り切りました。お疲れ様です。』

 「ふぅ~今度のはやばかったな、んでここはどこよ?」

 『わかりません。まるで見当がつかないのです。』

 「おいドレイク!くだらねぇこと話してないで戦利品を確認してくれ。」


 ドレイクは空賊として名高いが、その活動は義賊である。彼は今回の戦利品として手に入れた箱を開けた。中から出てきたのは、少年奴隷だった。恐怖に震える少年の瞳に、ドレイクは優しく微笑んだ。少年の恐怖は臨界点を超えて、涙がボロボロとこぼれる。


 「これで百人目だなドレイク。また賭けは俺の勝ち。いい加減、自分が人相悪いこと認めたら?おーよしよし。あのおじさん見かけどおり悪人だからその反応間違ってないぜー?」


 トーマスは泣きわめく子供をあやしながら装置を取り付ける。そして装置は輝きだし消えた。異次元世界……子供の元いた世界に返還された。


 「ううむ……表情筋のトレーニングはしてるんだが……。」


 そう呟きながら、俺は顔を歪めたりほぐしたりしてみた。


 「美容整形した方が早いんじゃねぇか魔王様、カカカ。」


 笑いながらトーマスは他の戦利品を漁り始める。大物はあれくらいで他は小物。

 異世界転移技術が確立してこの世界では革命が起きた。技術革新。新しい技術の数々。そして同時に表に出ない深い闇。今のがその一つだ。

 手口は簡単で異世界から人を攫い奴隷にする。被害者家族は異世界にいるので訴えられないし、攫われた本人は元の世界に帰れないので奴隷になるしかない。当然そんなことは法では許されないのだが、まぁそこはよくある特権階級の人間による悪趣味……裁かれない人たちが自由に好き勝手やれるってわけだ。


 「よし完了っと……おおっ!?なんだアイビー!」


 突如船体が揺れる。状況確認をするためアイビーに呼びかける。


 『想像以上に魔力を消費していたようです。やはりおかしいです。この空間には魔力反応がまったくないのです。周囲の環境状況の確認が完了しました。これは……。』

 「おいドレイク!やべぇやべぇぞ!」


 アイビーとトーマスが異変に気づいたのは同時だった。


 「なんだよ、俺だけ仲間外れか?」

 「いいかよく聞け?ここは俺たちがさっきまでいた場所とまるで環境が違う!何だここは……まるで、まるで……今までとは知らない異世界だ!!」

 『全データベース照合終了。ここは記録にない異世界……つまり新世界です。やりましたねマスター。』


 ───異世界。

 それはユクドラシル世界において確立された時空間転移魔法により行き来可能な世界である。貴重な発見が多く見つかる一方で、その文化を侵害することは禁じられていた。法律で厳しく規制されていたのだ。

 しかし、今回の異世界は特別だった。魔力がほとんどないという、前例のない世界だった。


 「了承だ、操作をマニュアルモードに変更しろ。」


 キャプテンとして、今するべきことは一つだった。


 「アイビーはギリギリまで代替魔力生成プログラムコードを計算!トーマスは空間変化を報告し続けてくれ!操舵は俺一人で十分!持ってくれよゴールデンハインド!!」


 ゴールデンハインドは僅かな魔力で大地に向かう!このままでは衝突不可避だ!


 「うぉぉぉぉおおおお!!いったれぇぇぇぇ!!」


 操縦桿を巧みに操作し墜落を避ける。その技術はまさに神がかり的であった。地面すれすれでゴールデンハインドの船体は大地に墜落することなく難を逃れた。


 ゴンッ!!


 筈だった。嫌な音がした。何があるかわからない異世界。器物破損なんて最悪だ。アイビーに辺りの解析を依頼する。


 『……マスター。解析が完了しました。』

 「お、おう……どうだ?船内の修復装置で直せるレベルか?」

 『いえ……事態はもっと深刻です。この世界の知的生命体を一人、轢き殺してしまったようです。』

 「す、すぐに回収しろ!!医療ユニット準備!!」


 異世界の文明は保護が原則。知的生命体が存在しているならばなおさらだ。器物破損どころではない。知的生命体の殺害は重罪。死罪は決定的だが本人だけの問題にならない。多次元問題にまで発展する最悪の事態なのだ。


 「ど、どうだ?治療できたか……?」

 『はい、この世界の知的生命体はマスターと同じ人間型であることから治療が極めて容易でした。不幸中の幸いです。』


 ほっとした。ドレイクは治療ポットの中で眠る原住人を見つめた。彼は自分と同じ人間型の異世界人だった。どこか親しみを感じた。そして、なおさら安心した。異世界人差別者ではなかったが、自分と同じ姿の異世界人を殺すのは気が進まなかった。


 『ですが問題があります。治療は完璧なのですが目が覚めません。』

 「……原因は?」

 『不明です。生命活動的に問題はありません。過去の症例を参照するに……本人に生きる気力がないかと推察されます。』

 「ふ、ふ、ふざけんな!おいアイビーどうにかならねぇのか!?」

 『手はあります。ソウルコンバート。即ちマスターの魂を一時的にこの原生生物……彼に移すのです。』

 「な!?お、おいそれは……異世界の、よく分からない生き物となんて前例ないぞ!?」

 『ですがこのままでは彼は死に、マスターはユグドラシル王朝史に残る極悪犯罪者として死刑にされます。義賊としてではなく。』


 ソウルコンバートは同じ人間でなければ危険だった。見た目は同じでも、細かいところが違えば致命的なバグが起こりうる。今の俺には、彼がどんな生命体なのかわからない。だから、リスクは高いのだ。でも……でもアイビーの言うことにも納得できる。俺が彼の魂と入れ替わって、彼に人生の楽しさを、生きるということの素晴らしさを教えてやらなければならない!!


 「……俺が代わろうかドレイク?流石にキャプテン不在ってのは……。」

 「いや、責任は俺にある。それにこの世界がどんな世界も分からないのに無理はできないよトーマス。まぁ心配するな。もしものための"切り札"は一応持っていく……憂鬱だけど。」


 諦めてソウルコンバートの準備を進める。俺の肉体は魔導スリープさせる。天涯孤独の空賊だからその辺は問題ない。

 だがこの子には家族がいる、友達がいる、人生がある。いなくなればきっと凄く悲しむだろう。

 ……そして俺は次元警備隊にいずれバレて俺は極悪非道の犯罪者の仲間入り。それは絶対に避けたい。俺は義賊であって外道じゃない。義賊なりのプライドってやつだ。


 「そうだアイビー。この子のパーソナルデータ……名前と職業を教えてくれ。流石に身分証とか携帯してるだろ。」

 『はい、彼の名前は雨宮蒼音あまみやあおと。高校と呼ばれる教育機関に通っているようです。』


 よりにもよって未来ある学生かよ……迅速な判断は正解だった。命の重みに差はないとはいえ……異世界の将来を担う学生の殺害なんて……人権派が絶対に大騒ぎするからな……。

 ドレイクの意識は溶けていく。そして雨宮蒼音へと移されていった。


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