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ブルーミラージュ ~歪な異世界で、私は何度もやり直す~  作者: ホワイトモカ二号
結末の濫觴
23/71

世界の救世主

 通信が途絶え孤立した俺は何とか回復する手段がないか右往左往していると、パラパラと瓦礫が崩れる音がした。何者かの足音だ。


 「なんだこれは……先客がいたのか。聞いていないぞ。どうなっている。」


 突然現れた謎の男性二人。リーダーと呼ばれた男はぼさぼさの髪の毛にメガネをかけている。だがメガネの下から猛禽類を思わせる鋭い目つきをしており、ただものではないことを思わせる。その特徴的な風貌には見覚えがあった。学校でウタカタ革命党という組織を掲げて、演説をしていた男だ。

 彼は俺たちの前に立ちふさがり、怒りをあらわにした。


 「はっ、リーダー。少し失礼……この国の政府は高レベルのウタカタを保有する学生を組織して異界域からの驚異に対抗しようとしているようです。彼らの格好からして間違いないでしょう。」


 もう一人は紳士的にスーツを着こなしており髪型はオールバック。少し笑みを浮かべ穏やかな印象を与えるが身長は190くらいはある長身。体格もよくスーツの上から筋肉の隆起が見えるほどだった。彼はリーダーの隣りに立って、冷静に状況を説明した。


 「子供を自警団に使うだと!?度し難い……おいお前ら、あとは俺たちが始末する。子供は早く帰れ。」


 リーダーと呼ばれた男は俺たちに向かって叫んだ。その高圧的な態度から彼は俺たちを見下しているのだろう。


 「何だお前ら、突然出てきて馴れ馴れしい。」


 男たちを睨みつける。断定は出来ないが彼らはマトモな人間ではない。もしもマトモな神経をしているのならば、こんな場所には来ないからだ。俺たちは国から命令されてこの場にいる。では彼らは何の目的でここに来たのか、彼らは何者なのか知る必要があった。

 オールバックの男が前に出ようとしたところをリーダーと呼ばれた男が制止する。


 「ふん、ガキが生意気なことを言うが、確かに名乗りあげないのは余計な警戒心を与えるだけだ。俺たちはウタカタ革命党。そして俺はその代表の火柱義焔ひばしらぎえんだ。この男は氷川零ひかわれい。俺の右腕だ。これで満足かガキ?」


 ウタカタ革命党といえば昨今ニュースを賑わせている有名団体。学校で爆破テロリストを始末し、そして政府に危険団体として敵視されている。


 「政府からのお尋ね者の言うことを素直に聞けと?」

 「青いな。政府の言葉を鵜呑みするしかできんのか。政府がどれだけ我々を敵視しようが、民衆は俺たちを支持している!いずれは政府連中も我々を無視できなくなるのだ!!」


 熱の入った演説だったが、心底どうでもよかった。インカムの調子が悪いので彼らにどう対応すれば良いのかも分からない。だが今の俺の立ち位置から考えると、国が危険団体として見ている彼らにはあまり関わらないのが妥当だろう。


 「お前たちが何者かは分かったが、俺たちもここを離れるわけにはいかない。さっきからインカムの調子が悪いんだよ。先生からはここに来るようにしか言われてなくてね。」

 「指示待ちか、愚かな考えだ!我らが大義を知ればそのようなことは些事に過ぎぬということが分かるもの!安心せよ、この異界域の救助は我らウタカタ革命党が取り仕切る!お前たちの出番はないのだ!!」

 「さてはお前、会話が通じないやつだなー?」


 学生相手に大人気ない態度ばかりだ。こんなのが支持されてるのか?この世界の人間の考えは分からない。いや……存外遠巻きでしか見たことなくて、こうして直接話したことある人は少ないのかもしれないな。


 「どうしても退く気がないと、いうわけか。若い芽を摘むのは革命党としては不本意だが……。」


 殺気が増していく。この男、ひょっとして何の罪もない俺を殺すつもりなのか。ただ言うことを聞かなかっただけで。思想が過激すぎる。

 雪華の方を見る。落ち着いてきてはいるが、今度は借りてきた猫のように大人しくなっている。もとより対人での戦いに雪華のウタカタは殺意が高すぎるので不向きだが、自衛くらいはしてもらわないと面倒だ。


 「おい雪華、そろそろ復活してくれないか。今、やべーやつと対峙してんだからさ。」

 「女に助けを求めるか!!どこまでも情けない奴!!!!」


 ほっとけ畜生。好き放題言いやがって。

 雪華をゆさゆさと揺らすがまるで反応がない。そうこうしている内に火柱たちが近づいてくる。奴らの自信満々な態度からウタカタ持ちなのは明白。俺ができるのは多分肉体強化魔法のみ。加えて雪華を守りながら。ゴブリンを相手するより遥かに面倒だ!


 そのときだった。けたたましい爆発音。発生源は異界域の奥地だ。


 「何事だ!?おのれ国家め、よもや国の資産である市街地に爆撃をしたのではないだろうな!!?」


 上空を見上げるが戦闘爆撃機のようなものはない。蒼い空が広がる。


 「火柱ちゃんの仕業じゃないの?なんかこういうテロとか好きそうだし。」

 「誰がするか!!あと馴れ馴れしいわ火柱ちゃんて、俺は年上だそ!?親しみをこめて義焔ぎえんさんと呼べ!!!」


 その厳つい顔で親しみを求めていたのかこのおっさんは……。それはそれとして俺も爆発のした方向を見る。煙などは上がっていない。だがあの方向は……。


 『マスターの推察どおりです。あそこは巣の位置です。』

 「なにかやべーのが生まれたのか。」

 『いいえ、反応消失。何者かが巣を破壊した模様。』


 アイビーの分析に間違いはない。そこは信頼している。では何者だろうか。巣を効率的に破壊……それは俺と同じ世界の人間でなければ思いつかない発想だ。


 「ギエン!ここまでどうやって来たんだ、足はないのか!?」

 「呼び捨て!!?いや、我々も徒歩で来た!!」

 「この間、革命党の人が乗ってた絨毯はないのか!?」

 「あれはウタカタを使って一時的に浮遊能力を得たものだ!異界域では何が起きるかわからんのだから持ってきてはいない!!」


 正解だ。この男、外見に違わず慎重で理性的。ウタカタが魔法に準拠するのならば、魔法効果を阻害する空間やモンスターと遭遇した際に、空飛ぶ絨毯なんか乗ってたら転落事故不可避だ。

 だが此度はそれが裏目に出た。急ぎ確認したいのに手段がない。

 巣を撃破したのが何者なのか、気になるが遠すぎる。


 「……か……え……こえ……えるか!聞こえるか雨宮!」


 インカムからの音声。ようやく通信状況が改善されたらしい。


 「こちら先発隊、聞こえるぞ。チェックポイントはクリアできた。それより異界域の奥地で謎の爆発が起きた!何なんだ!?」

 「そうか、よくやってくれた。直ちに帰投するんだ。目標はクリアできた。」

 「え、それはどういう───。」


 遅れてドタバタと騒がしい音が聞こえる。道路を見ると多くの軍用車。自衛隊だ。


 「全員、警戒を怠るな!安全を確保できたとはいえ残党の可能性はあるぞ!!」

 「自衛隊……氷川、撤収するぞ。」


 革命党の二人は走り出し、この場を後にする。俺たちはよくわからないまま、自衛隊に保護されて、そのまま軍用車に乗せられ学校まで送ってもらうことになった。


 「何なんだよまったく。竜胆のやつ説明不足がすぎるぞ。」


 俺は車に揺られながら不満げにそう呟く。そんな呟きが運転席にも聞こえたのか助手席に座っていた男性がこちらを振り向く。


 「なんだ聞いていないのか。まぁ事態が事態だ……向こうも忙しいのだろう。」

 「ひょっとして知らないのは俺たちだけなのか?」

 「そうだな、あれから大々的に連中はテレビを使って我々に見せつけたのだ。まったく電波ジャックなど犯罪だろうに。」


 話が見えない。何の話をしているのだろうか。


 「ああ……すまない。主語が抜けていたね。実はだね……君らが異界域にいる間、異界域から来たという人物が……異界域の一部を支配しているボスを撃破したんだ。」


 異界域から来た人物……それはつまり……俺と同じ……?

 胸がざわつく。どんな奴が来たのか、それは俺の敵なのか、場合によっては蒼音を助けるのも困難になる。

 深刻な表情を浮かべ黙り込む俺を見て、助手席の男は少し微笑んで言葉を続けた。


 「彼は自分のことをこう言っていたよ。"ユグドラシル界から来た勇者"だとね。」


 勇者…………。


 誰それ?

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