血染めの転校生
教室では検査の話題でもちきりだった。特にレベル5は結局、彩音しかいなかったみたいでクラスの話題の中心である。暫くの間、休憩時間らしく検査結果がまとまり次第、クラス替えをするらしい。
何故そんなに急ぐ理由があるのかはわからない。とりあえず俺は言い訳をひたすら考えていた。
「実はサイキッカーとかは……?」
『別の理由で目立ちそうですね。』
「筋肉の質が他の人と違うとか……?」
『検査でバレますね。』
そんなアイビーとのやりとりを続けていると、戸が開いた。担任ではない。格好も何か作業服のようだ。
よく見ると胸元に名札があって防衛省の人間であることがわかった。即ち国家公務員だな。
クラスメイトは呆然としていたが、配られたプリントを見て騒ぎ出す。俺もプリントに目をやるとそこにはクラス替えの結果が出ていた。プリントには「あなたのクラスはAです。」と書かれており、そしてずらずらと各クラスの名簿と担任、副担任の名前が記されている。
防衛省の人は頭を下げて説明を始めた。
「皆さん初めまして。私は防衛省より派遣されました斎藤と申します。突然のことで困惑しているかもしれませんが、ウタカタは我が国……いや人類史始まって以来の異常事態。そのことをどうか頭に入れてもらい、受け入れてください。今、配布されたプリントはお察しのとおり皆さんの新しいクラスわけが記されています。そして何故、防衛省の人間が教育機関である学校にいるかと言いますと……国もこの事態を重く受け止め、ウタカタは適切に管理するという方針を打ち出したのです。ウタカタの中でも特に能力の強いものは一つのクラスにまとめてもらうという方針です。どうかご協力をお願いします。」
長々とした説明のあとにもう一度頭を下げる。
「あの、斎藤さん。それでその管理されるクラスというのは何クラスなんですか?」
生徒の一人が手を上げて質問する。
「失礼しました。ウタカタを適切に管理するクラス……ウタカタクラスはAクラスとなります。この中にも何人かいるはずです。」
その言葉に生徒たちは騒ぎ出した。Aクラスでないことに嘆くものや、Aクラスであることを自慢するもの。
そして俺はほっと胸をなでおろす。
「ばれなかった……!」
『結構チョロいんですねこの世界。』
ガッツポーツを決めながら俺は新しいクラスへと向かうのだった。
「なんであんたもいるのよ。」
教室に入るなり綾音に絡まれた。構うなって釘刺したのにしつこい奴だな。
「成績が良かったんだろうな。レベルが分からないのが残念だけど。」
「レベルが分からない?そんなこと今まで……。」
綾音は不思議そうな表情を浮かべる。
「おやアオト、君もこちらのクラスになったんだね。嬉しいよ。そちらの子は友達かな。」
話していると千歳がやってきた。千歳も同じクラスだったらしい。綾音は嫌なものを見るような目を千歳に向けて離れていった。
「昨夜以来だけど大丈夫なのか?ほら神宮寺さんは……。」
俺は心配そうに言ったが、千歳は無視した。彼女には話せないことがあった。
神宮寺は彼女にとって保護者とも言える存在だった。昨夜、殺人鬼の少女に襲われて死んだ。
その少女はウタカタと呼ばれる力を持った怪物だった。ニュースでは報道されないが、彼女は何人もの人を殺していた。
「彼なら亡くなったよ。番犬がいなくなって困ったものさ。」
千歳が嘘をついているのは明白だった。神宮寺のことを軽く言ってごまかしている。
その言葉が口から出た瞬間、彼女は身震いした。神宮寺は彼女にとって大事な存在だった。彼の死に対する悲しみや怒りを隠すことができなかったのだ。
そうこうしている内に担任が入ってきた。新しい担任だ。顔は知らない。
「皆さん初めまして。今日からAクラス……ウタカタクラスを担任することになりました竜胆といいます。新しいクラスに慣れないかと思いますが、私も赴任したばかり。気楽に相談してもらえると思います。」
この中途半端な時期に赴任してきた教師。妙過ぎる。恐らくは防衛省の斎藤とかいうのと同じく、国から派遣された者だろう。
「それから今日から転校生が来ることになった。入りなさい。」
竜胆が合図をすると戸が開いて一人の女生徒が入る。こちらも妙なタイミング。国の関係者にしては若すぎる気がするけど、そういうのもいるのかもしれない。
なんて思いながら転校生の横顔を見る。やがて正面を向き礼儀正しく頭を下げる。その姿に、俺は言葉を失った。
「初めまして。狂咲雪華と言います。初めての環境でいきなりウタカタクラスだなんてまた変わったクラスに入り困惑していますがよろしくお願いしますね。」
「いや何でお前そんな堂々としていんだよ!!」
それは昨夜出会った殺人鬼の少女そのものであった。忘れるはずもない。腕には包帯とギプス。俺が彼女の腕の骨をへし折ってやったからだ。片目を隠すように眼帯もしている。大怪我だ。





