泡沫のように始まる新世界
東京。夜空にそびえるタワーマンション。
外見こそは高級で洗練されているが、その中身は伏魔殿。権力と金に溺れた政治家が、次々と連れ込んだ女性たちを虐げていた。
今夜もまた、哀れな犠牲者が運ばれる。黒服の男たちに押さえつけられ、恐怖に震える少女が部屋に連れ込まれる。
「おぉ、今日の新人は中々良いじゃないか。よく顔を見せてくれ。」
下卑た笑みを浮かべた中年太りの男は少女に近寄る。
「初めまして。貴方が私の王子様になってくれるの?」
少女は蠱惑的な笑みを浮かべた。男はその笑顔に応えるように少女の腕を掴み奥へと連れていく。
───早朝。無数のパトカーがタワーマンション下に駐車されていた。どこから聞きつけたのかマスコミも大挙していて警察官が必死に対応している。
「相変わらず酷い現場ですね……。」
若い警察官はこの事件の担当になってから、何度も見てきた。最初はその凄惨さに嘔吐してきたが流石にもう慣れてしまった。
東京で起きている連続殺人事件。犯人は現代に蘇った切り裂きジャックとワイドショーで連日、持ち上げられている。ターゲットは社会的知名度の高い男性に限られている。
「うえ……真っ二つ……。えぐい殺し方するなぁ……。」
「新人、愚痴ってないで現場検証を進めろ。」
「進めろ言ったっていつものじゃないですかぁ、死体がバラバラになったり何度も何度も刺し傷……ていうかこの人政治家なんですよね?児童買春の証拠見つけましたけど。」
ベテラン警察官の男はため息をつく。
またか。被害者の男性はこうして余罪も見つかる。総じて女性が被害にあっているもの……。反吐が出る社会の屑どもだ。
捜査本部は怨恨が原因ではないかと考えられているようだが、確かにこの酷い有様を見るとそれ以外考えられない。
「やっぱり……切り裂きジャックって"ウタカタ"なんですかね?」
「……だろうな。情報によるとこの政治家は指定暴力団炎獄会と関わりがあるみたいだ。んでだ、被害者の身元が割れた。政治家以外に殺されてたのは暴力団構成員だな。」
「抗争って線はないんすか?」
「暴対法の目をかいくぐって抗争なんて出来ねぇよ。非現実的だ。となるとフリーの素人による犯行が現実的。つまり"ウタカタ"だ。」
東京に突如出現した"アレ"。警察官二人は窓から眺めた。アレのせいで世界の常識は変わってしまった。ウタカタの出現。警察が対応できるレベルを超えている。
しかし、彼らは憂鬱な気分で現場検証を続けなければならなかった。憎らしい、あの蒼い空に生まれた新世界を後目にして───。