序章第一話 久遠白のとある最後
目を開けたら、窓には藍色に染まった空が映っていた。
ここは僕の通う高校の教室。僕はここで目を覚ました。あたりに人の気配は存在しない。そんなものだから一瞬、まるでこの世に僕以外の人間が消えてしまったと、そんな有り得ない想像をしてしまった。でも本当にこの世界に僕と云う存在以外が消滅してしまったら、僕はどうするんだろう。発狂するかな。それとも絶望するかな。でもどっちみち、僕はまともではいら
れなくなるんだろうとは思う。そしていつかきっと、死んだように生きるんだ。だから、この世界の人間がすべて消滅するなんて、そんな事にはなってほしくないなー、と結局はその答え
にたどり着く訳だ、僕は。
『You got mail You got mail』
ん、携帯が鳴ってる。と、あ、家からだ。
「はい もしもー「いい加減にしないと私の拳が唸りをあげて貴方のどってばらにクリーンヒットしちゃいますよ?」し……」
今すぐにでも電話を切りたくなった。が、その衝動を頑張って抑えて(今切ると帰った後に酷い制裁に会うのは目に見えてるからである)とりあえず理由を聞いてみる事にした。
「どうしたの? 透、僕、何か悪いことした?」
電話の相手は透といい、僕の家の使用人、世間一般で言う所のメイドさんだ。
「今、何時だと思ってるんですか? もう七時ですよ? 最近は物騒だからあれほど早く帰るように言ったはずですよね? もう忘れたんですか? 若年性アルツハイマーにでもなったん
ですか? もういっそのこと隔離病棟に入院し《監禁させ》ますか?」
時計を見ると――七時四分――たしかに七時を超えていた。でもそのくらいで怒る必要なんてないんじゃないかと思う。けどそんな事は決して口には出さない。
理由は二つ。電話越しに聞こえる透のふふふという怒りの籠った含み笑いと、入院と書いて監禁と読む透の素敵な語呂センス。
「それだけは勘弁してほしいな。お願いだから」
「反省してください。で、何でこんな時間まで外に居たんですか」
「……教室で、寝てた。たぶん昼から」
「…………白君」
「……はい」
「……殺人鬼の話、忘れたんですか?」
「………………へ?」
何の話?
「最近この街に出る殺人鬼。この間説明したばかりの筈でしたけど……はあ、忘れたんですね。そうですか。そうでよすね。白君ですもんね。しょうがないですよね。だって白君ですもん」
ん? なんか変なこと言ったかな?
「まあ良いです。白君に危機感が決定的に欠如してる事なんて、生まれた時から知ってましたから。だからもう一回説明しますからよー――――――く聞いてくださいね。じゃないと今度こそ、本当に私の拳が貴方のどって腹だけと言わず顔面にもクリーンヒットしますから」
「うん。流石にそれは嫌だからよく聞くよ」
流石に透の拳がどって腹にも顔面にクリーンヒットするのは嫌なので、素直に聞いておくことにした。
透の話はこうだ。
一ヶ月くらい前から、この町には殺人鬼が出ているらしい。まあ殺人鬼と言っても、それは噂の範囲を出てはいないらしいけれど。その殺人鬼にはある特徴があるらしい。で、問題はそ
の特徴で、その殺人鬼は、霧ヶ峰学園と云う中高一貫校の生徒ばかりを狙う愉快犯らしい。そして、僕もその生徒の一人だ。
これが、透の怒る理由、そして、学校に人一人としていない理由だった。
「にしても透、心配症すぎるんだよねー」
どうせ僕が死んだところで、世界は変わらないのに。
ここは片田舎に存在するちょっと大きい公園。中には植物園や釣りができる池がある。
そこに、死体が一つ。
名前は久遠白。性別男。
それは、僕のなれの果てだった。
お目汚し御免! ですよ。