冬休みの終わり
僕が風呂から出ると、先に風呂を出ていた華弥は用意した布団の上でスヤスヤと眠っていた。時計を確認すると、深夜三時を過ぎている。
「もうちょっと華弥と話していたかったけど、仕方ないよな」
華弥がふんづけている布団を気付かれないように抜き、そっと彼女にかける。それから電気を消して、僕もベッドに寝転んだ。
月明かりだけが華弥の顔を照らし、僕はそんな華弥の顔を見つめる。
無防備で眠る華弥に、僕のことを本当に信頼してくれているのかもしれないと嬉しく思った。
「なんだか夢みたいだな。こうしていられることが。それに……さっきの、あれも――」
キスのあとのことを思い出し、恥ずかしくなって布団をかぶる。
華弥は嫌じゃなかっただろうか。だっていつもは――
「やめてよ、兄さん……」
うわごとのように聞こえた声にハッとして、僕は布団から顔を出して華弥を見た。先ほどの心地よさそうな寝顔はなく、苦悶の表情を浮かべている。
「い、いや。許してよ――」
そう呟く華弥の横に寝転び、そっとその身体を抱きしめる。
「大丈夫。僕が傍にいるから」
しばらくして寝息が聞こえると華弥の額をそっと撫で、僕は自分のベッドに戻った。
華弥が抱えているものの大きさは僕が思っている以上のものなのかもしれない。
そんな華弥のために、僕は何ができるだろうか――いや。たぶん華弥は、僕に何かをしてほしいと望んでいるわけじゃない。
――でもそれは、僕に心配をかけない為だとしたら?
顔を傾け、華弥の顔を見つめる。
月の光と夜の闇がかかっている彼女の顔からは、何も読み取ることはできなかった。
「華弥はそのままでいいって言ったけど、僕は君の抱えているものを一緒に背負いたいと思っているよ」
その言葉は静寂に雲散し、華弥の耳に届くことはないだろう。
でも、それは僕の決意だった。華弥とずっと一緒にいるという覚悟でもある。
「何があっても、僕は華弥の味方だからな……」
そして、僕は眠りについたのだった。
翌日。
「お世話になりました」
華弥は満面の笑みで僕の両親にそう告げ、リビングを出る。
僕はその後を追い、「家まで送るよ」と玄関に向かう華弥に伝えたが、
「ううん、大丈夫。一人で帰れるから」
華弥は笑顔でそう言った。
慣れない環境で疲れたのかもしれない。だから今は一人でいたいのかな。
華弥の顔を見ながら、そんなことを思う。
「そっか。じゃあ家に着いたら、必ず連絡くれよ」
「うん! じゃあ、またね」
「ああ、気をつけてな」
華弥は微笑み、玄関扉の向こうへ消えていった。
その後。夕方になっても華弥からの連絡はなかった。
もしかして道中、何かあったのでは? と不安に思ったが、自分から連絡すると「束縛されている」なんて思われそうだったので、僕は辛抱づよく華弥からの連絡を待つことにした。
そして、その日の夜。僕はようやく華弥から帰宅の連絡を受ける。
ホッと胸を撫で下ろすと共に、その時すでに寂しくなっていた僕は『冬休み中にもう一度会いたい』と華弥に伝えた。
当然、華弥から了承する答えが来るものだと思っての要望だった。
しかし――結局僕は、新学期まで彼女に会うことはなかった。
『どうしても家から出られない』
彼女からそう返答があったからだった。




