『固く誓う』
瑠璃川の家を出て、僕と彌富は駅に向かって歩いていた。
絡められている彌富の指が冷たく感じる。その指を少しでも温めてあげようと、僕は指を絡められたままの手をポケットに入れた。
驚いたのか、彌富は一度目を丸くしながらこちらを見ると、恥ずかしそうにニコッと笑った。
そんな彌富に、僕も笑って返す。
彌富はゆっくりと視線を空へ向けると、
「あーあ。私もプレゼント、欲しかったなあ」
ぽつりとそう言った。
「え? 瑠璃川からもらったじゃないか」
「そうじゃない。速水君からってこと」
頬をぷすーっと膨らませて、彌富は僕を見る。なんだか、すねた子どもみたいで可愛い。
「そういうことか……じゃあ、何が欲しいんだ?」
「うーん」と真剣に考える彌富。
でも、せっかくならすぐに買える適当なものじゃなくて、良いものを贈りたい。付き合ってから初めてのクリスマスなのだから。
「今日はもう買いにいけないから、明日でもいいか?」
「うん――あ! 今日、もらえるものがあるよ!」
「え、何?」
「『華弥』って呼んで」
「え!?」
「『華弥』って呼ぶのがプレゼント! それなら今日もらえるでしょ?」
「ま、まあ……」
そうは言っても、簡単な問題ではないと思う。だって今まで名字で呼んでいたのに、急に名前でなんて……。
「付き合ってもうすぐ二か月になるというのに、なんだか親密さが足らないと思わない?」
「そう言われてみれば、確かに」
付き合い始めてから今日まで、僕たちは手を繋ぐ以上の関係は進んでいない。
今はそれでいいと思っているし、お兄さんのこともあるから僕の方からあまり攻めていくのも気が引けると思っていたからだった。
でも、彼女は違うということなのだろうか――。
「どうするの? 呼ぶの? 呼ばないの?」
彌富は通せんぼするように僕の前に立ちはだかる。僕も足を止めて、ふうっと一息ついた。
「――わかった。じゃあ、ええっと……か、華弥」
「声が小さい!」
「ええぇ」
頑張ったんだけどな……
「華弥」
「まだ小さいなあ」
「華弥!」
「もう一声!」
「華弥!!」
「うん。聞こえたよ、正直君の声」
微笑む華弥を見た僕は、無意識に彼女を抱き寄せていた。
「ごめん。強引なやり方が好きじゃないってわかってるけど、でも」
「今まで何もしてこなかったのは、そういうことだったかー。兄さんのことは気にしなくていいのに」
「でも、華弥が傷つくのは嫌だから」
「ありがとう。君はやっぱり優しいね――」
華弥はそう言いながら、僕の胸に額をつける。
「ねえ、保健室の続きをしようか」
「保健室の、続き……」
ふっと頭を上げた華弥と目が合った。そして、あの日の彼女と姿を重ねる。
誰もいない保健室。見つめあう目と目。触れそうな唇。
「今なら、誰もみてないから」
「うん――」
そして僕らは初めてのキスをした。
これから始まる僕らの時間。君をすっと愛すると僕は『固く誓う』よ。
聖なる夜。二人の関係はまた一歩進む。




