クリスマスパーティー
冬休みに入り、とうとうクリスマスパーティーの日がやってきた。
「――華弥たち、そろそろ着くころかしら」
窓辺から家の前の道を見つめ、華弥たちの姿を探す。
近隣の家々が少しずつ明かりをつけ始め、夜の訪れを予感させていた。カーテンの向こう側にライトアップされたクリスマスツリーが見え、自分たち同様に今宵の宴を楽しみにしていることが窺える。
「華弥たち、喜んでくれるかしらね」と準備を終えた大広間のパーティー会場を思い浮かべていた。
大広間にはすでに会場の準備ができており、あとは華弥たちの到着を待つだけ。一人で待つだけのこの時間に、じれったさを感じていた。
「私が電車に乗れたら、駅で待ち合わせて一緒に行くこともできたのかもしれないのに」
そう呟いてはみたものの、本当は私も分かっている。華弥と速水君は二人でいる時間を大切にしたいのだということを。
眉間に皺を寄せ、今朝のチャットでのやりとりをふと思い返していた。
紗月 『夕方ごろに車で迎えに行きましょうか? 駅から歩くと遠いでしょう?』
かや 『ううん。大丈夫。速水君と一緒に駅から歩くよ!』
速水 『そうそう。瑠璃川も準備とかいろいろと大変だろ?』
紗月 『ええ。わかった』
仲の良い友人なのだから、ありえなくもない返答だとは思う。けれど、それだけじゃないような気がしてならなかった。
そう思いながらぼうっと外を見ていると、楽しそうに歩いてくる華弥と速水君の姿を見つけた。
「そっか、やっぱりね……」
華弥と速水君を家に招き入れ、パーティ会場である大広間に向かって廊下を歩いていた。
白い大理石の床、天窓のついた高い天井。大きなシャンデリア。
家のほとんどが洋風な造りになっているけれど、生け花をするときだけは離れにある和室を使用する。
「初めて瑠璃川の家に来たけど……本当に金持ちなんだな」
初めて私の家に来た人たちは、速水君と同じようなことを言う。確か、華弥も言っていた。
私はあまり他の人に家に行ったりはしないため、速水君や華弥がそこまで感心する理由が今ひとつピンと来ない。たぶん、速水君の家も華弥の家もそんなに変わらない景観をしているんじゃないかと思っているくらいだ。
「別に、大したことはないわよ」
「いや。大したことはないことはないと思うけど……」
「瑠璃川家はうちの十倍くらいはあるんだよねえ」
「僕の家と比べてもそんなもんだろうな」
「なんか、セレブな暮らしって憧れちゃうね」
「そうだなあ」
私は楽しそうに話す速水君と華弥の方をちらりと見る。私の存在を気にしてか、二人の距離は少し空いていた。
「ああ、お料理が楽しみになってきたー」
「そうだな。このディナーのためにわざわざ昼ごはんを抜いたんだもんな」
「うんうん。そうだね!」
二人の会話の内容を察するに、ここへ来るまでの時間を一緒に過ごしていたことは分かった。そうならそうと言ってくれればいいのに。
そんなモヤモヤとした何かが、私の心を陰らせる。
「ここよ」
大広間の扉を開けると、長テーブルの上に豪華な料理が並んでいた。
色とりどりのカクテルサラダ。ブイヨンの良い香りが漂うミネストローネスープ。こんがり焼けたチーズが乗った香ばしい香りのグラタン。そして花のようにきれいに広げられたローストビーフ。
「これは豪華だね……」
「うん」
速水君と華弥は目を丸くしながら、並んでいる料理を見つめていた。
私にとっては毎年変わらないメニューだったこともあり、二人ほどの感動はない。けれど喜ぶ二人を見ていると、私も嬉しくなった。
「さあ、パーティーを始めましょうか」
それから私たちは自分のお皿に料理を乗せ、黄金色のシャンメリーで乾杯する。
料理を囲みながら、学校でのことや休みの日のこと、そして将来のことなど――本当にいろんな話をした。
三人の時間がこのままずっと続けばいいのに。私は内心でそんなことを思った。
でも、たぶんそれは無理なんだということも薄々悟っていた。
「速水君、それ一口ちょうだいよ」
「ん、ああ」
速水君はそう言いながら、自分の皿からローストビーフを一枚とり、華弥の口に運ぶ。
「んんん、おいしいねえ」
「そうだな」
私に見せつけるつもりではないのだろうけれど、やはり二人の行動は――ただの友人という枠を超えている。
やっぱり二人はもう、私の手が届かない世界へ行ってしまったんだ――。
私はばれないように、そっと顔を伏せた。そして、シャンメリーの入ったグラスを持つ手に自然と力が入る。
なぜ私は『三人で一緒に』なんて言ってしまったのだろう。
私がそんな提案をしなければ、華弥と速水君は二人でこの夜を過ごせたのに。
私がこんな、惨めな思いをせずに済んだかもしれないのに。
シャンメリーの泡はグラスが揺れるたび、音もなく弾け、消えていく。私もその泡のように、この場から消えてしまいたいと思った。
「あ……ごめん。ちょっとお手洗いに行ってくるねー」と華弥。
「いってらっしゃい」速水君は笑顔で華弥を送り出す。
それから華弥のいなくなった大広間は、華弥と入れ替わるように入ってきた沈黙が居座り、私たちの口を重くしていた。
このまま何もしなくとも華弥が戻って来たら何とかなることくらいは分かっていたけれど、しかし私はこの沈黙の存在を許すわけにはいかない。
なぜなら私は彼に訊かなければならないからだ――さっきのことも、この一カ月で気になっていたことも。
「ねえ速水君。日曜日のお出かけ。やめた方がいいかしら」
部屋に充満していた沈黙の存在を打ち消すように、私は速水君に尋ねた。
「なんでいきなりそんなことを聞くんだ?」
とぼけちゃって。それとも、彼なりの優しさなのかしら――。
「私と過ごすと、華弥との時間が減っちゃうんじゃない?」
その問いに、速水君はハッとする。
そして私は、この瞬間にすべてを確信した。
やはり速水君と華弥は、もう――




