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アネモネの花言葉  作者: しらす丼
第二章 五月晴れ
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ボランティア活動

「僕たち以外の参加者もいたんですね」


 僕らは学校から車で十分ほどの場所にある、河川敷広場にいた。


 ここには今、総勢三十人ほどの人々(高校生だけではなく、年配の夫婦や小学生くらいの子たちまでいる)が集合している。


「この地区では毎年行われることだからな。地元の小学生や老人会の人たちも参加するんだよ」


 なるほど。だから加茂ヶ崎高校の代表として、僕らは招集されたわけか。


「速水君。あの人見て」


 やや困惑気味に瑠璃川からそう耳打ちされた。僕は瑠璃川の言われた方に目を転ずる。


「あの人って、どの人?」


 目の前にはご老人の方がたが集まっているようで、瑠璃川が誰のことを差しているのか全く見当もつかなかった。


「あの、一人だけスーツの人よ」


「スーツ?」


 こんなイベントなのに、スーツで来る人間がいるのかと訝しげにその集団を見遣ると、


「本当だ」


 いた。一人だけ、ビシッとスーツを決め込んでいる男性が。そして、どこかで見覚えのある人だと思った。


「県議会議員の。柳澤やなぎさわさんじゃないかしら」


「そう、だな」


 その柳澤さんが地元の活性化のイベントによく足を運んでいることは僕でも知っていた。


 そして彼はそれだけではなく、SNSで発信している言葉が度々ネットニュースになることでも有名な人なのである。


「こんなことを言っては失礼かもしれないけれど、こんなに小さいイベントでも顔を出すのね。ちょっと驚いたわ」


「このイベントは、彼が県議になる前から主催しているイベントだからねえ」


 花城先生は僕と瑠璃川の顔を見ながらそう言った。


「昔からのお知り合いなんですか?」


 僕が尋ねると、


「まあな。高校の同級生なんだよ」


 花城先生は微笑しながらそう答えた。


 微笑とは言ったが、問題児に手を焼きつつも甲斐甲斐しく世話をしている教師のような柔らかな眼差しという方が正しいのかもしれない。


「なるほど」


 だから花城先生はボランティア部の顧問を。そしてこのイベントに参加するんだな。


「彼のメンツのためにも、今日はしっかりと慈善活動に励んでくれよ。頑張ったら、厳罰のことは帳消しにすることもやぶさかではないからな」


 それは吉報だ、と思った。


「わかりました! 頑張ろうな、瑠璃川」


 僕が満面の笑みを瑠璃川に向けると、


「本当に速水君はこの河川並みに心が濁っているのね」


 呆れた顔で瑠璃川はそう言った。


 図星だったからだろう。僕は思わずムッとしてしまう。


「僕の頑張ろうという心意気を否定するな!」


「あら、ごめんなさい。私、素直だから」


「本当にいい性格してるよな、瑠璃川は!」


「誉め言葉として受け取っておくわ」


 そう言って瑠璃川は小さく笑う。


 僕も喧嘩腰で発言しているはずなのだが、瑠璃川は嬉しそうだった。いつものように。


 その後、柳澤議員の高尚な挨拶の後に、ボランティアは始まった。


 今回は河川美化活動ということで、周辺のゴミ拾いをするのである。


「私たちはこの辺りで拾うとしよう」


 花城先生の一声で僕と瑠璃川は足を止め、広がりながらゴミ拾いを始めた。


 目の前には僕とそう変わらない高さの草が生えており、注意しないと誤って川に落ちてしまいそうだった。


「僕らなんかはまだいいけれど、子供たちや老人会の人たちはちょっと危ない気がする」


 ゴミ拾いの前に草刈りをやるべきだったのでは? と内心で毒づく。しかし、それで何かが変わるわけでもなかった。


 それから厳罰の帳消しがかかっていることを思い出した僕は、黙々とボランティア活動に勤んだのだった。




 ゴミ拾いを初めて一時間。いつの間にか、瑠璃川も花城先生の姿が見えなくなっていた。これだけうっそうと草が生い茂っていては無理もないだろう。


「サボってもバレない気がする」


 そうは言っても、結局サボれないのが僕だ。つい真面目になってしまう。きっと瑠璃川もそうだろう。


「彌富はどうなんだろうな。こういう時はサボるのかな」


 いや。きっと彌富だってサボらないだろう。それどころか、誰よりも頑張ってくれそうだ。


「彌富も来てくれたらよかったんだけどな」


 一応前日に声を掛けてみた(と言っても瑠璃川がである)が、部活があるからと断られてしまったのだ。


 だが、来年の予定は開けておいてくれるらしい。一年後のイベントなのに、すでに楽しみになってきた。


 いささか不純ではあるものの、柳澤議員には何があっても来年の開催をお願いしなくては。


 とは思いつつ、僕なんかが直接話すことなんて無理だろうから、そこは花城先生にご尽力いただくことにしよう。


 僕がそんな卑しいことを考えていると、近くからよく知る女の子の声が聞こえた。


「誰か! 誰か来てください!」


「瑠璃川の声だ。何かあったのか」

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