あの後
書籍版もよろしくお願いします!
自分が消滅して行くのを感じる。
同格の魂の修復はとても難しくて、結局自分の魂を材料にするしかなかった。
俺が死んだらフウマも消えて、自我を持った自動人形達も消えてしまう。
なんかごめんなって思う。
父ちゃんや母ちゃん、兄ちゃんに姉ちゃん。それから、日向や千里とも会えなくなる。
魂を失えば転生も出来ないから、本当のお別れになってしまう。
それは嫌だな。
あの別れをフラグにするつもりはなかったのにな。
俺がいなくなったら、地球はどうなるのだろう。
イルミンスールが復活すれば、きっと悪いようにはしないはずだ。地上からダンジョンを取り除くか、侵食をやめてくれるだろう。
やってくれるよな?
な?
『そうね、頑張ってみるけど、難しいかも……』
微睡の中で、そんな返答が聞こえて来るようだ。
あとユグドラシルは大丈夫だろうか?
都ユグドラシルに住むオクタン君とか、ハヤタさんとか元気にしているだろうか?
こんなことなら最後に寄った時に、挨拶でもしとけばよかったな。
あれ? どうしてだろう、涙が出て……来ないなまったく。
むしろ腹が減って仕方ない。
もう直ぐ消滅するというのに、何とも不親切な瞬間だ。
最後くらい、楽に逝かせて欲しいというのに。
『はいはい、今から流し込むからね』
なんだか不穏な幻聴が聞こえる。
直後に、お腹が満たされるような感覚があって、空腹は無くなった。
『やば、入れ過ぎた……まあいっか!』
なんだか不穏な幻聴が現実になった気がする。
まあ、たぶん気のせいだ。
だって俺、もう消えかけているし。
はあ、消えるのか。
どうせなら、たくさん遊んどけば良かったな。
親孝行はお金をたくさん残したし、問題無いはずだ。あるとしたら、先立つくらいだろう。
兄ちゃんと姉ちゃんは……まあ、忙しそうだったから、そんな気にしなくて良いかな?
あとは、日向が心配かな。
ユグドラシルが加護を与えているから、そう危険はないと思いたいけど、力があるから道を踏み外した時が怖い。
日向が成人する頃には、黒一も引退しているだろうし、大道もどうなっているか分からん。
トウヤ達なら止めてくれそうだけど、あいつらがどこまで強くなっているのか確認してなかったからなー……どちらにしろ、不安は残るな。
にしても、日向か……。
……ははっ、情け無いな。
ヒナタに親より先に死ぬなって言ってたのに、結局俺も変わらないじゃないか。
結局、似たもの親子だったな。
あー、消えたくないな…………ん?
なんかトイレ行きたくなって来たな……ん?
『ちょっと埋めるね』
なんかヒンヤリとした感触があると、トイレに行く気も失せてしまった。
何だ気のせいかよ、ビビらせんな。消えかけてんのに、こんな時にまで、出す物出さないといけないかとうんざりしたわ。
にしても、中々消えないな。
そりゃ消えたくはないけど、ここまで時間が掛かると暇になる。
自分から消えるってのは、何だか違う気がするし、生きる為に足掻くっていうのも、いくら何でも無茶な気もする。
一応やれるとしたら、魔力を捻り出して魂を新たに作ることくらいだけど、それはメシアがやっていた胸糞悪い行為だ。そもそも、それは俺ではなく別の誰かだ。
イルミンスールに魂をくれてやったのは、別に後悔していない。
これが最善だと思ったし、俺では悲劇を終わらせられない。
俺に出来るのは、全てを無に返すことだけ。
何も作らず、何も生み出さず、ただ消す。
それが俺の力、アマダチの力、全てを断ち切るという力だ。
もっと使い勝手の良い力の方が良かった。
ただ消すだけなんて、本当につまらない力だ。
『それでも、その力のおかげで助かった命もあるのよ』
そりゃそうかも知れないけれどさ、もっと誰かを支える力の方が良かったよ。ユグドラシルとか、たくさんの奴らに慕われててさ、幸せそうじゃん。
『まあそうね、悩みは多そうだけれど』
悩めるだけいいじゃん。
それだけ、やれることが多いってことだ。
イルミンスールやト太郎だって戻るんだし、戦力の問題だって解決するだろう?
『私は無理かな、どうもここから動けなさそうだし……』
そっか、そりゃ大変だな。
『大変で片付けないでもらえる? 割とあなたのせいなんだけど』
しゃーないだろ、俺はもう何も出来ないんだしさ。こればかりは仕方ないだろう。
……ん? それにしても、中々消えないんだけど、消える瞬間ってこんなに長いもんなの?
『消えないし、早く起きてよ。あなたのせいで、私も動けないのよ!』
へ?
---
重たい体で目を覚ますと、そこは緑で溢れていた。
「……何だ? 一体どうなった?」
目の前に広がるのは、草原と青い空。
ここはどこか確かめる為、体を動かそうとするが何かに捕まっていて動けない。
どうしたんだと視線だけを動かすと、俺の体が木に嵌っていた。というか、手足をガッチリホールドされていた。
「ぐぬぬぬ⁉︎」
思いっきり力を込めて引き抜こうとするが、ビクともしない。
まさか俺を封じ込めるとは、この木、普通の木じゃないな?
『当たり前でしょ、今下ろすから待ってて』
脳に直接届けられる声。
これまでにも、何度も聞いていたイルミンスールのものだ。
「イルミンスール、一体どうなったんだ?」
『少し待って、まだ侵食が済んでないから』
「侵食?」
不穏な言葉に疑問を抱いていると、拘束していた部分が動いて俺は解放された。
どれだけの時間、木に埋まっていたのか知らないが、地面に降りると足に力が入らず転けてしまった。
地面に転がり上空を見上げると、なんかヤバげな物が目に入った。
「おうふ⁉︎ ん? ……ん〜? ……何じゃこりゃー⁉︎⁉︎」
それはどこまでも伸びる木。
いや、木というよりも、大樹と間違いそうなほどの太い蔦に包まれた巨大な塔だった。
この塔はあれだ。
メシアが拠点にしていた塔だ。
それに巨大な蔦が巻き付いていたのだ。
というか、俺が捕まっていた場所は、木ではなくこの太い蔦の一部だった。
「おお……って、これイルミンスールか。どうしてここまでやるんだ? メシアを乗っ取れば終わりじゃなかったのか?」
わざわざ、メシアにブッ刺して復活させたのだから、それで終わりだと思っていた。塔なんて、データを残しておく為の場所なのに、一体どういう意味があるのだろうか。
『メシアからの要望よ』
塔だった物を見上げていると、背後にイルミンスールの依代が現れた。
「要望って、そんなの聞く必要あるのか?」
『大人しく支配権を渡す代わりに、ここのデータの管理、再現して欲しいらしいわ。自分でやれば良かったのに、犠牲が多くなるから出来なかったんだって。本当に不器用よね』
ユグドラシルに似た女性の姿だが、こちらは幾分歳を重ねているように見える。
「メシアは死んだのか?」
首を振って否定するユグドラシル。
どうやらメシアは、今も地下のあの部屋にいるそうだ。
ただし、その権限は全てイルミンスールに渡しているらしく、メシアはあくまでもサポート役に落ち着いたようだ。
メシアにとって、これこそが元々の役割り。
より良い方法を模索して提案する。当初は、そう作られた存在だった。
単に、作った側が受け入れられなかったから、こうなってしまったのだ。
その点、イルミンスールなら力もあるし、柔軟な判断も出来るだろうから大丈夫だろう。
正直、思うところはあるがな。
「ふーん、まあいいや。とりあえずさ、地球からダンジョン無くしてくんない」
『悪いけれど、それは無理そう』
「何で?」
『もう、ダンジョンと深くまで繋がっちゃっていて、下手に引き剥がせば、世界その物にダメージを与えて消滅する恐れもあるの』
「え゛?」
まさかの世界滅亡の危機である。
ていうか、それだと俺がここまでやって来た意味が無くなってしまう。
せっかく、命まで懸けてやって……ん?
「なあ、どうして俺は生きているんだ?」
俺は死んだはずだ。
俺自身の魂を材料にイルミンスールを復活させたのだから、今もこうして生きているのが信じられなかった。
もしかして俺は、新たに作られた存在なのだろうか?
メシアがあいつらを作った時のように……。
嫌な考えが頭に浮かぶが、イルミンスールの返答は違った。
『そりゃ、私と魂を共有したからね』
「魂を共有?」
『ほら、多重存在ってスキル持ってたでしょ? あれが超強化されてたから、拡大解釈して魂を多重にして共有すれば死なずに済むんじゃないかなって思ったのよ。それで、試しにやってみたらやれたってわけ』
うん、よく分からんけど、とにかく助かったらしい。
まあ助かったのなら良いか。……良いのか? なんか違う気がしないでもないけど、それよりもこれからどうするのかが気になる。
「生きていけるのなら、まあいいや。それよりも、ダンジョンどうにか出来ないのか?」
『んー……、やれるのはダンジョンの侵食を遅らせるのと、ダンジョンの数を減らすくらいかな。それでも、従来の速度に戻るだけだけど……』
「従来の速度って?」
『約三百年の猶予が残されるってくらい。それ以上は無理。ダンジョンの数も徐々に増やさないと、地上の生物がここの環境に耐えられないからね』
残念だけど……。とイルミンスールは告げた。
そっか、元に戻るだけか。
まあ、それだけの時間があれば、日向も平穏に暮らせるだろう。それに、その時が来るまでに別の方法が見付かる可能性だってある。なら、しないという選択肢は無い。
「分かった。それでもいいから、やってくれないか」
『はいはい』
イルミンスールは適当な返事をするけど、本体の方で動きがあり何かをやっているようだった。
そして、『はい終わりっと』と呆気なく終わってしまった。
「これで一件落着か……」
『そうね、お疲れ様』
俺にやれることは全部やった。
あとは、地上に戻るだけなのだけれど、問題が一つだけある。
「ところでさ」
『なに?』
「俺、どうして太ってんだ?」
そう、俺の肉体はやけに肥大化していた。
下を見ても、お腹の肉が邪魔で足が見えないのだ。
おかしい、これはいくら何でもおかし過ぎる。
最後の俺は、確かに痩せていた。
あの頃の姿をイメージして作り上げたのだから、間違いなく痩せていた。
それなのに、どうしてまた太っているのだろう。
『それは……まあ、あれよ。あれ』
「あれって何だ?」
お約束とか言ったらぶっ飛ばすぞ。
『蜜、注入し過ぎちゃった』
どこで覚えたのか、テヘペロまでして誤魔化して来やがる。
「テメーこの野郎! なんてことしやがった⁉︎ これじゃ帰れないだろうが!」
『いやいや、帰ったらいいじゃない⁉︎ せっかく生き返れたんだからさ?』
馬鹿野郎、そういう問題じゃないんだよ。
「千里と約束したんだよ、次会う時は痩せた姿だってさ……」
これじゃ、約束守れないじゃないか。
『え〜』とドン引きしているイルミンスールだが、これは俺にとって死活問題だ。
男として、何としてでも痩せないといけない。
「……こうなったら、ダイエットしかないな」
今まで避けていたダイエット。
心の底からやりたくないダイエット。
今こそ、覚悟を決めてやる時だ!
「っと、その前に、俺って普通の人間に戻ったのか?」
今の俺は、弱くなっている。
これまで得た力が、全て失われていると言ってもいい。
それなら俺は、元の人間に戻っていてもおかしくはない。そう思ったのだが、現実は残酷だった。
『……残念だけれど、元には戻れない。弱体化しているだけで、いずれ力は戻るでしょうね』
「そっか……それじゃあ仕方ないな……」
『ごめんね……』
「気にすんなって、元より覚悟の上だ。んで、どれくらいで戻るんだ?」
『そうね……三百年から千年後くらいかしら』
「それは戻るって言わなくね? え? 俺、そこまで生きてんの?」
イルミンスールの説明によると、今の俺はト太郎と同じ状態にあるらしく、肉体を得る為に眠りに着いているのと変わらないそうだ。
『ああ、そうそう。一応、人として死んだら、またここに戻って来るから、そのつもりでいてね』
「それってジジイになってってことか?」
『肉体を弱らせたいの? 見た目だけなら変えられるけど、本質は今と変わらないわよ』
「それで良い! それで良い! それをやってくれ!」
せめて、知り合いが生きている間は、人として生きて人として死にたい。それが叶うのなら、俺にとって十分な幸せだ。
「んじゃ、あとは痩せるだけだな!」
俄然やる気が出て来た俺は、早速ダイエットに取り掛かる。
いやね、直ぐに痩せると思ったんだよ。
肉体も弱体化しているし、少し走れば痩せると思ったんだよ。
でもね、これが痩せないの。
地下からメシアが出て来て、ランニングマシン作ってくれたけど、効果がほとんど無いの。
走り込みが足りないってメシアが判断して、背後にトラップ仕掛けられた時は、マジで死ぬかと思ったね。
こいつ、俺に仕返ししてんじゃないだろうな? て疑っちゃったけど、どうにも真面目に取り組んでいたみたいで、杞憂だった。
食事制限だってもちろんした。
蜜なんて一口も飲まなかったし、水とイルミンスールが作った野菜だけ。
これで痩せないのがおかしいってレベルの食事量だ。
それなのに、なかなか痩せなかった。
そう、まったく痩せなかったわけではない。
微々たるレベルだが、確かに痩せてはいたのだ。
俺は感動して震えていた。
まったく成果が見えなかったのに、ウエストが1センチも縮んだのだ。そりゃ、感動くらいするだろう。
それから一年後。
イルミンスールから提供される野菜を辞めたら、滅茶苦茶痩せたので、やっぱりこいつが原因だったんだなってなった。
とりあえず、助走をつけてイルミンスールに殴りに掛かったのは言うまでもない。




