ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その7
3下巻本日発売!
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勘兵衛は死んだはずだった。
命どころか魂まで消し去る刃を受けて、生きていられるはずがなかった。
だが生きていた。
また利用される為に生かされてしまった。
目を覚ますとかつて見た巨大な蛇がおり、動けなくなってしまった。
いや、腕も足も腹の一部も失っており、元々動けなかった。
それなのに生きているのは、目の前の蛇が何かをしているのだろうと察する。
蛇、ウロボロスは自身の体をある程度縮めると、勘兵衛を頭に乗せてある場所に向かう。
行き先は巨大な塔。
繋ぎ目の無い塔には、大量の蔦が巻き付いており、微妙なコントラストを演出していた。
勘兵衛はそれを見て、こんな所があったのかと感想を抱く。
美的感覚は、残念ながら勘兵衛には備わっておらず、これが良いのかは判断出来なかった。
ウロボロスは進んで行き、直ぐそばまで近付くと塔の一部が開き中に誘導される。
塔が閉まると、床が自動で動き下降を開始する。
「……っあ……」
塔の中には大量の絵が飾られており、数十年ぶりに綺麗だなという感想が漏れた。だけどそれは音にならなかった。どうやら、喉もやられているようだ。
最下層に到着すると、そこは真っ白な巨大な空間だった。
ウロボロスは向かうべき場所が分かっているのか、淡々と進んで行く。
しばらく進むと突き当たりに到着する。
少し待つと、そこに扉が現れた。
扉は自動で開き、ウロボロスを招き入れる。
その先にあったのは、これまた広い部屋と大きな球体。
球体は汚れ一つない白。それが、不気味に宙に浮いていた。
その球体を見て悟る。
これが迷宮の主だと。
圧倒的な存在感があるわけでは無い。
ただ直感でそう判断しただけだ。
だが、それは合っていたようだ。
球体から光が勘兵衛に向かって照射される。すると、戻らないはずの肉体は復元して行き、元に戻ってしまった。
ウロボロスの頭の上から下ろされる。
「あっ……体が……うっ⁉︎」
肉体が元に戻った。
それは魔人の肉体ではなく、本来の人間であった頃の肉体。
これまでの出来事が、頭の中に濁流のように流れ込んで来て、感情が暴走して吐き出してしまう。
幸いなことに胃の中には何も入っておらず、胃液が流れ出るだけだったが、立ち上がれないくらいに消耗してしまう。それでも、我慢出来ずに吐き続ける。
俺は何をやった?
どうして人を殺した?
どうして女子供まで殺せた?
どうしてこんなに多くの人を殺し続けた?
人を殺して、どうして喜んでいる?
なぜ、なんで、仲間まで殺しているんだ?
精神が崩壊しかける。
とても正気を保っていられず、勘兵衛は気を失ってしまった。
◯
起きて直ぐに自害しようとした。
しかしそこには何も無く、己の力で自傷しようにも魔力もスキルも何もかもを失っていた。
壁に頭をぶつけて死のうとしても、迷宮の主が回復して死なせてくれない。
ならばと、迷宮の主に殴り掛かっても、不可視の壁に阻まれて届かない。
腹も減らない。
精神も狂わない。
時折、過去の出来事がフラッシュバックして嘔吐するくらいで、他にすることも無い。
ここに閉じ込められて、どれくらい過ぎただろう?
やがて何も考えない術を覚えて、ただボウッと座る。
どれだけの時間、無気力に座っていただろうか。
段々と思い出すことがなくなり、精神が安定して来たのだと悟る。
だからだろうか、気になっていたことを迷宮の主に尋ねる。
「なあ、どうしてここに連れて来たんだ?」
わざわざ、自分なんかを助けるわけがないと理解している。
肉体まで再生させてここに迎え入れたからには、何かをやらせたいのだろう。
すると、迷宮の主から大量の情報が脳に直接届く。
「おえー……」
余りの情報量に、脳がオーバーヒートして再び嘔吐してしまう。
「くそっ……手加減しろ……おえっ」
流された情報は、迷宮が何故作り出されたか、その目的と歴史。そして、勘兵衛にやってもらいたいこと。
特に歴史は余りにも膨大で、迷宮の主に補助してもらわなければ、とても耐えられなかっただろう。
「はあはあ……っく。つまり、俺にあいつを止めろって言いたいのか?」
勘兵衛の問いに、そうだという意思が届く。
「ははっ、嫌だね。もうこれ以上、誰かに使われてたまるか」
断れば、消されるだろうと思っていた。
だが、予想に反して迷宮の主は何もして来ることはなかった。
また座り、ぼうっとする時間が続く。
余りにも暇で、迷宮の主に話し掛けるが、決まって膨大な量の情報が送られて来て、毎度吐いてしまう。
「なあ、頼むから普通に会話出来ないか? 毎回ゲロ吐きたくないんだよ」
『……これでいいか?』
お願いすると、どこからともなく声が届いた。
その声は勘兵衛よりもやや低音で、とても聞き取りやすい音だった。
「案外頼むもんだな……てっきり、また情報を流されるだけかと思ってた」
『効率の問題だ。この会話という行為は、余りにも非効率だ』
「そりゃ、あんだけの情報渡す方法がありゃ、そうかも知れないけどよ。人にとって会話ってのは、誰かとの交流を深めるのに重要なんだよ。俺にやらせたいなら、信用を勝ち取れよ」
『そうか、では会話をしよう。天津勘兵衛、何か質問は?』
「いや、そうじゃないんだけどよ……。まあいいか、とりあえず服をくれないか? ずっと裸ってのは、どうにも落ち着かん」
ここに来てからというもの、勘兵衛はずっと裸だった。
別に恥ずかしいという感情は湧かないが、単に収まらなくて落ち着かないだけだ。
勘兵衛の要望を聞いてか、目の前に服が現れる。
それは、記憶の中にある懐かしい服。
迷宮に潜る時に使っていた物で、穴が開く度に妻が補修してくれていた。思い出のある服だった。
その服を拾うと、雫がこぼれ落ちる。
どこからだろうかと訝しんでいると、次から次にこぼれ落ち、やがて勘兵衛の視界が歪み始めた。
「あー……ちくしょう……どうしてこうなるかなー」
湧き上がる後悔の念。
あの時、どうしてと考えてしまう。
もう、幸せな日々は戻らない。それなのに、どうしようもなく渇望してしまう。自分に、そのような資格が無いのは理解していも、どうしても望んでしまうのだ。
しばらく顔を上げられなくて、情けない姿をしているなと思い顔を上げる。
そこには、記憶の中にある妻の姿があった。
「あっ……」
分かっている。
これが、迷宮の主が作り出した偽物だと。
でも、それでも、我慢出来ないことはある。
「すまない! ほったらかしにしてしまった! 俺、人を殺してしまったんだ! あいつらも殺してしまった⁉︎ たくさん殺してしまった! お前ともっと一緒に居たかった! あいつらともっと一緒に居たかった! 平次の成長を見守りたかった! 幸せにしてやりたかった! すまない! こんな俺で……すまない……」
ただ妻を抱き締めて、独白していた。
途中から、言葉にならなくなっても言い続ける。
言っても言っても言い足りないくらいの思いが、沢山溜まっていた。
妻は、ただ黙って聞いてくれた。
幼子をあやすように、背中を撫でて落ち着かせようとしてくれる。
ただそれだけで十分だった。
たとえ偽物でも、また会えたのだと思わせてくれる。
「あなた」
記憶の中にある妻の声。
ハッとして顔を見ると、妻はいつもの優しい笑顔を浮かべていた。
「お疲れ様でした」
情けない己の心に嫌気がさす。
何せ、こんな簡単に心が救われてしまうのだから。
◯
結局はこうなる。
そうため息を吐きながら、勘兵衛は迷宮の主に告げる。
「いいぜ、やってやるよ。その杖を破壊すりゃいいんだな?」
救われてしまった。
そして、勘兵衛の中で吹っ切れてしまった。
『そうだ。あれさえ退ければ、私に手出しする必要がなくなる』
与えられた情報の中に、迷宮の主を追い詰めた存在がいた。
それは、今も塔に張り付いて離れない蔦の主人。
世界樹イルミンスール。
イルミンスールは迷宮の主を襲い力を奪った。その奪われた力は膨大で、かつて存在していた七体のウロボロスを殺してしまうほどだったという。
抵抗する迷宮の主だが、恐ろしい勢いで力を奪われてしまい、危機に追いやられる。
残ったウロボロスを、イルミンスールの本体に向かわせ事なきを得たが、もしも失敗していれば、この世界は消滅していた可能性があるという。
『何としても成し遂げてほしい』
「その男を殺してもいいんだろう?」
『やめておけ、どう足掻いても勝ち目は無い。ウロボロスも承知の上で挑むのだ。多少力が増えたところで、結果は変わらない』
「そうか……まあそうだよな。俺みたいな借り物の力じゃ、勝ち目は無いか」
相手はウロボロス以上の化け物。
破壊の権化と言っても過言ではない。
『あれと同じ道を辿れば、勘兵衛にも可能性はあった。だが、それも過ぎたこと。これから備わる力で、杖を破壊してほしい』
「ああ、分かってるよ」
そう告げると、勘兵衛の意識は深く沈んで行く。
人の肉体は分解され、新たな肉体を手に入れる。それは魔人化とは違い、人としての意識が保てている。
体の形は少しばかり変わってしまったが、それも力の代償と考えたら安い物だった。
新たな肉体は、よく馴染んだ。
スキルは何もかも失ってしまったが、それ以上の力がこの肉体にはあった。
それに、
「天断ち」
消えたと思っていた力が使える。
何故? と疑問に思っていると、迷宮の主が教えてくれた。
『勘兵衛を選んだのはその力だ。根幹を断ち切る力を持つ者は限られる。その上で、力に目覚める者も、また稀な存在なのだ。もしも生まれた時代が違えば、勘兵衛の立場はあちら側だっただろう』
「……」
何とも言えない気持ちになった。
勘兵衛の人生は普通ではないが、あっちの人生も変わらないんじゃないかと思えた。
勘兵衛は狂ったからこそ、ここまでたどり着き。
あっちは、地獄の中で正気を保ち、更に過酷な環境に身を置く必要がある。
どちらが楽かと聞かれたら、きっと前者を選ぶだろう。
それだけの道を、田中ハルトは歩んでいた。
外に出て体を慣らして行く。
本気で戦うのは一度きり、その一回の為に全てをぶつける。
世界を駆け巡り、力を使う。
ウロボロスをも越える力を手にしたというのに、頼りなく感じてしまうのは何故だろうか?
気持ちを落ち着かせるために地面に降りると、ある物を発見した。
それは、勘兵衛の右腕に付いていた対大型モンスター用殲滅兵器・参型だった。
残念ながら機能は停止しており、残骸と化していた。
「よう相棒。今考えると、お前がいてくれて良かったと思うよ。衝動を抑えてくれなかったら、俺はもっと人を殺していただろうからな……」
平次と対峙した時もそうだ。
右腕が退却を命じなければ、思いのままに戦って殺していた。
そうならなくて良かったと、本気で思っている。
「最後の勇姿、見ててくれよ」
勘兵衛は、対大型モンスター用殲滅兵器・参型を拾い持ち帰る。
操られていたとはいえ、長い時間を共に過ごしたのだ。少しくらいの情は湧いていた。
時は流れ、田中ハルトがやって来る。
◯
外の衝撃が塔の中にまで伝わって来る。
轟音は届いていないが、激しく塔が揺れている。
勘兵衛は、俺も一緒に戦った方がいいんじゃないかと、促すが、迷宮の主の返答は必要無いというものだった。
もしも外で戦えば、勘兵衛も共に殺される可能性が高いという。
それなら、この限られた空間の中で、力を制御させた方が成功率が上がるという。
もちろんこの成功率は、田中ハルトに勝てるという内容ではない。
イルミンスールを破壊出来るかという確率だ。
「止んだな、そろそろ来るか……」
迷宮の主がいる部屋から出て、白い空間で待つ。
見上げると、無限に広がる絵画が見える。
一枚として同じ絵はなく、一枚一枚にその地のどこかの誰かの記録と記憶が残されていた。
ここにある絵は、迷宮が取り込んで失われた場所や者達である。無闇に失われるのが惜しいと思い、迷宮の主が記録として残したのだ。
いつか、ここにある全てを復元する。
それが、迷宮の主の夢だった。
不可能な夢ではない。
箱庭を作って再現するのもいいだろう。
一度世界をリセットして、一から造り直すのも可能だ。
だが、それは出来ない。
それを実行するには、余りにも犠牲が多過ぎる。何より、それをやってしまっては、迷宮の主としての存在理由が無くなってしまう。
だから、出来なかった。
それが、迷宮の主の限界だった。
「まっ、思い通りに行くことなんて、そうあるもんじゃないよな」
視線の先、暗闇の中に光が灯った。
その光は余りにも神聖な魔力で、その保有量も桁違いに多かった。
「こりゃウロボロスも負けるわな……」
はっきり言って、絶望が降りて来ているようにしか見えなかった。
こんなのと戦わなければならないのかと思うとうんざりする。
「よう、久しぶりだな」
勘兵衛の最後の戦いが始まった。
◯
分かっていたことだ。
敵わないのは、最初から分かっていた。
「それでもな、ここまで差があるかよ⁉︎」
必殺の天断ちも、アマダチに受け止められてしまい効果を成さない。それどころか、彼方に飲み込まれて消滅してしまう。
武器が無くなり、わずかな間ガラ空きになる。
田中ハルトと目が合う。
以前のような太った体型ではなく、すらっとした優男の姿。まるで別人のようだなと、下らないことを考えてしまった。
頭部に衝撃が走る。
隙だらけの勘兵衛は、蹴り飛ばされて地面に叩き付けられてしまった。
追撃か、無数の風の刃が降って来る。
「ちっ⁉︎」
何とか避けようとするが、体が動かない。
先程、ウロボロスの動きを止めたように、同じ力で勘兵衛の動きを封じていた。
化け物め!
何も出来ずに一方的に甚振られる。不甲斐ない己を恨みながら、田中ハルトを睨み付ける。
無数の風の刃は勘兵衛に直撃、する直前に霧散してしまった。
何が起こったのか直ぐに理解する。
迷宮の主が干渉して、魔法を消し去ってしまったのだ。
動けるようになった勘兵衛は、起き上がり田中を見上げる。
田中は訝しんだ顔をしており、再び魔法を放つ。
だがそれも、迷宮の主は消し去ってしまった。
今の魔法では埒があかないと思ったのか、田中は収納空間から杖を取り出した。
あれだ。
勘兵衛の中で緊張感が高まる。
どうやって杖を使わせるのか悩んでいたが、ここで使ってくれた。
あとは、杖を破壊するだけっ⁉︎
ニィと笑った瞬間、体の半分が消滅する。
「はっ?」
魔法を放たれたのだと、半分が消えてから気付いた。
即座に再生するが、余りにも強大な力に冷や汗が止まらない。
魔法を認識出来なかった。
迷宮の主も消せないほどの魔法。
「ったく、嫌になるな……」
動く動く、魔法の狙いを定まらせないように全速力で動く。
放たれた魔法は光属性の魔法。その破壊力が凄まじく、勘兵衛の肉体は一瞬のうちに削り取り、床や壁は穴だらけになっていく。
床や壁や床は元に戻ろうとしているが、連続して開けられてしまい間に合っていなかった。
「くっ、天断ち!」
勘兵衛の天断ちは田中へと向かうが、魔法の手を止めさせただけで、手に溜めた盾のアマダチで受け止められてしまった。
「何でもありか⁉︎」
アマダチの形を変えるなど、勘兵衛では不可能だ。それを当然のようにやる田中が、一段と恐ろしく見えた。
魔法を避け、天断ちを繰り出す。
その連続をするだけで、杖に届く道がまるで見えない。
いくら魔力や体力が無尽蔵にあっても、こうも絶望的な状況では心も折れてしまう。
逃げ続ける勘兵衛に業を煮やしたのか、田中は一瞬で距離を詰めて白銀の大剣で首を狙う。
それを食らえば、今の勘兵衛でも死ぬ。
刀で受け、半回転しながら避けるが、動きを読まれていたようで左腕を斬り飛ばされてしまう。
「ぐっ⁉︎ おおーー‼︎‼︎」
これで、左腕は再生しない。それでも、右腕一本あればまだ立ち向かえる。
まだ、まだ、まだまだ、そう、まだ立ち向かえる……。
刃を届かせる為に、死に物狂いで抗う。
その結果、左足を斬り飛ばされ、腹を斬られて動きが鈍り、右目を斬られて視界が半減した。
「はあ! はあ! はあ! 来いよ! 俺はまだ死んでねーぞ‼︎」
体力は消耗していないはずなのに、極度の緊張から息が切れる。
集中しろ、集中して、わずかなチャンスを逃さないように、一太刀で良い、それだけで目的は達成される。
「……お前、何か企んでんだろう? ノイズが多くて、考えが伝わって来ないが、何か狙っているよな?」
「そりゃあんたの命だよ! これを一太刀入れりゃ、あんただって死ぬだろう?」
天断ちを作り出し、殺気をぶつける。
だが、田中にはまるで通じておらず、目を細めて品定めしているかのようだった。
「そんな軟弱なやつで死ぬか。……まあいいか、お前には悪いが終わらせてもらう」
左手にイルミンスールの杖を構え、右手には全てを消滅させるアマダチ。
ったく、恐ろしくてたまらない……。
どうやってもここで死ぬ。
肉体も、魂までも消される。
次の生もなく、ただ消える。
今更、命惜しさに縋り付くつもりは無いが、一言だけ伝言を頼みたかった。
「なあ、ひとつ頼みがある」
「……何だ?」
「マヒトに、すまないって、言っといてくれ」
「……ああ、分かったよ」
田中の悲しそうな顔を見た。
それで、あいつもいなくなってたんだなと悟る。
あの世には行けないが、伝言は頼んだ。
マヒトが転生すりゃ、こいつなら見抜いて伝えてくれるだろう。
そんな他人任せな願いだが、心が少しだけ軽くなった。
ふっと笑い、勘兵衛はある物に魔力を流す。
これは最後の仕掛け。上手く行かなくても、最後まで足掻いたのだと証明する為の仕掛け。
準備が整うと、勘兵衛は最後の攻撃を仕掛ける。
右足に力を込め飛び出す瞬間に、足が消失した。
容赦ないな!
魔法による攻撃だと認識して、落下する体を己の魔法で飛翔させる。
光が通り抜け、腹から下が消失した。
再生は可能だが、その隙に勘兵衛は何も出来ずに殺されるだろう。
「かっ‼︎」
最後の気合いの雄叫び。
腹が無くなり、声は出せなくても気迫だけは本物だ。
右腕に全力の天断ちを込めて、振り下ろす。
だが、何もかもが足りなかった。
「悪いな」
右腕が斬り飛ばされる。
それをスローモーションのように見て、己の力では何も出来なかったのだと虚しくなる。
田中ハルトは、上段に白銀の大剣を構えており、これが己を消すのだと勘兵衛は覚悟を決めた。
視界が真っ白に染まる中で、勘兵衛は悪足掻きをした。
対大型モンスター用殲滅兵器・参型に魔力を流し、右腕に装着したのだ。そこには、出力の弱い天断ちが伸びており、わずかだがイルミンスールの杖に届いていた。
勘兵衛は、見事に仕事を成し遂げて、この世から消え去った。




