ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その6
本日3下巻発売されます!
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白銀の大剣の使い手が判明して、やることが増えた。
ユグドラシルがいる森を監視し、異変があれば即座に攻め込む準備を進める。
目的はあくまでも白銀の大剣の使い手。
他はどうでもいい。
ユグドラシルを狙うと見せ掛けて、何としても力を手に入れる。
ゴーレムの作成を急ぎながら、対象が現れる時を待つ。昂る気持ちが己のものではないと理解しても、それを受け入れる勘兵衛。
たとえ上手く行っても、失敗しても、これで終わる。
それが、堪らなく嬉しかった。
チャンスは思わぬ形で訪れる。
世界樹ユグドラシルの上空に、あり得ない現象が起こったのだ。
空が割れ、地上と繋がった。
そして、森から飛び出した巨大なドラゴンが地上に向かって行った。
直後に激しい戦いが開始され、それが白銀の大剣の使い手なのだと判明する。
何が起こっているのか、勘兵衛は理解出来なかった。
だが、これがチャンスなのだと直感した。
ユグドラシルを狙うも良い、白銀の大剣の使い手を狙うのも良い。
「行くぞ!」
勘兵衛はゴーレム軍団に命令を飛ばし、世界樹ユグドラシルが治める国の近くに転移させる。
これは、一度きりの賭けだ。
混乱している間に奇襲をかけ、目的を達成する。
突然のゴーレムの襲来に混乱する住人達。
直ぐに守護者がやって来るが、数で押し切る。
用意したゴーレムの数は実に十万体。この数が一気に攻め込めば、ユグドラシルの守りは手薄になるだろう。
物量を持って激しく攻め立て、守護者を追い詰めて行く。
守護者を負傷させ、戦闘不能に追い込むが、命まで届かない。守護者が危険な状態になると、地面から蔦が現れ連れて行ってしまうのだ。
向かうのは恐らく世界樹ユグドラシルの麓、そこで治療していると推測される。そのまま、ユグドラシルの守護を任されているのだろう。
ならば、世界樹ユグドラシルを狙うのは得策ではない。
「やっぱ狙うならあっちか……」
上空では、白銀の大剣の使い手と黒い翼の天使が、巨大な黒龍と戦っている姿が見える。
二対一とはいえ、とても勝てるように見えない。
それだけ、あの龍は強い。
かつて見たウロボロスほどではないが、匹敵する力は持っている。いくらあの力を持っていたとしても、勝ち目は薄いだろう。
なら、殺される前に奪うまでだ。
勘兵衛は守護者に見付かる前に姿をくらまし、上空にある地上に向かって空間魔法を使う。
途中で天使とすれ違うが、勘兵衛に構っている余裕は無いようで見逃される。
どうやら、奈落から地上に向かおうとしているのは、勘兵衛だけではないようだ。他のモンスター達も、地上を目指しているようだった。
もしも、奈落のモンスターが一体だけでも地上に現れたら大惨事になる。
「ちっ⁉︎ 構ってる場合じゃないだろう!」
勘兵衛は飛行型のゴーレムに指示を出し、地上を目指すモンスターを攻撃するよう命令する。勘兵衛自身も刀を抜き、迫るモンスターを斬り伏せた。
この行動は勘兵衛の意思ではない。
対大型モンスター用殲滅兵器・参型の意思により実行されている。
空中を蹴り、昆虫のモンスターを叩き斬る。
体液が飛び散り、一部が体に掛かる。それが合図になったかのように、同種のモンスターが勘兵衛に標的を変えて襲って来る。
黒い炎を放ち一掃するが、残念ながらモンスターの数は膨大だ。
「キリがない⁉︎」
もう諦めて地上に向かおうと右腕に意思を送るが、返答は拒絶だった。
対大型モンスター用殲滅兵器・参型の意思は、創造主に似た人間を守る対象と見ている。その為なら、勘兵衛の肉体も捨てるつもりでいた。
このチグハグな感じが気に入らない。
対大型モンスター用殲滅兵器・参型は勘兵衛をモンスターと認識しており、使い潰すのに躊躇していない。そして、あの白銀の大剣の使い手も同じように見ている。
だというのに、同種の虚弱な存在を守ろうとする。
弱ければ守り、魔力を持ち強ければ討伐する対象に変わる。
改めて対大型モンスター用殲滅兵器・参型は、不完全なゴーレムなのだと勘兵衛は再認識する。
モンスターを倒しつつ対象を確認すると、遥か彼方に行って戦いは更に激化しているようだった。
このままでは間に合わない。
そう思い焦るが、世界を揺るがすほどの魔力の収束を感知する。
「……ありゃヤバいな」
魔力は黒龍のもの。
あれが放たれたら、世界が滅んでもおかしくはなかった。
この力を知覚したのは勘兵衛だけでなく、他の者らも同様だった。地上を目指していたモンスターは急いで逃げ出し、守護者達は呆然と事態を見守っていた。
そして、それは勘兵衛も同様だった。
破滅の魔法が放たれる。
それを塞ぐように、全てを断ち切る刃が衝突するが状況は絶望的。
勘兵衛の計画は失敗に終わる。かに思われた。
破滅の魔法は軌道を変えて、空高くに舞い上がり世界を明るく照らして消えてしまった。
まさかあれを防ぐとは思わなかった。
「ったく、そんな化け物を相手にしないといけないのかよ」
まったく馬鹿げている。
握る刀がガチガチと鳴り、くくっと笑い声が漏れる。
言葉とは裏腹に喜んでいる己に驚き、改めて俺は狂っているなと再認識した。
◯
事態は目まぐるしく変わる。
白銀の大剣の使い手の気配が消え、代わりに黒い翼の天使と黒龍の戦いが始まった。
どこに行ったのかと探していると、黒龍からまたしても強大な魔法が放たれる。
それは消滅の魔法。
範囲内の物質を即座に消し去る最悪の魔法。
上空に上がった黒龍は、無慈悲に魔法を発動する。
しかしそれは、この地に被害を及ぼさなかった。
何が起こったのかは、右腕を通じて知らされる。
かつて日本に落とされた爆弾。それと類似する物全てを、この世から消し去ったという。
どうして黒龍がそうしたかは分からない。
だが、そのおかげで黒龍も大きく消耗していた。
再び二対一の戦闘が繰り広げられる。
舞台は割れた空間を避け、大気圏外まで飛び出していた。
あそこまで行かれたら、勘兵衛では手が出せない。
指を咥えて待つことしか出来なかった。
「おい、邪魔すんなよ」
「何を企んでいるんです? まさか、観光でここにいるわけではないでしょう?」
上空を眺めていたら、背後をマヒトに取られてしまった。
「その観光だ。空に地上が映ってたからな、懐かしくて来てしまったんだよ」
「動かないでください。その戯言を誰が信じますか」
「まあ、そうだよな」
「ならば何が狙いです?」
マヒトは杖を構える。
それを察して刀に手をやるが、あることに気付いた。
「そうだな……死に場所、かな‼︎」
「ぐっ⁉︎」
振り返り、マヒトの鳩尾を殴り付けた。
衝撃で気を失い、マヒトは崩れ落ちる。
それを支えて、そっと地面に下ろした。
「魔力が残ってないのに、無茶すんなよ」
どういう訳か、マヒトの魔力は空になっていた。残っているのは、動く為の最低限の量だけ。
そんな状態でやって来るとは思わなかった。
「まっ、恨まれるだけのことはしたからな。悪いなマヒト」
会うのもこれで最後になるだろう。
そう覚悟して発した言葉だった。
上空を見上げると、黒龍の魔力が消え、砕かれた破片が流星のように降り注いでいた。
◯
予想に反して勝利したのは、白銀の大剣の使い手と黒い翼の天使だった。
勝利した二人だが、かなり疲労困憊の様子である。
狙うのなら、弱っている今。
どちらを狙っても問題ないが、やるなら因縁のある方だ。
右腕の意見を無視して、憎き敵である黒い翼の天使を狙う。
空間魔法で背後に飛び、右腕のゴーレムが天使の心臓を狙う。だが、どういう反射神経をしているのか、大剣の使い手は天使を庇ってしまう。
即座に狙いを変えた右腕は、白銀の大剣の使い手に狙いを変更して心臓を掴み、引き摺り出した。
「おいおい、今のに反応すんのかよ。半端ねーな」
そう称賛の言葉を贈るが、どうにもお気に召さなかったようだ。
「誰、だ?」
「そういや、俺とは初対面だったなっ⁉︎」
自己紹介をしようとすると、黒い翼の天使が斬り掛かって来る。しかし、疲れているのか前ほどの鋭さはなく、簡単に避けられる。
これなら、勝てるだろう。
そう確信出来るくらいには弱っている。
だというのに、トラウマは簡単には治ってくれない。
「ああっ、やべーな、お前を見ると怖くて震えて来る。だから弱ってるテメーを狙ったんだけどな」
いつもより動きが悪いのを自覚する。
口先ではどれだけ強がれても、魂に刻まれた傷だけは隠せない。
右腕が心臓を取り込み、目的の力を手に入れ高揚感が溢れて来る。この高揚感に身を任せてしまいたいが、それは許されない。
目の前の敵を殺すのだ。
そう奮い立たせて刀を握る。
右腕は撤退だと告げて来るが、そんなのは知らんと抵抗する。
「……ここまでお前に付き合ってやったんだ。最後くらい、俺に付き合えよ」
乱入して来た女を適当にあしらい、因縁の相手と決着をつける。
刀を握り締め、果敢に挑む。
肉体を乗っ取ろうとする右腕を拒絶し、己の全力を振り絞って懸命に攻め立てる。
それでも、黒い翼の天使の方が上。
弱っているというのに、この差は何だと怒りが湧く。
悔しくて悔しくて仕方ない。
女が邪魔をして来るとか、そんなの関係なく勝ち筋が見えない。
だが、それでいい。
新たに手に入れた力を使う。
「天断ちぃ!」
大剣とは違い、刀が出来上がってしまった。
力は同等だが、上手く使い熟せる気がしない。時間を掛ければ或いはと考えるが、恐らくその時間は無いだろう。
右腕が逃げろと指示を出す。
「うるせーよ」
そうポツリと呟いて無視すると、怒る天使と最後の勝負を仕掛ける。
勝てないのは分かっていた。
それでも、何の抵抗もせずに死ぬのは嫌だった。
「……これで仕舞いか」
白銀の光に包まれながら、勘兵衛の意識は遠のいて行く。
勘兵衛の人生は、どこまでも誰かに利用される人生だった。
国から人殺しを強要されて狂い、機械仕掛けのゴーレムからは道具のように扱われた。
それもこれで終わり。
俺を利用するから破滅するんだよ。
そう右腕に意思を送り、勘兵衛は消えた。




