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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その6

本日3下巻発売されます!

よろしくお願いします!

 白銀の大剣の使い手が判明して、やることが増えた。

 ユグドラシルがいる森を監視し、異変があれば即座に攻め込む準備を進める。


 目的はあくまでも白銀の大剣の使い手。

 他はどうでもいい。

 ユグドラシルを狙うと見せ掛けて、何としても力を手に入れる。


 ゴーレムの作成を急ぎながら、対象が現れる時を待つ。昂る気持ちが己のものではないと理解しても、それを受け入れる勘兵衛。


 たとえ上手く行っても、失敗しても、これで終わる。


 それが、堪らなく嬉しかった。



 チャンスは思わぬ形で訪れる。

 世界樹ユグドラシルの上空に、あり得ない現象が起こったのだ。


 空が割れ、地上と繋がった。

 そして、森から飛び出した巨大なドラゴンが地上に向かって行った。

 直後に激しい戦いが開始され、それが白銀の大剣の使い手なのだと判明する。


 何が起こっているのか、勘兵衛は理解出来なかった。

 だが、これがチャンスなのだと直感した。

 ユグドラシルを狙うも良い、白銀の大剣の使い手を狙うのも良い。


「行くぞ!」


 勘兵衛はゴーレム軍団に命令を飛ばし、世界樹ユグドラシルが治める国の近くに転移させる。


 これは、一度きりの賭けだ。

 混乱している間に奇襲をかけ、目的を達成する。


 突然のゴーレムの襲来に混乱する住人達。

 直ぐに守護者がやって来るが、数で押し切る。


 用意したゴーレムの数は実に十万体。この数が一気に攻め込めば、ユグドラシルの守りは手薄になるだろう。


 物量を持って激しく攻め立て、守護者を追い詰めて行く。

 守護者を負傷させ、戦闘不能に追い込むが、命まで届かない。守護者が危険な状態になると、地面から蔦が現れ連れて行ってしまうのだ。

 向かうのは恐らく世界樹ユグドラシルの麓、そこで治療していると推測される。そのまま、ユグドラシルの守護を任されているのだろう。

 ならば、世界樹ユグドラシルを狙うのは得策ではない。


「やっぱ狙うならあっちか……」


 上空では、白銀の大剣の使い手と黒い翼の天使が、巨大な黒龍と戦っている姿が見える。


 二対一とはいえ、とても勝てるように見えない。

 それだけ、あの龍は強い。

 かつて見たウロボロスほどではないが、匹敵する力は持っている。いくらあの力を持っていたとしても、勝ち目は薄いだろう。


 なら、殺される前に奪うまでだ。


 勘兵衛は守護者に見付かる前に姿をくらまし、上空にある地上に向かって空間魔法を使う。

 途中で天使とすれ違うが、勘兵衛に構っている余裕は無いようで見逃される。

 どうやら、奈落から地上に向かおうとしているのは、勘兵衛だけではないようだ。他のモンスター達も、地上を目指しているようだった。


 もしも、奈落のモンスターが一体だけでも地上に現れたら大惨事になる。


「ちっ⁉︎ 構ってる場合じゃないだろう!」


 勘兵衛は飛行型のゴーレムに指示を出し、地上を目指すモンスターを攻撃するよう命令する。勘兵衛自身も刀を抜き、迫るモンスターを斬り伏せた。


 この行動は勘兵衛の意思ではない。

 対大型モンスター用殲滅兵器・参型の意思により実行されている。


 空中を蹴り、昆虫のモンスターを叩き斬る。

 体液が飛び散り、一部が体に掛かる。それが合図になったかのように、同種のモンスターが勘兵衛に標的を変えて襲って来る。


 黒い炎を放ち一掃するが、残念ながらモンスターの数は膨大だ。


「キリがない⁉︎」


 もう諦めて地上に向かおうと右腕に意思を送るが、返答は拒絶だった。

 対大型モンスター用殲滅兵器・参型の意思は、創造主に似た人間を守る対象と見ている。その為なら、勘兵衛の肉体も捨てるつもりでいた。


 このチグハグな感じが気に入らない。

 対大型モンスター用殲滅兵器・参型は勘兵衛をモンスターと認識しており、使い潰すのに躊躇していない。そして、あの白銀の大剣の使い手も同じように見ている。

 だというのに、同種の虚弱な存在を守ろうとする。


 弱ければ守り、魔力を持ち強ければ討伐する対象に変わる。


 改めて対大型モンスター用殲滅兵器・参型は、不完全なゴーレムなのだと勘兵衛は再認識する。


 モンスターを倒しつつ対象を確認すると、遥か彼方に行って戦いは更に激化しているようだった。


 このままでは間に合わない。

 そう思い焦るが、世界を揺るがすほどの魔力の収束を感知する。


「……ありゃヤバいな」


 魔力は黒龍のもの。

 あれが放たれたら、世界が滅んでもおかしくはなかった。

 この力を知覚したのは勘兵衛だけでなく、他の者らも同様だった。地上を目指していたモンスターは急いで逃げ出し、守護者達は呆然と事態を見守っていた。


 そして、それは勘兵衛も同様だった。


 破滅の魔法が放たれる。

 それを塞ぐように、全てを断ち切る刃が衝突するが状況は絶望的。


 勘兵衛の計画は失敗に終わる。かに思われた。


 破滅の魔法は軌道を変えて、空高くに舞い上がり世界を明るく照らして消えてしまった。


 まさかあれを防ぐとは思わなかった。


「ったく、そんな化け物を相手にしないといけないのかよ」


 まったく馬鹿げている。

 握る刀がガチガチと鳴り、くくっと笑い声が漏れる。


 言葉とは裏腹に喜んでいる己に驚き、改めて俺は狂っているなと再認識した。





 事態は目まぐるしく変わる。

 白銀の大剣の使い手の気配が消え、代わりに黒い翼の天使と黒龍の戦いが始まった。

 どこに行ったのかと探していると、黒龍からまたしても強大な魔法が放たれる。


 それは消滅の魔法。

 範囲内の物質を即座に消し去る最悪の魔法。

 上空に上がった黒龍は、無慈悲に魔法を発動する。


 しかしそれは、この地に被害を及ぼさなかった。


 何が起こったのかは、右腕を通じて知らされる。

 かつて日本に落とされた爆弾。それと類似する物全てを、この世から消し去ったという。


 どうして黒龍がそうしたかは分からない。

 だが、そのおかげで黒龍も大きく消耗していた。


 再び二対一の戦闘が繰り広げられる。


 舞台は割れた空間を避け、大気圏外まで飛び出していた。


 あそこまで行かれたら、勘兵衛では手が出せない。

 指を咥えて待つことしか出来なかった。


「おい、邪魔すんなよ」


「何を企んでいるんです? まさか、観光でここにいるわけではないでしょう?」


 上空を眺めていたら、背後をマヒトに取られてしまった。


「その観光だ。空に地上が映ってたからな、懐かしくて来てしまったんだよ」


「動かないでください。その戯言を誰が信じますか」


「まあ、そうだよな」


「ならば何が狙いです?」


 マヒトは杖を構える。

 それを察して刀に手をやるが、あることに気付いた。


「そうだな……死に場所、かな‼︎」


「ぐっ⁉︎」


 振り返り、マヒトの鳩尾を殴り付けた。

 衝撃で気を失い、マヒトは崩れ落ちる。

 それを支えて、そっと地面に下ろした。


「魔力が残ってないのに、無茶すんなよ」


 どういう訳か、マヒトの魔力は空になっていた。残っているのは、動く為の最低限の量だけ。

 そんな状態でやって来るとは思わなかった。


「まっ、恨まれるだけのことはしたからな。悪いなマヒト」


 会うのもこれで最後になるだろう。

 そう覚悟して発した言葉だった。



 上空を見上げると、黒龍の魔力が消え、砕かれた破片が流星のように降り注いでいた。





 予想に反して勝利したのは、白銀の大剣の使い手と黒い翼の天使だった。

 勝利した二人だが、かなり疲労困憊の様子である。


 狙うのなら、弱っている今。

 どちらを狙っても問題ないが、やるなら因縁のある方だ。


 右腕の意見を無視して、憎き敵である黒い翼の天使を狙う。


 空間魔法で背後に飛び、右腕のゴーレムが天使の心臓を狙う。だが、どういう反射神経をしているのか、大剣の使い手は天使を庇ってしまう。


 即座に狙いを変えた右腕は、白銀の大剣の使い手に狙いを変更して心臓を掴み、引き摺り出した。


「おいおい、今のに反応すんのかよ。半端ねーな」


 そう称賛の言葉を贈るが、どうにもお気に召さなかったようだ。


「誰、だ?」


「そういや、俺とは初対面だったなっ⁉︎」


 自己紹介をしようとすると、黒い翼の天使が斬り掛かって来る。しかし、疲れているのか前ほどの鋭さはなく、簡単に避けられる。


 これなら、勝てるだろう。

 そう確信出来るくらいには弱っている。


 だというのに、トラウマは簡単には治ってくれない。


「ああっ、やべーな、お前を見ると怖くて震えて来る。だから弱ってるテメーを狙ったんだけどな」


 いつもより動きが悪いのを自覚する。

 口先ではどれだけ強がれても、魂に刻まれた傷だけは隠せない。


 右腕が心臓を取り込み、目的の力を手に入れ高揚感が溢れて来る。この高揚感に身を任せてしまいたいが、それは許されない。

 目の前の敵を殺すのだ。


 そう奮い立たせて刀を握る。

 右腕は撤退だと告げて来るが、そんなのは知らんと抵抗する。


「……ここまでお前に付き合ってやったんだ。最後くらい、俺に付き合えよ」


 乱入して来た女を適当にあしらい、因縁の相手と決着をつける。


 刀を握り締め、果敢に挑む。

 肉体を乗っ取ろうとする右腕を拒絶し、己の全力を振り絞って懸命に攻め立てる。


 それでも、黒い翼の天使の方が上。

 弱っているというのに、この差は何だと怒りが湧く。

 悔しくて悔しくて仕方ない。


 女が邪魔をして来るとか、そんなの関係なく勝ち筋が見えない。


 だが、それでいい。


 新たに手に入れた力を使う。


「天断ちぃ!」


 大剣とは違い、刀が出来上がってしまった。

 力は同等だが、上手く使い熟せる気がしない。時間を掛ければ或いはと考えるが、恐らくその時間は無いだろう。


 右腕が逃げろと指示を出す。


「うるせーよ」


 そうポツリと呟いて無視すると、怒る天使と最後の勝負を仕掛ける。


 勝てないのは分かっていた。

 それでも、何の抵抗もせずに死ぬのは嫌だった。


「……これで仕舞いか」


 白銀の光に包まれながら、勘兵衛の意識は遠のいて行く。


 勘兵衛の人生は、どこまでも誰かに利用される人生だった。

 国から人殺しを強要されて狂い、機械仕掛けのゴーレムからは道具のように扱われた。


 それもこれで終わり。

 俺を利用するから破滅するんだよ。

 そう右腕に意思を送り、勘兵衛は消えた。


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― 新着の感想 ―
勘兵衛って常に何かに流されている印象だな 逆にハルトは常に抗っている印象 その違いが両者の差なのかなと思う
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