ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その5
本日、無職は今日も今日とて迷宮に潜る3下巻発売です!!!!
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地上への道は、すでに見つけている。
秘密基地から離れた火山の麓、そこに81階に続く階段があった。
勘兵衛は階段を使い、81階に向かう。
そこには、5つのポータルと別の道に続く扉があった。
この扉は、残念ながら勘兵衛では開けられない。これを開けるには、順当に攻略して資格を得なければならない。
ポータルの一つに乗ると、1階にあるポータルへと飛ばされる。
この景色を見て、まず懐かしいと感じた。
「……ここは変わってないな」
記憶にある景色と同じ。
あの頃のように人がいるわけではないが、思い出すと胸に去来する物がある。
そんな己に「ははっ」と自嘲する。
自分の手で捨てたのに、何感傷に浸っているんだと、己が浅ましく思えてしまった。
右腕と顔を隠す為、ローブを深く被り迷宮を出る。
「おお、発展してるな……」
最初に目に飛び込んで来たのは、大きなビル。
そこに多くの人の気配があるのを感じ取る。
次に見えたのは地面。ボコボコとした剥き出しだった地面が、平面に舗装されていたのだ。また、迷宮に至る道には街路樹や街灯も設置されており、記憶の中とまるで合致しなかった。
一体、どれだけの時間が過ぎたのだろうか?
立ち止まって眺めていると、探索者パーティが勘兵衛を追い越して行く。
その後ろ姿をぼうっと見て、あることに気付く。
「……何で殺したくならない?」
あの時、仲間を殺した時、人を殺したいというモンスター特有の衝動に逆らえなかった。
大切な仲間を殺す。それだけ強力な欲求だったのに、今はそれが無い。
この疑問には、右腕が答える。
答えは単純で、不要な欲求を消したという。
「このくそっ」
ガンッと右腕を叩く。
人を勝手に改造しやがって。
だが、これのおかげで地上でも活動出来るようになる。
まるで人間だった頃のように、街中を見て回る。
記憶との違いに、望郷の念のような感傷は湧かないが、人間に戻ったかのような感覚に陥る。
かつて住んでいた家は無くなり、大きな商店に代わっている。
仲間達とよく行った飲み屋も、潰されて公園になっていた。
妻はどうしただろうか?
平次は?
気になりはするが、それだけだった。
会いたいとも思わないし、どうなっていようと助けもしないだろう。
これが、魔人化した影響なのか、右腕に操られているからなのか不明だが、それも含めてどうでもいいと考えてしまう。
もう一度右腕を殴っておく。
一通り見て回ると、目的の人物を探しに動く。
どんな奴なのかまるで分かっていないが、対大型モンスター用殲滅兵器・参型を倒すほどの実力の持ち主だ。早い内に頭角を現していてもおかしくはない。
迷宮の近くに戻ると、ビルにある文字が掲げられているのに気付く。
【探索者協会】
勘兵衛の時代には無かった組織だ。
もしや、御庭番の連中が探索者を管理する為に組織したのかと思ったが、実態は違っていた。
「まさか、あの坊主がやるとはな」
息子の平次が、御庭番を壊滅させて組織を立ち上げたのだという。
それも、当代最強の探索者として名を馳せていた。
興味が湧いた。
時代的に平次が対象であるとは考え難いが、現在の探索者のレベルを知るいい機会だと思ったのだ。
恐らく平次がいるのは、このビルの中央の階。
そこに大きな魔力があった。
正面からは向かわず、まずは外から様子を窺おう。
と考えたのだが、自分の息子を甘く見ていたと悟る。
迷宮に登り、そこから中の様子を見ようと目を強化して覗き見る。すると、中年の男と目が合った。
空間魔法とは便利な物だ。
転移魔法よりも早く発動可能で、熟練者になれば予備動作もほぼ無い。それは、勘兵衛も使用しているので実感している。
だが、相手に使われると、想像以上に厄介だった。
「っ⁉︎」
突然現れる平次。
恐ろしい長剣が握られており、勘兵衛目掛けて振り下ろされる。
それを既のところで避け、魔法を放ちながら距離を取る。
咄嗟に放った魔法に大した威力はなく、簡単に防がれてしまう。だが、動きを止められた。
「どうして魔人が外にいる? それも、かなり強いな……」
平次は、目の前の男が父親だとは気付かない。
ローブを被っているのもあるが、たとえ顔を見たとしても判断は付かなかっただろう。
それだけ、勘兵衛は変わってしまったのだから。
「いや悪い、余りにも強そうだったから覗き見しただけなんだ。別に誰にも危害を加える気は無い、お前とも争いたくは無い。ここは、見逃してくれないか?」
これは本心。
地上に戻ったのはあくまでも調査で、対象を発見できなければ奈落に戻るつもりでいる。これは、対大型モンスター用殲滅兵器・参型の意思でもある。
対大型モンスター用殲滅兵器・参型の目的は、名前の通り大型モンスターの殲滅。魔力を必要としない人の世界は、守るべき世界でもあった。
だから、ここで争うつもりは無いのだが……。
「魔人の言葉ほど信用出来ないものはないな……」
「聞かん坊め……」
平次は知らぬ間に、実の父と戦いを繰り広げる。
長剣と刀が斬り結び、無数の魔法が飛び交いダンジョンの上で激しくぶつかり合う。
かつての最強と現在最強の探索者の戦闘は、段々と規模を拡大させて行く。このまま戦い続ければ、街にまで被害が及ぶだろう。
それを危惧した平次は、早々に決着を付けるべく全力を出す。
「天断ち一閃!」
それはかつて見た友の技。
模倣でしかないが、平次の必殺の一撃。
全てを断ち切るような特性は持っていなくても、限りなく近い威力を発揮していた。
恐ろしい一閃が、空を駆け抜ける。
これをまともに食らえば、勘兵衛でもただではすまない。
だが、そうはならなかった。
「そこまで付き合ってやれるかよ」
勘兵衛は天断ち一閃が放たれると同時に、この場から離脱。ダンジョンの中に逃げ込んでいた。
こうして、最初で最後の親子の再会は幕を閉じた。
◯
それからの勘兵衛は、ゴーレムの強化を進めつつ、地上で目ぼしい探索者を試して行く。
平次に見つかり、地上での活動はやり難くなったが、ダンジョン内で戦えば問題はなかった。
そんなある日、ゴーレムが暴走した。
保有魔力を拡大して、対大型モンスター用殲滅兵器・参型に近い容量にすると、突然自我を持ち暴れ出したのだ。
その被害は甚大で、秘密基地を半壊させてしまうほどだった。
「くそが‼︎ せっかくここまで作ったのによう! 何してくれたんだ!」
右腕もガチガチと動き、珍しく怒っている様子だった。
だが、この怒りは暴走したゴーレムに向いたものではない。どうなるかという好奇心から、試してみた勘兵衛に向けられたものだ。
右腕が動き、勘兵衛の顔を殴打する。
真面目にやれという意思だ。
「ごふっ⁉︎ くそっ、失敗しただけだろうが。次は隔離した所でやるよ」
もう一度右腕が動く。
また顔面だろうと身構えた勘兵衛だが、次は腹を殴打された。
今回の被害で、計画は大きく後退してしまった。なのに、またやろうとしている勘兵衛に怒りを抱いていた。
「ぐふっ⁉︎ 分かってるって、次はちゃんとやるからよ」
何も理解していない勘兵衛に、対大型モンスター用殲滅兵器・参型は呆れて何も抗議しなくなった。
その後、地上で勘兵衛は己の身内を殺す。
いつも通り、目ぼしい奴を相手にしていたのだが、どうやらその中に混ざっていたらしい。
それを、かつての仲間だったマヒトから知らされた。
平次の息子であり、勘兵衛の孫である男を殺した。
だが、何も感じなかった。
それを、虚しいと思ってしまった。
マヒトと戦闘になり勝利するも、トドメを刺さなかったのは、何も感じないのなら殺しても意味がないと思ったからだ。
対大型モンスター用殲滅兵器・参型は殺して取り込めと五月蝿かったが、無視してマヒトを放置した。
ただ、それだけの出来事だった。
◯
孫を殺してからも、勘兵衛は地上を見て回った。
そんな些細な出来事で、あの力を諦める理由にはならなかった。
いつまで経っても現れない。
どの強者も平次には程遠く、見た目だけで違うと分かる。
他のダンジョンにも向かうが、結果は同じ。
それでも探し続けた。
だからだろうか、奈落に戻ると秘密基地が壊滅していたのは。
「これは何の冗談だ?」
秘密基地の周りには激しく争った形跡があり、何者かに襲撃された可能性が極めて高い。
破壊された多くのゴーレム。
そして、襲撃して来たであろうデーモンの姿も見える。
すでに死んだデーモンに近付き、右腕が取り込む。
記憶をあさり、何が目的なのかを探る。そこにあったのは、偶々ゴーレムの軍団を見つけたから襲撃したろ、というふざけた内容だった。
ここまで入念に準備を行っていたというのに、そんな軽い理由で台無しになってしまった。
秘密基地の内部を調べると、地下の倉庫に並べられたゴーレムと、その奥にある実験室は無事だった。
まだ何とかなる。
計画は大幅に狂ってしまったが、これで終わりではない。
「あの野郎、絶対に殺してやるからな」
思い浮かべるのは黒い翼の天使。
考えるだけで震え出すが、それを上回る怒りが湧いて来る。
白銀の大剣の使い手の捜索は一旦止め、ゴーレムの作成に集中する。
数よりも質を。これをコンセプトに、自我が芽生えないギリギリを狙って造り出して行く。
慎重に、もっと強く、暴走させないように、怒りをぶつけるように、従順で強力なゴーレムを一体作り上げた。
かなりの労力を掛けただけあり、相当の力を持ったゴーレムに仕上がった。勘兵衛でも倒すのに梃子摺るだろう強さだ。
正に、天使に対して強力な切り札と言っても過言ではなかった。
そんなゴーレムだが、見事に暴走してしまった。
「なんでこうなる⁉︎ いや、まだそう決めつけるのは……」
今回のゴーレムは、対天使として造り出したというのもあり、天使を感知することが出来る。もしも近くに天使がいるのなら、勝手に動き出したとしてもおかしくはなかった。
まだ可能性はあるか? あまり期待はしていないが、少なくとも天使に見付かる前にどうにかしたい。まだこちらの準備は整っていないのだ。
発信機を頼りに、ゴーレムを追う。
途中で破壊されたという情報が入って嫌な予感がしたが、ゴーレムの残骸を解析すると、とても喜ばしい情報が入っていた。
白銀の大剣の使い手が現れたのだ。




