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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その4

明日3下巻発売されます。

よろしくお願いします!

 目覚めると、空は黒かった。


 急いで起き上がり辺りを警戒するが、何も無い。

 あるのは暗い空間で、満月の月明かりの光量の明るさを保っていた。

 ただ何も無い、無音の空間が広がっている。


「……俺、食われたよな?」


 確か巨大な蛇に飲み込まれたはずだが、何故か生きている。

 それどころか、信じられないほど、


「体が軽い? いや、力が漲る!」


 体の奥底から力が溢れて来るような感覚に襲われる。


 勘兵衛が声を出したからか、夜の世界の住人がやって来る。

 それはドラゴンのスケルトン。


 見上げるほど大きくはあるが、何故か脅威には感じなかった。巨大な蛇を見たからだろうかと訝しむが、それも違うような気がした。


 ただあるのは、負けないだろうという自信。


 スケルトンドラゴンの口から、何もかもを溶かす毒のブレスが放たれる。

 縮地で避けると、対抗するように炎の魔法を放つ。


「おっ?」


 そこから放たれた炎は黒色をしており、毒のブレスを燃やしそのまま侵食して行き、最後はスケルトンドラゴンに飛び火した。

 頭部が燃え、骨の龍は苦しそうに鳴く。

 だが、それも少しの間で、スケルトンドラゴンの魔力により消されてしまった。

 怒りの感情が勘兵衛に向く。


「骨のくせに、一丁前に怒ってんじゃねーよ」


 言っている意味を理解しているのか、スケルトンドラゴンは骨を鳴らし己の全力を使って、勘兵衛を殺しに掛かった。


 スケルトンドラゴンは速い。

 縮地を使わなければ、避けられないほど速い。

 そして、その巨体は硬く、勘兵衛の持つ刀では通じない。


 だが、魔法は通じる。

 威力が格段に上昇している魔法は、スケルトンドラゴンを削り燃やし、砕いて行く。


 笑う。勘兵衛は笑いながらスケルトンドラゴンに魔法を放ち続け、ついには倒してしまう。


 最後に、カタカタと鳴る頭部を砕き勘兵衛は勝利した。


「クハッ! いいねー! 最高に良い‼︎」


 倒した達成感。

 何より、今のスケルトンは黒い線よりも強かった。それに勝利したのだ。確かな成長に、勘兵衛は興奮する。


「ん? ……何だ?」


 右手の手首に、♾️の痣が浮かび上がっていた。


 それは、上位の存在が下位の者に力を与える加護の証。

 勘兵衛は知らなかったが、飲み込まれた時にウロボロスから加護を与えられていた。

 この奈落では、ウロボロスよりも強い存在はほとんどいない。わずかな間存在していたが、それも大元が排除されており、実質最強と呼んで差し支えなかった。

 それだけの存在に力を与えられた。

 おかげで、奈落のモンスターにも引けを取らない力を手に入れた。


「まあいいか。にしても、ここはどこだ? 昼か夜かも分かんねーや」


 呑気に発しながら、勘兵衛は奈落の世界を探索する。


 腹が減ればモンスターを喰らい、喉が渇けば血で潤した。人を辞めたからか、不思議と眠くはならず、ただ歩き続けた。


 夜と昼の世界を四度経験し、ある森にたどり着く。

 その森のモンスターは、外と比べて若干弱かった。その上、いくつか食料もあり、久し振りにまともな食事にありつけた。


「そろそろ武器が欲しいな。何かないか……お?」


 森の中を散策していると、何やら争う気配を察知した。

 何が争っているんだ? と興味本位で近付いてしまう。


 ここで、最大のトラウマを植え付けられるとも知らずに。





「はあ! はあ!はあ! 何だっ、何なんだよあのガキ⁉︎」


 いつもより鈍い体を必死に動かして、森の中を駆け抜ける。

 翼を生やした奴らが暴れていたから、興味本位でちょっかいを出してしまった。それが全ての失敗だった。


「くそっ! くそぉ‼︎ 俺の力が‼︎」


 無くなった。

 持っていたはずの力が無くなった。

 全てではないが、大半のスキルを失ってしまった。


 それだけではない。


「ぐっ⁉︎ くそ、右腕が再生しない!」


 白銀の刃に切り落とされた右腕の治療が出来ない。

 全属性魔法のスキルは残っているのに、治癒魔法が右腕に効かないのだ。

 血が流れ落ち、段々と動くのが億劫になって来る。


 上空から光の槍が落とされる。


「っ⁉︎ がっ⁉︎」


 横に跳び避けるが、続く槍に足が貫かれてしまう。

 派手に転び、受け身も取れずに地面に叩き付けられる。

 この程度、大したダメージではないのだが、光の槍を放った存在を見て動けなくなる。


「うっ、あ……」


 それは恐怖から。

 舞い降りる天使達は純白の翼を閉じ、勘兵衛を睨み付けた。


『始末する』


「おおおあああぁぁぁーーーっ!!」


 我武者羅に動いて、少しでも遠ざけようと足掻く。

 このような無様な姿を晒しても、勘兵衛は天使達から離れたかった。


 勘兵衛の恐怖の対象は、この天使ではない。

 恐怖の対象は、勘兵衛の右腕と力を奪った子供の天使だ。

 そうだとしても、似た姿をした天使に恐怖心を抱いてしまうのは仕方ないだろう。


 必死に足掻く。

 足掻くが、武器を持った天使は容赦なく勘兵衛の腹に槍を突き刺す。


「がほっ」


 間抜けな声が漏れた。

 だが、それ以上は何も言えなくなり、力が抜けて行く感覚を覚える。


 死ぬのか?


 もう一体の天使が、勘兵衛の顔面に突き入れようとしている。このままでは、勘兵衛は死んでしまうだろう。


 恐らく、ここで終わる方が勘兵衛に取っては幸せだった。


 これから先、とても酷い生が待っているのだから。


 そうならなかったのは、無様な敗者が出会ってしまったから。


 左手を着いた先に、とあるゴーレムの核が落ちていた。


 その核は勘兵衛の肉体を即座に操り、己を武器に変えて二本の槍を破壊する。

 

『なっ⁉︎』


 驚く天使に向かい、勘兵衛は動き出す。

 残念ながらここに勘兵衛の意思は存在していないが、大量の血を撒き散らしながら天使を切り伏せてしまった。


 朦朧とする意識の中で、勘兵衛は己が乗っ取られて行くのを知覚する。傷が塞がって行くのと同時に、肉体が奪われて行く。


「……ああ、気持ち悪」


 それは嫌だと心の中で抵抗すると、残っていた【完全異常耐性】により弾くのに成功する。しかし、肉体の半分は奪われてしまっていた。そのおかげで傷は塞がり、出血は止められたので、勘兵衛は仕方ないかと諦めた。


「っ⁉︎ おいやめろ! 頭の中引っ掻き回すな!」


 乗っ取るのは不可能だと判断したのか、ゴーレムである対大型モンスター用殲滅兵器・参型から大量の情報が流される。【高速思考】で何とか捌き切れたが、これが常人なら頭がパンクしていただろう。


 全ての情報が渡されると、対大型モンスター用殲滅兵器・参型は魔力切れにより待機状態に入る。


「ちっ、強制かよ」


 右腕になったゴーレムを見て悪態を吐く。


 最後に対大型モンスター用殲滅兵器・参型の目的を渡された。これに従わなければ、傷を開くという脅し付きで。

 腹の傷はどうにでもなるが、右腕だけはどうにもならない。

 この腕を外せば、また血が流れ出すだろう。

 あの白銀の刃は、対象の存在その物を否定する。


「……くそっ、震えが止まらねぇ」


 思い出すだけで恐怖してしまう。


 黒い翼を持つ天使の子供は、勘兵衛の奥深くまで恐怖を刻み付けていた。





 対大型モンスター用殲滅兵器・参型の目的は、世界樹ユグドラシルを取り込むこと。


 ウロボロスと同等の格を有しながら、戦闘能力は格段に弱い。

 他の要素に突出しているというのもあるが、それでも対大型モンスター用殲滅兵器・参型でも勝利出来る程度の強さだ。


 世界樹ユグドラシルを取り込めば、膨大なエネルギーを使い、強力な新たなボディを作り出せる。それは、ウロボロスのような大型モンスターの討伐も可能な性能を持ち、真の意味で対大型モンスター用殲滅兵器になれるのだ。


 それを達成するには、二つ突破しなければならない難関がある。


 一つは、世界樹ユグドラシルが保有している戦力の殲滅。

 ユグドラシルには、守護者と呼ばれる護衛が付いている。ほとんどの守護者は大したことないのだが、上位四体は油断出来ない相手だ。

 特に、ミューレなる天使は危険で、対大型モンスター用殲滅兵器・参型でも負けると試算が出た。


 二つ目は、かなり困難な内容である。

 対大型モンスター用殲滅兵器・参型を破壊した力を手に入れること。

 アマダチと呼ばれる白銀の刃を取り込み、己の力とする。

 これが困難な理由は、対象の力が強いというのもあるが、どこの誰かも分からないからだ。

 映像は残っているのだが、その全てにノイズが入っており男か女かも不明。分かるのは、白銀の大剣を握っているという情報だけだ。


「これって、あのガキが使ってたのと同じだよな……くそ」


 思い出すだけで手が震え出す。


 映像に残っていた物と、あの天使が使っていた物は同種のはずだ。なら、判明している方を取ればと提案するが、対大型モンスター用殲滅兵器・参型から否定された。


 まず出力が違うという。

 取り込んだ時点の性能しか発揮出来ない対大型モンスター用殲滅兵器・参型では、あの程度の力を取り込んでも意味が無いのだ。

 ただ、あの子供が成長すれば、それも検討するという。


「そうなったら、勝てそうもないな……」


 どうにも勝利するヴィジョンが見えない。

 あれは強くなる。

 それも、とんでもなく。


 嫌だ嫌だと頭を振りながら、手を動かしゴーレムを作成して行く。


 今いるのは、森から遠く離れた岩場の一画。

 そこに穴を掘り、ゴーレムを量産する秘密基地を構えたのだ。

 対大型モンスター用殲滅兵器・参型の指示に従い、魔法で部品を作り出し、モンスターの一部と融合させて作り上げて行く。

 実に地味な作業だが、これで目的が達成出来るのなら安い物だ。


「そりゃお前の考えだろう」


 右腕をガンと叩き、思考を乗っ取ろうとするのを止める。


 油断すれば、意識を乗っ取ろうとする。

 まだスキルが残っているとはいえ、それを上回られたら、気付かない内に勘兵衛は己を失ってしまうだろう。


 すでに、人であった頃の倫理観は失っているが、己という存在まで失うつもりはない。


「いつか壊してやるからな」


 対大型モンスター用殲滅兵器・参型が乗っ取ろうとするように、勘兵衛もまた、右腕を治す手立てが見付かれば、機械の腕を破壊するつもりでいた。


「部品の調達に行くか」


 素材にしているモンスターが無くなり、外に補充しに向かう。



 長い長い月日が過ぎて行く。

 強化したゴーレムが意思を宿し暴走することもあったが、概ね順調に準備は整って行く。上手く進んでいるはずなのだが、どれだけ計算しても成功率は三十パーセントを下回る。


「ゴーレムの数を増やすか? いや、そんなことしても誤差の範囲だな……奴を探すか?」


 奴とは、白銀の大剣の使い手。

 先に力を手に入れ、それからユグドラシルを攻略する方が確率が上がるのではないかと考えた。


 白銀の大剣の使い手で分かっているのは二つ。


 一つは、人間であるということ。

 対大型モンスター用殲滅兵器・参型が片腕を奪って解析した結果、勘兵衛とよく似た種族だと判断したのだ。

 ならばそれは人間だろう。

 勘兵衛は人ではない。魔人と呼ばれるモンスターになっており、人間とは異なる種になっているのだから。


 二つ目は、未だ生まれていない可能性があるというものだ。

 これは、あくまでも可能性。

 使い手がわずかではあるが、時間を止めたのを観測した。

 それが何らかの道具を使用してか、己の能力かは定かではないが、確かに時間を操っていた。

 これは、対大型モンスター用殲滅兵器・参型でも不可能な事象だ。もしも時間が操れるのなら、過去にタイムトラベルしていてもおかしくはなかった。


 それに、あの黒い翼の天使も誰かを探していた。

 ガネーシャなるモンスターから、未だ生まれていないと助言を受けたという情報もある。


「奴を出し抜けば、少しは震えは治るのか?」


 どれだけ時間が経っても、魂に刻まれた恐怖は拭えない。


 黒い翼の天使を見付けたのは偶然だった。

 デーモンなるモンスターが数を増やし、徒党を組んで他のモンスターを襲っているのを見かけた。

 群れを作るのならば、必ず上位の存在がいるはずだ。

 それだけのモンスターならば、かなりの素材になると考えて跡を付けたのだが、その先にいたのがあの天使だった。


 接触を避ける為、密かにデーモンの一体に小型のゴーレムを仕込む。せいぜい発信機程度の価値しか期待していなかったが、そこから得られた情報がガネーシャとの会話の内容だったのだ。


「地上か……どれくらい振りだろうな……」


 懐かしむ資格が無いのは理解している。

 それでも、あの景色がどう変わったのか、見に行くのも悪くないと思ってしまった。


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― 新着の感想 ―
そういえばこのゴーレムも対モンスターで一応立場的にはモンスター敵対の守護的な存在だったぽいんだったけか こんな人間がいるか判定されてモンスター扱いされた田中……
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