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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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380/390

ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その3

明日3下巻発売されます!

 父方の家系が全滅したからといって、勘兵衛の仕事は無くならなかった。

 どうにも御庭番という組織は幾つか分裂して存在しており、その一つを破壊したに過ぎなかったようだ。


 新たに接触して来た御庭番は、前とそう変わらなかった。


 家族や仲間を人質に取り、ある屋敷で起こった殺人事件の犯人に仕立てようとして来たのだ。


「いいぜ、やってやる。ただな、相手は探索者だけにしてくれ。普通の奴は、俺には無理だ」


 その要望に、御庭番は承諾した。

 勘兵衛のやって来たことは調べており、無闇に刺激する気は無かった。

 それに、脅したとはいえ快く受け入れてもらえて、案外話の分かる人物だと安堵したのもある。


 しかし、次の言葉で認識を改める。


「ああ、あと、俺が屋敷の人を殺したなんてデマ流すなよ。女子供まで殺すほど、落ちちゃいないからな」


 最初は冗談かと思った。だが、勘兵衛の顔は本気で言っており、無反応な御庭番に「どうした?」と心配する素振りすら見せていた。


 御庭番は勘違いを悟る。


 勘兵衛はすでに壊れていた。





 探索者のみの粛清となり、勘兵衛の肩の荷は降りた。


 迷宮の中で、指示された対象を殺す。

 反乱分子である以上、容赦する必要は無い。

 以前は躊躇していた行為も、まるで当然のようにやれるようになった。


 それもこれも、変わった迷宮での出来事があったからだ。

 様々な葛藤があったはずなのに、全てが吹っ切れてどうでもよくなっていた。


 だからだろうか、対象を粛清する時に、興味本位でスキル【完全異常耐性】を切ってしまったのは。


「っ⁉︎⁉︎ 」


 流れ込んで来る多幸感に脳髄が焼かれる。

 更に、強烈な力の上昇を経験し、全能感が脳みそを支配する。


 これは何だ⁉︎


 今まで拒絶していた物が、勘兵衛を狂わせようとする。

 危険だと理解しているのに拒むことが出来ない。

 今直ぐにスキルを使えば、まだ間に合ったかもしれないが、欲望が邪魔をして出来なかった。


「ああぁ〜……」


 勘兵衛は、もう抑えられなくなってしまった。




 迷宮を出ると、御庭番が接触して来た。

 いつも通り、人のいない場所まで移動する。そこで仕事の成果を報告すると、無防備に勘兵衛に背中を向けてしまった。


 これは、実験のような物だった。


「かはっ⁉︎ な、にを?」


 御庭番の胸から、腕が生えていた。

 これは何だと振り向こうとすると、勘兵衛の声が聞こえて来た。


「ああ悪い、一回死んでみてくれないか? 試してみたいんだよ」


 イかれた言葉だった。

 そのイかれた奴の腕は、力任せに御庭番の肉体を裂いていき首を落としてしまう。


「……やっぱ駄目だな。迷宮の中でやらなきゃ意味ないか……」


 広がる血溜まりを、魔法で地中に埋める。

 この様子を見ていた監視の御庭番は、勘兵衛と目が合うと即座に逃げ出した。


「別に襲ったりしないのにな」


 そんな説得力の無い言葉をポツリと呟き、家族の待つ家に帰った。





 あれから、御庭番の動きが変わった。

 勘兵衛に仕事を回すことが無くなり、代わりに命を狙うようになった。

 どうやら制御出来ないと判断して、抹消に乗り出したようだ。


 御庭番は、大勢の探索者を雇い、迷宮内に勘兵衛を呼び出した。いくら強くても、これだけの人数が揃えば負けないと判断したのだろう。


「……まあ、そうなるか」


 何となく察していた勘兵衛は、崩れそうな表情を必死に維持して日本刀を抜く。


「まさか、勝てると思ってんのか?」


 雇われた探索者の一人が問う。この中で最も強い探索者であり、勘兵衛のパーティの次に深い階層に到達した探索者でもある。


 勘兵衛はこの探索者を見て、また表情が崩れそうになる。


 こいつには、前々から目を付けていた。とてもとても強くて、とても美味しそうに見えていたから。


「なに笑ってんだ……」


「ん? ああ悪い、これからのことを考えたら、我慢出来なかった」


 言われて笑っているのに気付く。

 顔に触れると、今の気分と同じように口角が上がっていた。


 舌舐めずりする。

 それが気色悪かったのか、探索者達は後退りしてしまう。そして、その動作が合図になる。


 ズッと音が鳴る。

 その音は最も強い探索者から発せられた物。しかし、鳴らしたのは勘兵衛で、探索者の腹に深々と刀が突き刺さっていた。


 カフッと吐血する音が鳴り、そのまま両断されてしまう。


「ん〜良い……さっ次だ」


 気色悪い笑みを浮かべた勘兵衛。

 あまりにも悍ましい存在に、探索者達は絶望的な戦いを強いられる。


 おおよそ十分。これが、探索者達が持った時間である。

 実に三十一名の遺体が転がり、迷宮の掃除屋であるダンゴムシが処理の為に集まって来ていた。


 その中の一体が、歓喜に震える勘兵衛にわしゃわしゃとしがみ付く。牙を突き立てるわけでもなく、ただ何かを訴えるような仕草をしていた。


「何だよ?」


 邪魔をされて不快に思ったが、攻撃する気も起きず、勘兵衛はそっと引き剥がして地面に下ろした。


「ははっ、何だよお前らそんなに見て……」


 気付けば、現れた全てのダンゴムシが勘兵衛に注目していた。

 普通なら、怖気付きそうな光景だが、何故か親近感を覚える己がいた。


「……嘘だろ?」


 何だか嫌な予感がして、勘兵衛は己を鑑定をしてしまう。


ーーー


天津勘兵衛(26)(魔人)

レベル 41

【スキル】

全属性魔法 鑑定 宿地 経験倍化 高速思考 剣闘技 魔力操作 アイテムボックス 身体強化 全属性耐性 復元 見切り 完全異常耐性 気配察知 生命探知 危険察知 肉体維持

【状態】

堕天


ーーー


 人でなくなっていた。

 魔人が何なのか理解出来ないが、ダンゴムシをモンスターとして認識出来なくなってしまっていた。


「おいおい、これじゃあ……」


 先程まで歓喜していた感情が、ある事実に気付いて震えてしまう。


「これじゃあ、俺がモンスターみたいじゃないか……」


 死体の中心で、絶望的な事実に気付いてしまった。





 魔人化して、勘兵衛はパーティメンバーを仲間と思えなくなっていた。

 いや、仲間達だけではない、家族に対してもこれまでの感情が消え失せていた。


 危険だと判断した。

 このままだと、仲間も家族も殺してしまう。


 どれだけ狂っても、どれだけ壊れていても、それだけは守りたかった。


 でも、それなのに、なぜ、どうして……己を抑えられなかったのだろう。


 欲望に駆られて、勘兵衛は仲間達をその手に掛けてしまった。


「はっ、ははっ、ははは……何やってんだろうな……」


 ユニークモンスターであるオーガを倒したが、仲間達の屍が横たわっていた。

 この全てを殺したのは勘兵衛だ。

 衝動に駆られて、我慢するのが不可能になり淡々と殺してしまった。


 だが、それなのに、力が入って来なかった。


 何せ勘兵衛はもう、人ではないのだから。


 仲間を殺したのに、涙は出て来ないのがその証拠だろう。


 あるのは、達成感と虚しさ。

 そして、モンスターが人を殺す理由だけだった。



 勘兵衛は一人で迷宮に潜る。

 もう戻れない。

 もし地上に戻れば、衝動に駆られて家族を、多くの人を殺しそうだったから。そして何より、自分がモンスターであると直視出来なかった。


 深く深く潜って行き、53階にあるクレバスに落ち、奈落まで転落してしまった。

 衝撃で全身の骨と内臓が滅茶苦茶になるが、スキル復元の効果で、肉体を元に戻すのに成功した。


「おいおい、何だこっ⁉︎」


 立ち上がって辺りを見回すと、突然顎が食いちぎられた。


 咄嗟だった。

 顎を気にする余裕すらなかった。

 倒れるように姿勢を低くすると、頭上を何かが通り過ぎた。


 刀を抜く。

 わずかな殺気に合わせて動かすと、強い衝撃を受けて弾き飛ばされてしまう。


「っ⁉︎」


 飛ばされながらも、敵の姿を見る。

 それは、黒い一本線が景色に描かれているように見えた。だがそれは、信じられないような魔力を宿しており、何かしらのモンスターなのだと分かる。


 その黒い一本線のモンスターがウネウネと動き、空中にいる勘兵衛に向かって跳ねた。


 スキル高速思考で感覚を引き延ばす。

 見切りと身体強化を全力で使い、刃を針金のような黒いモンスターに合わせた。


 ギッ‼︎ と短い音が鳴り、勘兵衛は錐揉みしながら更に上空に跳ね飛ばされる。

 モンスターを見失わないよう、必死に視界に収める。

 焦る気持ちと、強敵に出会えた高揚感に脳が支配されてしまう。


 面白い‼︎


 顎を抉られても、勘兵衛は歓喜していた。しかし、そんな感情は無意味だと、スキル危険察知が危険が迫っていると忠告して来る。


 黒い一本線のモンスターは体をしならせると、一気に伸びて勘兵衛を叩き落とした。


「ぁっ⁉︎」


 このままでは負けてしまう。

 余裕なんてないほど追い詰められているというのに、なぜだろうか、顔に笑みが張り付いてしまう。緊張感が最大限まで引き上げられ、己のポテンシャルを最大限まで引き上げる。


 急いで起き上がり、迫る黒い線の追撃を避けると、急いで顎を修復する。

 今度はこちらの番とスキル宿地で距離を詰めると、鋭く刀を走らせ真っ二つに切り裂いた。


 刀は通じる。

 それが分かり、ニィと笑みを浮かべる。


 だが、それも直ぐに消えた。


「……おいおい、そんなのありかよ」


 切った黒い線は二つになると独立して動き出し、勘兵衛に襲い掛かった。




 結論から言うと、勘兵衛は逃走した。

 いくら切っても黒い線は増えて行き、再生する。魔法にも高い耐性を持っており、最も得意とする炎の魔法でも大したダメージにならなかった。

 

 あらゆる攻撃が通じず勝てないと判断すると、空間魔法を使い、己を最大限遠くまで移動させた。


 黒い線も恐ろしい速度で追いかけて来ていたが、連続した空間魔法の移動には追い付けなかったようだ。


 逃げ切れたと同時に、魔力切れを起こして動けなくなってしまう。膝をつき、必死に呼吸をして、魔力の回復に集中する。

 そんな油断した時に、そいつは現れた。


「はあ、はあ……なんだ?」


 大地が揺れ、地面から巨大な何かが迫って来る。

 逃げ出したいが、魔力切れで動くことが出来ない。

 勘兵衛は様子を見守るしかなかった。


 大量の土砂を舞い上がらせて地中から現れたのは、見上げるほど大きな黒く巨大な蛇。


 見ただけで悟る。

 あれには勝てない。

 立ち向かう意味すらない。


「……ははっ、んだよ。意味わかんねー」


 それなのに勘兵衛は、刀を向けて抗おうとしていた。

 魔力も無く、ろくに動けもしないのに、立ち向かおうとしている。たとえ立ち向かったとしても、一瞬で消されるのを理解していても、止められなかった。


 巨大な蛇と目が合う。


 呼吸が出来なくなる。

 体は震え、大量の汗が吹き出してしまう。

 それでも、刀は手放さない。

 睨み付け、心までは負けないと意地を張る。


 きっと、そんな態度を取ったからだろう。


 次の瞬間には、巨大な蛇に丸呑みにされてしまった。

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宿地は縮地の変換ミスです? 勘兵衛つえー
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