ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その1
活動報告に3下巻のWEB用SSを記載してます。
内容は、3下巻のif物語となっております。
他に四種類のSSを書いております。特典情報はSS活動報告の下の方に載せております。
よろしくお願いします!
神殺しの力を宿した刀を操り、目の前の神を殺した男に斬り掛かる。
大剣を持つ白銀の男は、圧倒的な力を持って勘兵衛を圧倒する。
くそっ!
内心悪態を吐くが、形勢が逆転するわけではない。
勘兵衛は強くなった。
どこまでも強くなった。
多くを殺し、狂いながらも力を手にした。
奈落に落ちてからもウロボロスに見出され、ゴーレムに意識を操られ、最後にはダンジョンその物に選ばれた。
だというのに、目の前の男に勝てない。
まるで届かない。
今、拮抗した剣戟が演じられているのは、田中ハルトが手加減しているからに過ぎない。
「舐めるなーっ‼︎‼︎」
神殺しの刃と、ウロボロスの魔法を使い、果敢に攻め込む。
今の勘兵衛は強い。
聖龍やアクーパーラ相手でも、圧倒出来るだけの力を与えられている。
これはダンジョンが与えられる最大限の力であり、最強である証でもある。
「ぐはっ⁉︎」
だというのに、拳が腹に突き刺さり風穴を開ける。
……俺は何と戦っているんだ?
そんな疑問を抱きつつ、まるで走馬灯のようにこれまでの出来事が頭を過ぎて行く。
◯
天津勘兵衛は、少々特殊な生まれをしていた。
父は華族であり、母はその妾。
初めての男児ということで、最初こそ大いに歓迎されたが、正妻に男児が産まれると一気に待遇が悪くなった。
屋敷に居場所が無くなり、このままでは殺されると心配した母が、勘兵衛を連れて出て行ったのだ。
母の実家に身を寄せると、ここでは大いに歓迎された。
祖父がおおらかな人物であったというのもあるが、家を継ぐ叔父が気前よく受け入れてくれたのだ。
おかげで、勘兵衛は大いに愛情を受けて育った。
村の中でも差別されず、平等に扱われていた。
そんな自分が恵まれているのだと理解していたし、村のみんなに恩返しがしたいと考えていた。
だが、その願いも消えてしまう。
「はあ? 戻って来いだ⁉︎」
ある日、父親からの手紙が届いたのだ。
華族であり、陸軍将校である父は、まだ学生の勘兵衛を呼び戻そうとしているのである。
目的は、正妻の子の代わりに勘兵衛を従軍させる為。
ふざけるなと破り捨てたかったが、出来なかった。
命令に従わなければ、家族や村に何をされるのか分からなかったからだ。
赤い令状ではなく、父親の手紙で従軍が決定した勘兵衛。
まだ十代前半という若さで、戦争に参加する。
「必ず帰って来なさい」
母は涙を堪えて送り出してくれた。
震える肩を見ながら、勘兵衛は「無事に戻って来るから」と告げて故郷を離れた。
戦況は劣勢で、従軍したほとんどの人が帰らないと噂で聞いており、勘兵衛はもう帰れないと覚悟していた。
記憶に無い父親と再会して、『俺は父親似なんだな』と勝手な感想を抱いてしまう。
屋敷には父方の親族も揃っており、感心した声が上がった。
その中には腹違いの弟がいたようだが、まったく関心が湧かなかった。それどころか、ここにいる全員に興味が湧かなかった。
どうせ、直ぐに会えなくなるのだ。
覚えておくのは、家族や村の人達だけで良いと思っていた。
勘兵衛は直ぐに操縦士養成学校に入隊させられる。
そこには、勘兵衛と同年代の者達が集められており、自然と仲良くなって行った。
最悪の時代。
戦争は多くの命を奪い、人を狂わせる。
同じ釜の飯を食った仲間達が死に、取り残されて行く。
次は自分の番だ。
覚悟を決めて、今か今かと呼ばれる時を待つ。
勘兵衛が命じられたのは、戦争が終わる少し前だった。
敗戦は濃厚。
それでも死んで来いという。
反発する心はあっても、先に散って行った戦友に会えるのだと無理矢理納得させて、戦闘機に搭乗した。
◯
生き残れたのは奇跡だった。
特攻したというのに、奇跡的に海に投げ出されて命は助かったのだ。
ただ、助かったのは命だけで、敵国の捕虜になってしまう。
死を覚悟した。
元々死ぬつもりだったので今更怖くはない。
そう思っていた。
「ははっ、震えてら……死にたくない。母さんの顔が見たい……」
生にしがみ付いてしまい、仲間の元へは行けなくなる。
情けない己がどうしようもなく申し訳なく、心に深い影を落としてしまった。
捕虜になって数日後、日本は巨大な爆弾を落とされ終戦した。
◯
捕虜から解放されてから、一度だけ実家に帰った。
ただ無事な姿を見せたかったのと、母の顔が見たかったからである。
家に戻ると、とても歓迎されたが、それが却って勘兵衛を追い詰める。
自分だけが生き残った。
皆死んでしまったのに、自分だけがのうのうと生きている。
自分だけが、暖かい家族に迎えられている。
そんな己を、愚か者めと呟いていた。
勘兵衛は、もう昔のような生活には戻れない。
捕虜から解放されて、勘兵衛は明るく振る舞うように心掛けているが、心はどこか死に場所を求めていた。
そんな時に、あるチラシを目にする。
内容は、爆弾を落とされた街の復興作業。
戦勝国が直々に募集しており、多くの人を集めているようだった。
勘兵衛は、良いきっかけだと思いこの話に飛び付いた。
それが破滅の始まりだとも知らずに。
◯
復旧作業という名目で集められた者達に課せられた仕事は、迷宮と呼ばれる巨大な洞窟の探索だった。
仕事の無いこの時代、数千人規模で人は集まり、次々に洞窟の中に投入されて行く。
武器は鉄の棒、防具は鍋の蓋と風穴が空いた鉄のヘルメット。あとは二食分の食料。
これだけを渡されて、勘兵衛も投入された。
「何だよここは⁉︎」
襲って来るツノ兎を叩き落とし、もう一撃を加えて止めを刺す。
息切れしながらも、必死に戦い命を繋ぐ。
近くには、同じように放り込まれた男がいるが、残念ながら喉を貫かれて死んでいた。
混乱する頭を鎮めながら、死んだ男の装備を拝借する。
明らかに異常な世界。
ここで生き延びるには、綺麗事は捨てなければならないと悟ってしまった。
「……なにやってんだろうな」
死にたがっていたのに、生きようと足掻いている。
己の本質が見えたようで、無性に気持ち悪くなった。
喉元まで迫り上がってきたゲロを飲み込み、奥へ奥へと向かう。そこで特殊なモンスターを倒し、後にレアスキルと呼ばれる特殊能力を手に入れる。
二日掛けて十階に到達して、ボスモンスターの討伐に成功した。
疲れた体で、何も考えずに魔法陣に寄り掛かると、迷宮の一階に飛ばされた。
「戻って来れたのか?」
洞窟から出ると、戦勝国の兵士に捕まり尋問を受ける。
迷宮に何があったのか、何を見て来たのか、何を手に入れたのか、事細かく尋問された。
それに対して、勘兵衛は素直に答える。
少しでも知識があったなら、当たり障りなく答えて最悪は回避出来ただろう。だが、スキルの重要性を認識されていない時代では、それも不可能だった。
勘兵衛は馬鹿正直に答えた結果、国に目を付けられてしまう。
◯
【全属性魔法】【鑑定】
この二つが、最初の探索で手に入れたスキルである。
あの時、勘兵衛と同じように迷宮に放り込まれて生き残ったのは、五百人以上とかなり多かった。
勘兵衛と違って、仲間を募り連携して進んだのが良かったようだ。彼らは、最初に組んだ奴らでチームを組んでおり、今では率先して迷宮に挑んでいた。
そんな中で、勘兵衛は一人で迷宮に挑み続ける。
潜る度に強敵と戦い新たなスキルを手に入れて行く。
三ヶ月もすると、スキルの数は十を超え、レアスキルも新たに手に入れる。すでに、たった一人で軍を相手に戦えるまでに強くなっていた。
これを脅威と見た戦勝国は、政府に探索者の危険性を伝え制御するよう働き掛ける。
政府は直ぐに動き出す。探索者が得る成果物を安値で買い叩き、危険思想を持つ探索者を選別し粛清するようになったのだ。
これは、危険な力を持った探索者を抑止する為の仕方ない犠牲。
戦争を抑止する正義。
そんな下らない建前を掲げて、実行して行った。
そして、その実行役に選ばれたのが勘兵衛だった。
探索者の中でも突出した力を持ち、身内という弱みがある。その上、戦争という物にトラウマを抱えており、平和の為になら犠牲を厭わない人物。
選ばれるべくして選ばれた。
それが、天津勘兵衛という男だった。
「オエー……はあ、はあ、どうしてまた戦争なんて考えてんだ。あれだけ死んだのに、まだ足りないのか」
迷宮内で危険な思想を持った探索者を殺し、流れ込んで来る高揚感に嘔吐する。
スキル【完全異常耐性】の副作用で、大量の高揚感が拒絶に変わってしまい、狂わずに済んでいる。だが、一度でもスキルを切れば、この高揚感に飲み込まれるだろう。
そうなると、勘兵衛はただの殺人鬼になってしまう。欲望に従った結末を理解してしまい、必死に抵抗していた。
「……くそ、くそくそくそくそくそっ‼︎ 何で大人しくしないんだ! やっと平和になったんだぞ! あんなに人が死んだのに、どうしてそんなに人殺しをやりたがるんだよ‼︎」
ダンゴムシに処理される亡骸に必死に訴え掛ける。
返事なんて無いのは理解しているが、それでも言わなければ気が済まなかった。
もうこの頃には、勘兵衛は狂い始めていた。
迷宮を出ると、勘兵衛は明るく振る舞うようにしている。
笑顔を振り撒くのではなく、頼り甲斐のある男を演じる。愛想がいいだけでは、この時代は食い物にされる。だからこそ、強い男を演じていた。
目的は、人を助ける為。
殺した分の人を救う為。
それだけの為に、強い男を演じた。
ただ、この姿は多くの人を魅了する。
誰もが余裕の無い時代に、見返りを求めず困っている人を助け続ける。それはまるで、物語に出て来るようなヒーローの姿だった。
相反する二面性を持ちながら、必死に正気を保つ。
せめて、どちらかに傾けられたら救われたのだろうが、勘兵衛はどこまでも情けない勘兵衛だった。
情けない勘兵衛も、迷宮である出会いをする。
「おい、何やってる?」
迷宮の低い階層で、探索者が一人の女性を襲おうとしていた。
「たっ、助けてください!」
懇願されるままに、勘兵衛は探索者を一掃する。
もちろん殺してはいないが、二度と悪さ出来ないように心に恐怖を植え付けた。
その様子に助けられた側もドン引きするかと思ったが、女性は勘兵衛に感謝を告げる。
女性とは迷宮の外でも良く会うようになり、仲を深めるようになるのに時間は掛からなかった。これは勘兵衛自身、心の拠り所を求めていたというのも大きく関係していた。
だから、家族を作るなんて大きな失態を犯してしまった。
勘兵衛の話は、これ含めて7話あります。
ごめんなさい。
明日、明後日は3話ずつ投稿します。




