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無職は今日も今日とて迷宮に潜る【3巻下巻12/25出ます!】【1巻重版決定!】  作者: ハマ
8.ネオユートピア

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ダンジョン攻略33 天津勘兵衛その1

活動報告に3下巻のWEB用SSを記載してます。

内容は、3下巻のif物語となっております。

他に四種類のSSを書いております。特典情報はSS活動報告の下の方に載せております。

よろしくお願いします!

 神殺しの力を宿した刀を操り、目の前の神を殺した男に斬り掛かる。

 大剣を持つ白銀の男は、圧倒的な力を持って勘兵衛を圧倒する。


 くそっ!


 内心悪態を吐くが、形勢が逆転するわけではない。

 勘兵衛は強くなった。

 どこまでも強くなった。

 多くを殺し、狂いながらも力を手にした。

 奈落に落ちてからもウロボロスに見出され、ゴーレムに意識を操られ、最後にはダンジョンその物に選ばれた。


 だというのに、目の前の男に勝てない。

 まるで届かない。


 今、拮抗した剣戟が演じられているのは、田中ハルトが手加減しているからに過ぎない。


「舐めるなーっ‼︎‼︎」


 神殺しの刃と、ウロボロスの魔法を使い、果敢に攻め込む。


 今の勘兵衛は強い。

 聖龍やアクーパーラ相手でも、圧倒出来るだけの力を与えられている。

 これはダンジョンが与えられる最大限の力であり、最強である証でもある。


「ぐはっ⁉︎」


 だというのに、拳が腹に突き刺さり風穴を開ける。


 ……俺は何と戦っているんだ?


 そんな疑問を抱きつつ、まるで走馬灯のようにこれまでの出来事が頭を過ぎて行く。







 天津勘兵衛は、少々特殊な生まれをしていた。

 父は華族であり、母はその妾。

 初めての男児ということで、最初こそ大いに歓迎されたが、正妻に男児が産まれると一気に待遇が悪くなった。


 屋敷に居場所が無くなり、このままでは殺されると心配した母が、勘兵衛を連れて出て行ったのだ。

 母の実家に身を寄せると、ここでは大いに歓迎された。

 祖父がおおらかな人物であったというのもあるが、家を継ぐ叔父が気前よく受け入れてくれたのだ。


 おかげで、勘兵衛は大いに愛情を受けて育った。

 村の中でも差別されず、平等に扱われていた。


 そんな自分が恵まれているのだと理解していたし、村のみんなに恩返しがしたいと考えていた。


 だが、その願いも消えてしまう。


「はあ? 戻って来いだ⁉︎」


 ある日、父親からの手紙が届いたのだ。

 華族であり、陸軍将校である父は、まだ学生の勘兵衛を呼び戻そうとしているのである。

 目的は、正妻の子の代わりに勘兵衛を従軍させる為。


 ふざけるなと破り捨てたかったが、出来なかった。

 命令に従わなければ、家族や村に何をされるのか分からなかったからだ。

 赤い令状ではなく、父親の手紙で従軍が決定した勘兵衛。

 まだ十代前半という若さで、戦争に参加する。


「必ず帰って来なさい」


 母は涙を堪えて送り出してくれた。

 震える肩を見ながら、勘兵衛は「無事に戻って来るから」と告げて故郷を離れた。

 戦況は劣勢で、従軍したほとんどの人が帰らないと噂で聞いており、勘兵衛はもう帰れないと覚悟していた。


 記憶に無い父親と再会して、『俺は父親似なんだな』と勝手な感想を抱いてしまう。

 屋敷には父方の親族も揃っており、感心した声が上がった。


 その中には腹違いの弟がいたようだが、まったく関心が湧かなかった。それどころか、ここにいる全員に興味が湧かなかった。

 どうせ、直ぐに会えなくなるのだ。

 覚えておくのは、家族や村の人達だけで良いと思っていた。


 勘兵衛は直ぐに操縦士養成学校に入隊させられる。

 そこには、勘兵衛と同年代の者達が集められており、自然と仲良くなって行った。


 最悪の時代。

 戦争は多くの命を奪い、人を狂わせる。

 同じ釜の飯を食った仲間達が死に、取り残されて行く。


 次は自分の番だ。

 覚悟を決めて、今か今かと呼ばれる時を待つ。


 勘兵衛が命じられたのは、戦争が終わる少し前だった。

 敗戦は濃厚。

 それでも死んで来いという。


 反発する心はあっても、先に散って行った戦友に会えるのだと無理矢理納得させて、戦闘機に搭乗した。





 生き残れたのは奇跡だった。

 特攻したというのに、奇跡的に海に投げ出されて命は助かったのだ。

 ただ、助かったのは命だけで、敵国の捕虜になってしまう。


 死を覚悟した。

 元々死ぬつもりだったので今更怖くはない。


 そう思っていた。


「ははっ、震えてら……死にたくない。母さんの顔が見たい……」


 生にしがみ付いてしまい、仲間の元へは行けなくなる。

 情けない己がどうしようもなく申し訳なく、心に深い影を落としてしまった。


 捕虜になって数日後、日本は巨大な爆弾を落とされ終戦した。





 捕虜から解放されてから、一度だけ実家に帰った。

 ただ無事な姿を見せたかったのと、母の顔が見たかったからである。

 家に戻ると、とても歓迎されたが、それが却って勘兵衛を追い詰める。


 自分だけが生き残った。

 皆死んでしまったのに、自分だけがのうのうと生きている。

 自分だけが、暖かい家族に迎えられている。


 そんな己を、愚か者めと呟いていた。



 勘兵衛は、もう昔のような生活には戻れない。


 捕虜から解放されて、勘兵衛は明るく振る舞うように心掛けているが、心はどこか死に場所を求めていた。


 そんな時に、あるチラシを目にする。

 内容は、爆弾を落とされた街の復興作業。

 戦勝国が直々に募集しており、多くの人を集めているようだった。


 勘兵衛は、良いきっかけだと思いこの話に飛び付いた。


 それが破滅の始まりだとも知らずに。





 復旧作業という名目で集められた者達に課せられた仕事は、迷宮と呼ばれる巨大な洞窟の探索だった。

 仕事の無いこの時代、数千人規模で人は集まり、次々に洞窟の中に投入されて行く。


 武器は鉄の棒、防具は鍋の蓋と風穴が空いた鉄のヘルメット。あとは二食分の食料。

 これだけを渡されて、勘兵衛も投入された。


「何だよここは⁉︎」


 襲って来るツノ兎を叩き落とし、もう一撃を加えて止めを刺す。

 息切れしながらも、必死に戦い命を繋ぐ。

 近くには、同じように放り込まれた男がいるが、残念ながら喉を貫かれて死んでいた。


 混乱する頭を鎮めながら、死んだ男の装備を拝借する。

 明らかに異常な世界。

 ここで生き延びるには、綺麗事は捨てなければならないと悟ってしまった。


「……なにやってんだろうな」


 死にたがっていたのに、生きようと足掻いている。

 己の本質が見えたようで、無性に気持ち悪くなった。


 喉元まで迫り上がってきたゲロを飲み込み、奥へ奥へと向かう。そこで特殊なモンスターを倒し、後にレアスキルと呼ばれる特殊能力を手に入れる。

 二日掛けて十階に到達して、ボスモンスターの討伐に成功した。


 疲れた体で、何も考えずに魔法陣に寄り掛かると、迷宮の一階に飛ばされた。


「戻って来れたのか?」


 洞窟から出ると、戦勝国の兵士に捕まり尋問を受ける。

 迷宮に何があったのか、何を見て来たのか、何を手に入れたのか、事細かく尋問された。

 それに対して、勘兵衛は素直に答える。

 少しでも知識があったなら、当たり障りなく答えて最悪は回避出来ただろう。だが、スキルの重要性を認識されていない時代では、それも不可能だった。


 勘兵衛は馬鹿正直に答えた結果、国に目を付けられてしまう。





【全属性魔法】【鑑定】


 この二つが、最初の探索で手に入れたスキルである。


 あの時、勘兵衛と同じように迷宮に放り込まれて生き残ったのは、五百人以上とかなり多かった。

 勘兵衛と違って、仲間を募り連携して進んだのが良かったようだ。彼らは、最初に組んだ奴らでチームを組んでおり、今では率先して迷宮に挑んでいた。


 そんな中で、勘兵衛は一人で迷宮に挑み続ける。


 潜る度に強敵と戦い新たなスキルを手に入れて行く。

 三ヶ月もすると、スキルの数は十を超え、レアスキルも新たに手に入れる。すでに、たった一人で軍を相手に戦えるまでに強くなっていた。


 これを脅威と見た戦勝国は、政府に探索者の危険性を伝え制御するよう働き掛ける。

 政府は直ぐに動き出す。探索者が得る成果物を安値で買い叩き、危険思想を持つ探索者を選別し粛清するようになったのだ。


 これは、危険な力を持った探索者を抑止する為の仕方ない犠牲。

 戦争を抑止する正義。

 そんな下らない建前を掲げて、実行して行った。


 そして、その実行役に選ばれたのが勘兵衛だった。


 探索者の中でも突出した力を持ち、身内という弱みがある。その上、戦争という物にトラウマを抱えており、平和の為になら犠牲を厭わない人物。


 選ばれるべくして選ばれた。


 それが、天津勘兵衛という男だった。


「オエー……はあ、はあ、どうしてまた戦争なんて考えてんだ。あれだけ死んだのに、まだ足りないのか」


 迷宮内で危険な思想を持った探索者を殺し、流れ込んで来る高揚感に嘔吐する。

 スキル【完全異常耐性】の副作用で、大量の高揚感が拒絶に変わってしまい、狂わずに済んでいる。だが、一度でもスキルを切れば、この高揚感に飲み込まれるだろう。

 そうなると、勘兵衛はただの殺人鬼になってしまう。欲望に従った結末を理解してしまい、必死に抵抗していた。


「……くそ、くそくそくそくそくそっ‼︎ 何で大人しくしないんだ! やっと平和になったんだぞ! あんなに人が死んだのに、どうしてそんなに人殺しをやりたがるんだよ‼︎」


 ダンゴムシに処理される亡骸に必死に訴え掛ける。

 返事なんて無いのは理解しているが、それでも言わなければ気が済まなかった。

 もうこの頃には、勘兵衛は狂い始めていた。


 迷宮を出ると、勘兵衛は明るく振る舞うようにしている。

 笑顔を振り撒くのではなく、頼り甲斐のある男を演じる。愛想がいいだけでは、この時代は食い物にされる。だからこそ、強い男を演じていた。

 目的は、人を助ける為。

 殺した分の人を救う為。


 それだけの為に、強い男を演じた。


 ただ、この姿は多くの人を魅了する。

 誰もが余裕の無い時代に、見返りを求めず困っている人を助け続ける。それはまるで、物語に出て来るようなヒーローの姿だった。


 相反する二面性を持ちながら、必死に正気を保つ。

 せめて、どちらかに傾けられたら救われたのだろうが、勘兵衛はどこまでも情けない勘兵衛だった。


 情けない勘兵衛も、迷宮である出会いをする。


「おい、何やってる?」


 迷宮の低い階層で、探索者が一人の女性を襲おうとしていた。


「たっ、助けてください!」


 懇願されるままに、勘兵衛は探索者を一掃する。

 もちろん殺してはいないが、二度と悪さ出来ないように心に恐怖を植え付けた。

 その様子に助けられた側もドン引きするかと思ったが、女性は勘兵衛に感謝を告げる。


 女性とは迷宮の外でも良く会うようになり、仲を深めるようになるのに時間は掛からなかった。これは勘兵衛自身、心の拠り所を求めていたというのも大きく関係していた。


 だから、家族を作るなんて大きな失態を犯してしまった。

勘兵衛の話は、これ含めて7話あります。

ごめんなさい。

明日、明後日は3話ずつ投稿します。

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― 新着の感想 ―
ダンジョン助けて=世界滅びろですね。わかります。
力と賢さは=ではないからなー
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