2巻発売記念SS② ハルト、厨二な夢を見る
無職迷宮1巻2巻を是非よろしくお願いします!
それは突然現れた。
世界中にゲートが現れ、そこから異世界の生物が侵入して来るようになったのだ。
異世界からの生物は、とても友好的な存在とは言えず、出会えば襲って来るような危険な存在だった。
奴らは人々を襲い、人類の生存圏を奪おうとしていた。
そんな危険な奴らに対抗するのに駆り出されたのは、自衛隊だった。
陸上自衛隊普通科連隊に所属している田中ハルトこと俺は、中隊長の指揮の下、最前線に立たされていた。
「はぁ〜。自衛隊に入って、速攻で戦場って勘弁してほしいよなぁ」
「あはは、そうやね。大変だけど、仕方ないよ……僕らが戦わなきゃ、たくさん死んでしまう」
同期の隊員に愚痴ってみると、彼は覚悟を決めたような表情をしていた。
きっと、初めての戦いで緊張しているのだろう。
これだと、いざというときに動けなくなりそうだったので、気持ちをほぐしてあげることにした。
「なあ村上2士、この戦いが終わったらエッチなお店行こうぜ」
「エッ⁉︎ エッチなお店⁉︎ ぼっ、僕ら未成年だよ⁉︎」
「大丈夫、成人は十八歳だから、村上2士も立派な大人だ。せっかくだから大人の遊びをしようぜ!」
そうお誘いすると、「うっうん……」と恥ずかしそうに頷いていた。
よし、これで緊張もほぐれただろう。
あとは無事に生き残るだけだ!
そう意気込んでいると、異世界からの侵略者がゲートから現れた。
カマキリを人よりも大きくした化け物。
ゴキブリを人型にした化け物。
バッタのような頭部を持つ化け物など様々だ。
お前それ大丈夫か? と言いたくなるような形をしているが、そこはこれ以上触れてはいけないのだろう。
「構えーっ!」
小隊長が指示を出すと、一斉に小銃を構える。
彼我の距離は百メートル以上あるが、十分に狙える距離だ。
「連射用意! 撃てーっ‼︎」
単射から連射に切り替え、引き金を弾く。
ダダダッ! と乾いた音が鳴り、硝煙の独特な匂いが立ち込める。
普通の人ならば、体を貫かれて絶命していただろう。
しかし、そうはならなかった。
おおよそ二十名で行われた射撃は、敵に傷一つ負わすことが出来ずに終わってしまった。
それを見た小隊長は即座に指示を出す。
「引けー! 戦車大隊前えー!」
ブロロロッと前に出て来る戦車大隊。
「先に出てこんかい」
戦車大隊を見て、思わずツッコミを入れてしまう。
普通、迫撃砲か戦車をメインにして行動するんやないんかい。
そんなことを考えていると、上空から迫撃砲が降って来て、異世界の化け物に直撃する。更に追い討ちで、戦車が火を噴き一斉射撃をお見舞いしてしまう。
ドゴゴゴゴッ! と地鳴りのような音が鳴り響き、余りの衝撃に「自衛隊やっべ」と怖くなってしまう。
「これだけやれば、流石に死んだだろ……なん、だと……」
あれだけの砲撃を受けたというのに、奴らは無傷だった。
そして、奴らの反撃が始まる。
大きなカマキリは、銃弾を切り裂き、歩兵に接近して切り刻んでしまう。
ゴキブリ人間は戦車に接近すると、拳で粉砕する。
頭部がバッタの奴は、空に上がるとライ◯ーキックよろしく、迫撃砲に向かってキックをお見舞いしていた。
もう、地獄絵図である。
「かはっ⁉︎」
「村上2士⁉︎」
戦車の装甲の破片が飛んで来て、村上2士の腹部に突き刺さってしまった。
「衛生兵! 衛生兵! 村上2士が負傷した! 頼む、こっちに来てくれて!」
声を張り上げて助けを呼ぶが、誰も来る気配は無い。
それも当然だろう。何せ、そこらじゅうに負傷がおり、化け物共は今も暴れているのだから。
もう、誰かを助ける余裕なんてないのだ。
「あっ、か、たす、けて……」
「村上2士しっかりしろ! 大丈夫だ! 直ぐに助けはやって来る!」
嘘だ。来ないのは俺だって分かっている。
それでも、助けを呼ばずにはいられなかった。
「衛生兵!衛生兵! 頼む! お願いだ! 誰でもいいから、村上2士を助けてくれ!」
そう懇願するが、助けは来ない。
代わりに、弱々しい村上2士の腕が俺を掴んで、最後の言葉を告げる。
「えい、せい、へい、は……たな、か、にし、だよ」
ポンッと手を打った。
「そうだった。俺、衛生兵じゃん」
自分の役割を思い出して、治癒魔法を使って村上2士を治療する。
「よく頑張ったな」と褒めてやると、「……自分の役割忘れないでね」と残念そうに言われてしまった。
まあ、こればっかりは仕方ない。
だって忘れていたのだから。
という訳で、負傷者の治療に向かう。
「大丈夫っすかー? 今治しますねー。はい、いっちょ上がりっと」
瓦礫を吹き飛ばして、生き埋めになっている隊員を治療していき。
「邪魔すんな」
襲って来るカマキリを殴り飛ばし、ゴキブリを不屈の大剣で両断して、バッタの化け物を魔法で串刺しにした。
他にも襲って来る異世界からの化け物を倒して無双する傍ら、治療を行った。
「凄いぞ田中ーっ‼︎」
「流石だ田中ーっ‼︎」
「田中2士凄い!」
「田中さんこっち向いてー!!」
「キャー田中さんよー⁉︎」
全てが終わると、何故か称賛の嵐が待ち受けていた。
悪い気はしない。
俺は手を上げて称賛に答えてやると、更に大きな歓声が上がった。
ていう夢を見た。
窓から差し込む光が、俺の顔を照らす。
朝の光を浴びながら思った。
「なんか今日、行ける気がする‼︎」
なんか良いことが起こりそうな予感がした。