ダンジョン攻略9
本日2巻発売となります!
明日と明後日も投稿いたします!
それで今回の投稿は終わりとなります。
フウマに取って、それはいつも通りの一日だった。
漫画を読んで、アニメを見る傍で日向の面倒を見る。
五尾になった狐が『日向は元気にしとるかの?』と顔を見にやって来るが、それ以外は何も起こらない、はずだった。
変化が起こったのは、空に魔力の線が走ってからだった。
何かが来る。
そう警戒して、家から顔を覗かせるフウマ。
タエコが洗濯物を入れているので、念の為に風で包み込んで家の中に退避させる。
「何これ⁉︎」と驚いているが、まあそこは我慢してほしい。
上空を見ていると、それは静かに現れた。
純白の翼を持ち、近未来の装備のような装甲を身に付けている天使。
金糸の髪を背に流しており、転移魔法で使った魔力の余韻が淡く光らせていた。
「ブル?」(どうしてミューレが来てんだ?)
天使族最強の一角であり、ユグドラシルを守る守護者筆頭の地位を持つ存在。
ヒナタの叔母であり、ヒナタが捨てられた時に唯一激昂した天使だとも聞いている。
そこまで思い出して、何をしに来たのか気付いた。
ヒナタの生まれ変わりである日向。
天使から人に変わってしまったが、それでも身内だったのに変わりないのだから、会いに来たのだと思った。
だから「ブルル」(いらっしゃい)と何の警戒もせずに迎え入れてしまった。
「え……天使……?」
しかし、突然の天使の来訪に、タエコは腰を抜かして座り込んでしまった。
それを気にせず、ミューレは家に上がろうとする。
「ブルル」(ここ土禁や、靴脱げ)
そう注意すると、律儀に足の装甲を外してフワリと着地する。
装甲の重量と天使族の重量と合わさって、ギシギシと床が鳴った。
天使は見た目に反して、かなりの重量を持っている。
その骨の造りからして違い、筋肉の作りも密度も、人のそれとは比べ物にならないほど効率化していた。
ミューレのような天使でもオークよりも重く、いつ床が抜けてもおかしくはなかった。
それを察したフウマは、足元に空気の層を作り出して床へのダメージをゼロにする。
普段は忘れっぽくて抜けているフウマだが、こういうところには気を使える馬なのだ。
無言で入って来たミューレを眺めつつ、どうしたんだろう? と疑問に思う。
普通挨拶くらいはするだろうに、タエコにも一瞥もくれず、日向の眠るベッドまで行ってしまった。
なんだか不安になって着いて行き、様子を見守る。
「あうあ〜」
日向はミューレを見ると、嬉しそうに声を上げる。
『ヒナタ……』
日向を優しく見つめたミューレは、優しく日向を抱き抱える。装甲が邪魔になったのか、解除して白い布を纏った天使の姿になった。
赤子を祝福する天使。
それはまるで絵画に描かれた一枚絵のようで、あまりの美しさにタエコは息を飲む。
日向を優しく抱き締めるミューレの顔は、慈愛に満ちていた。
だから油断してしまった。
というより、危害を加えるとは思わなかったのだ。
反応が遅れた。
ミューレの手に魔法陣が展開される。
魔法陣は補助器具を使って作られた物で、その速度は田中に匹敵する。
その魔法陣がフウマに向けられた。
「ッ⁉︎」
急いで空気の層を纏う。
しかし、襲って来る衝撃に耐え切れず、家を破壊しながら吹き飛ばされてしまった。
空気の層も剥がされてしまい、フウマは切り刻まれ負傷する。
しかしそれも、治癒魔法で即座に治療して、空を駆けて家に戻ろうとする。
しかし、大気を震わせ、大地を揺らすほどの魔力が収束して行くのを見て、動きを止めてしまった。
これがダンジョンならば、フウマは何も気にしなかった。
だが、ここは地上で、それも住宅地だ。
この規模の魔力が爆発すれば、見渡す限り更地に様変わりしてしまうだろう。
空気の層を何重にも重ね合わせて、フウマは進む方向を変えて上空に行く。
リミットブレイクを使えたらよかったのだが、それだけの時間は与えてくれそうもなかった。
上空に行くのも、フウマがミューレから離れる選択をしたからだ。そうでなければ、即座に魔法は放たれて、多くの犠牲者を出していただろう。
十分な距離が開いたと判断したのか、地上から白炎が放たれる。
まだ離れているというのに、その熱が伝わって来るような圧力がある。
「ブルッ!」
リミットブレイクを使い、黄金を纏いながらサラブレッドへと姿を変える。
ドンッ! と大気が震えるほどの脚で空中を蹴り、一直線に地上へと向かう。
途中にある白炎に突っ込むが、リミットブレイクを使ったフウマは、この程度でダメージを受けるほど弱くはない。
白炎を蹴散らして地上に到着すると、そこには半壊した家と何も無い所に手を伸ばしているタエコがいるだけだった。
ミューレは日向を連れて姿を消していた。
ーーー
半壊した実家と、泣き崩れる母ちゃんの姿がある。父ちゃんは母ちゃんに寄り添っており、大丈夫だと慰めていた。
警察も集まっており、何があったのか調査しているようだった。
そしてフウマは、
「ブルルッ‼︎ ブルルッ‼︎ ヒヒーン‼︎‼︎」
滅茶苦茶ブチギレて嗎声まくっていた。
おい、うるさい。
何があったのか説明しろ。
日向はどこに行ったんだ?
おい、バカ馬! いい加減、正気に戻らんかい!
フウマにビンタをして正気に戻すと、何が起こったのかを教えてくれた。
………。
ミューレが日向を連れ去った。
目的は分からない。
抱き締めた印象では、危害を加えそうになかったが、目的が分からない以上、なんとも言えないという。
あと、母ちゃんが伝言を預かっており、
『ヒナタが死んだ地で待つ』
なのだそうだ。
ヒナタが死んだ地。
それはネオユートピアを指し示していた。
またあそこに行かないといけないのかと思うと、うんざりした気持ちになる。
そんな場所であるネオユートピア跡地は、今やダンジョン化した場所だ。
そんな場所に日向を連れて行ったというのが、まず許せない。それに家を破壊したのも、許せない。
だが、だけど、あのミューレが何も理由が無く行動を起こしたとは考えられない。
一体、何がある……。
それはもう、本人に聞くしかないだろう。
父ちゃんと母ちゃんに、日向を迎えに行って来ると告げる。
今回はフウマも連れて行こうかと思ったが、殺意高めにキレ散らかしているので、残念ながらお留守番だ。
「ブルル⁉︎」(なんで⁉︎)
お前が行ったら、問答無用で殺すだろうが。
目的を聞かなきゃならないんだよ。
ミューレがこんな真似した理由を知っとかないと、他の奴らが敵に回る可能性だってあるんだぞ。
たとえばハイオークのオクタン君とか、ホブゴブリンのハヤタさんとか、獣人のバルタ…………は、どうでもいいか。
とにかく、親しくしてくれた人? 達から襲われるかも知れないのはかなり辛いものがある。
そんな気分が下がることを考えて、モタモタしていたからか、母ちゃんからあることを聞かれた。
「ハルト、ヒナタって、誰なの?」
…………ごめん、日向を取り戻してから説明する。
直ぐには答えられなくて、保留することにした。
野次馬を掻き分けて家から離れると、空に上がる。
出来るだけ何も考えないように意識して、ネオユートピアへと飛んだ。
今のネオユートピア跡地の周りは、探索者やギルド関係者以外は近付けないようになっている。
目的は、一般人が誤ってダンジョンに入らないように配慮してだ。
だが、あの一件で行方不明になった人達の関係者は、今もネオユートピアの周りに集まっている。
彼らは、今も帰りを待っていた。
いなくなってしまった人達が、何らかの形で戻って来てくれるのを彼らは願い、待っているのだ。
俺は、そんな彼らの横を通り過ぎると出入り口に向かう。
正面には、警戒したギルド関係者が立ち塞がる。だけど、関係者は俺の顔を見て、恐怖に顔を染めて道を譲ってくれた。
俺は今、どんな顔をしているんだろうな。