ダンジョン攻略8
4月25日2巻発売されます!!!
活動報告更新しております!
2巻の口絵と各ショップのショートストーリーを載せておりますので、是非是非よろしくお願いします!
ダンジョンの61階からは、溶岩が流れるフィールドになる。
溶岩があれば、当然のように山はあり、当然のように噴火している。
見てるだけで熱くて仕方ない。
思わず「あっちぃな〜」と呟いてしまうほどだ。
奈落と違っているのは、物理法則を無視した地形や、現象が起きていないという点だろう。
それだけでも、ここがどれだけマシか理解してくれるだろう。
まあ、逆に言うと、それだけの困難が奈落にはあるということだ。
イルミンスールの杖を取り出すと、向かうべき方角を指し示してくれる。
しかしそれは、当然のように噴火している山を指し示しており、思わず溶岩にぶん投げてやりたくなった。
お前な、確かにあそこに突っ込んでも無事かも知れないけどな、ノーダメージってわけじゃないんだぞ! 熱くて体力奪われるし、精神的に辛くなるだろうが!
そう訴えると、杖は別の道を指し示してくれる。
そっちは、溶岩が流れている川のような物で、そこを登っていけという。
ムカついて溶岩に放り投げた。
しかし、その行動を予想していたかのように蔦が伸びて、俺の腕をがっしりと掴んでしまった。
ちっ、そう舌打ちして投げ捨てるのを諦めた。
くだらんことやめて、さっさと行こうと火山の方に向かって歩き出す。
少なくとも、溶岩の川登りをするよりはマシなはずだ。
61階から現れるモンスターは、火属性の攻撃をしてくるモンスターがほとんどだ。
この階で現れるモンスターは、鬼火と呼ばれる火球だ。
精霊の一種なのだろうが、魔眼の能力も持っている。鬼火の中心には、見た物の動きを阻害する目があり、これを受けては動きが鈍くなり炎に撒かれて死んでしまうだろう。
そんな鬼火の目を見てみる。
特に何も感じることなく、風の刃で切り裂いて終わった。
モンスターを倒しつつ進んでいると、何かを踏んでカチッと音が鳴る。構わず足を離すと、仕込まれていた魔法陣が発動して、どこかに飛ばされてしまった。
……どこだよここ?
このフィールドで最も厄介なのは環境ではない。
今のようなトラップの多さだ。
空間把握で感じ取ることは出来るのだが、感じ取った物さえトラップで、避けた先に別のトラップがあったりするのだ。
別に、どんなトラップが来たところで、やられる気はしないのだが、「あっ、階段みっけ!」となったところで転移トラップが発動した時は、無言で魔法をぶっ放してしまった。
これ、ストレスが半端ないわ。
それでも何とか進んで行き、次の階に到着した。
ダンジョン62階
炎を纏った牡羊、フレイムアリエスは、脚部で爆発を発生させて突進して来るモンスターだ。
少しなら空も飛べて、三次元の動きで敵を翻弄する。しかも羊らしく群れており、最低でも三頭以上で行動している。
鬼火と共に現れると、厄介なことこの上ない組み合わせのモンスターになる。
魔眼で動きを阻害して、そこに炎の突進が来る。
対策を立てていなかったら、確実に死ぬだろう。
それほど恐ろしい組み合わせなのだ。
そんな恐ろしい奴らを、光属性のビームで貫いて始末する。
残念ながら、俺には通用しない。
というか、はなから脅威に感じていない。
これから先に現れるモンスターに対しても同じだ。
唯一、俺に脅威を感じさせるとしたら、多様なトラップだ。
足下の小石を蹴ると、トラップが発動して溶岩が降って来る。
それを、風を纏い全ての溶岩を防ぐ。
しかし、降った溶岩が別のトラップを発動させてしまい、岩が弾丸のように発射された。
それも風で……ガフッ⁉︎ と防ぐことが出来ずに弾き飛ばされてしまう。
これも舐め腐っていたせいだろうか。
トラップなんて避けるのも面倒くさいなと、構わず突き進むようにしたら、思わぬダメージを受けてしまった。
ダメージと言っても大した物ではない。
単に驚いたのと、衝撃で舌を噛んでしまったくらいだ。
失敗失敗と、倒れた俺に襲い掛かってくるフレイムアリエスをレーザーで貫く。
なんだか、攻撃は光属性魔法だけでいいような気がして来た。
不屈の大剣やト太郎もいるのだけれど、魔法の威力を引き上げてくれるので、イルミンスールの杖の使い勝手が良過ぎて困るのだ。
持っていれば、傷を負っても回復してくれるし、打撃武器として近接戦も可能という万能な武器となっている。
道標という役割があるというのもあり、今では手放せなくなっていた。
……でもな。
だからな、噴火している山を指すのは止めろ。
迂回すりゃ良いだろうが!
この融通の効かない所だけはどうにかしてほしい。
もう嫌がらせとしか思えない。
俺だから良いやろう、っていうのが、ひしひしと伝わって来る。
確かに行ける。
溶岩の川だって泳いで渡れる。
でもさ、わざわざやる必要ないじゃん!
ちくしょうと呟きながら、示された道を行く。
ここで迂回したら、負けたような気がしてしまうから。
ダンジョン63階
ここに来るまでに二十日掛かっている。
はっきり言って時間が掛かり過ぎている。
迂回なんてしていたら、更に遅れていただろう。
きっとこれでも早い方なんだ。
他の探索者だと、一つの階に一月どころか一年以上掛ける必要があるだろう。
だから文句は無い。
なんて言うとでも思ったかボケー‼︎‼︎
空行けんじゃん!
普通に飛べるじゃん!
なんで地道に歩いてんだよ、馬鹿みたいじゃん!
この階で現れるモンスターは、フレイムワイバーン。
30階のボスモンスターであるワイバーンを一回り大きくした体躯。それなのに高速で飛んでおり、火を吹く姿は正にラド◯のようだった。
それを見てピンと来た。
……あっ、空って行けるんだ、と。
それに気付いて、思わず「ふぅおーーーーっ⁉︎⁉︎」て絶叫してしまった。
これまでの探索で、空は行けないものだと勝手に思っていた。
火山の噴火とか、煙がもくもくと上がっているとか、トラップで空から岩が落ちて来たとか、ヒントは幾らでもあったのに気付かなかった。
マジで自分を殴り倒したくなった。
でもさ、分かんないって。
もうさ、どっかに書いておいてくんないかな、ここは空行けますよって。
それくらいの親切心があってくれても良いんじゃない?
なあ、ダンジョンさんよぉ。
不満を呟きながら地面を睨み付けていると、フレイムワイバーンに襲われた。
しかし、その軟弱な炎でこの装甲を貫くことは出来ない。
お返しに石の槍を作り出し、発射。
石の槍はフレイムワイバーンを貫き、悲鳴を上げて絶命した。
フレイムワイバーンには恩がある。
空を行けるのだと教えてくれた恩だ。
だからこそ、俺の最も得意とする魔法で仕留めてやろうと思った。
別に、俺は馬鹿なんだと気付かせんなよ! とか思ってない。決して思ってない! 無いったら絶対に無い!
とにかく風を纏って空を行く。
四方八方からフレイムワイバーンがやって来るが、そんなん相手にしてられんと、次の階層に向かう為に加速する。
すると、もうあっという間に着いた。
これまでの探索はなんだったんだと言いたくなるくらい、あっさりと到着した。
まあ、手に入れた宝箱の数を考えたら、無駄ではなかったのかも知れない。
俺には必要のない代物だとしても、誰かの役に立つかも知れないからな。
ダンジョン70階
うん、もうね、何度も言うけど、これまでの探索はなんだったんだろうね?
たった一日だ。
たったの一日で、ここまで来てしまった。
確かに道標があるから早いのは当然なんだけど、空を行くのと歩くのとで、ここまで違うのかと思ってしまう。
まあ、もう過ぎたことは諦めて、ボス部屋を開こうとして視線を感じた。
振り返ると、視界の端にミューレのような天使が映ったような気がした。
だけど、それは気のせいだったようで、モンスターの屍以外何も無かった。
疲れてんのかね。
そう思いながら扉を開いた。
ボス部屋の中に入ると、そこはこれまでの溶岩地帯ではなく、周囲が鉱物に囲まれた谷底のようになっていた。
辺りは水晶のような結晶が聳え立っており、何とも不思議な空間だった。
その奥に進んで行くと、一体のドラゴンがいた。
一対の翼に、鋼色の体表。
顔立ちは、ネオユートピアで戦った黒龍を思い出させる。大きな体躯ではあるが、黒龍よりも二回りは小さい。
そんなドラゴンが、奥の方で丸まって眠っていた。
これは、先制攻撃をしてもいいのだろうか?
起きるまで待っておくのがマナーだろうか?
念の為に杖をガンッ! 叩いて音を立てるが、残念ながら起きる気配は無かった。
緊張感足んねーな、このドラゴン。
そう思いながら、俺もその場に座ってドラゴンが起きるのを待った。
これは単に興味本位だった。
いつもと違う反応のモンスターを見て、どういう存在なのだろうかと疑問に思ったのだ。
座り込んでどれだけ経っただろうか。
もの凄く時間が経った気がする。
でも、谷の上に見える空は変わらずに明るくて、それほど時間が経っていないような気もする。
腹が減ったので食事にするかと、収納空間に手を突っ込み調理した物を取り出す。
因みに、あの海亀の肉を使ったスープである。
これ食べたら、問答無用で倒すか。
とか考えていたら、ドラゴンが起き上がった。
やっとか、そう思いながら杖を持つと、口を開けてジッとしていた。
……何なんだよ。
敵意を感じないせいで、どうにもやり難い。
このまま倒しても良さそうなのだが、敵意が無い奴を倒すのは、たとえモンスターでも違うと思うんだよな。
どうしようかと悩んでいると、口を開いた状態で、俺の前に接近して来た。
……もしかして、料理を入れろってことか?
試しに口の中にスープを入れると、口を閉じて味わうように咀嚼して飲み込んだ。
それから起き上がったドラゴンは、
“美味かった”
そう不器用な念話で告げて、己の首を落として絶命した。
何が起こったのか分からなかった。
飛び散る血は辺りを汚し、大きな体は生命活動を停止していた。ただ、落とされた頭部はゴロゴロと転がり、俺を見ているようだった。
その瞳は、俺の中の何かを見ているようで、少しばかり身を引いてしまう。
やがて頭部も力を失い、瞳からの圧力も無くなった。
俺はしばらくの間動けなくて、呆然と立ち尽くしていた。
何がしたかったんだろうか?
己で命を捨てるなんて思いもしなかった。
あの食事は、最後の晩餐ってことなのか?
こいつは、俺の中に何を見たんだろう?
そんな考えが頭の中を巡っていると、コロコロと黄色いスキル玉が転がって来る。
それを拾って、掌に消えて行くのを見届けた。
ドラゴンの体は回収しない。
俺が倒したわけでもないのに、その体を素材として持って帰る気にならなかったのだ。
現れた扉を開いてボス部屋を出る。
何はともあれ、これで70階はクリアだ。
もやもとした気持ちは残るが、ここは大人しく地上に戻った方がいいだろう。
扉の先にあるポータルを使い、俺は地上に戻る。
それから実家に帰ると、日向が連れ去られていた。
ーーー
古代龍
魔王よりも先に、かつてあった世界を守る為に創造された存在。魔王が現れたことでその役目を終え、その命も終えていた。だが、残っていた骨と魂の残滓を利用してダンジョンが復活させた。
魔王よりも弱いが、ダンジョンの意思に抗い続けた存在。
田中の中に、神なる龍(聖龍)の力を感じ取り、その命を差し出した。
ただ、己の世界を救えよと、そう願っていただけの優しい龍。
ーーー