ダンジョン攻略7
18時に短いですが幕間投稿します。
4月25日2巻発売です!
「あうぁぁ〜」
と声を上げながら魔力を暴走させる日向。
相変わらずのやんちゃぶりを微笑ましく思う。
魔力を散らしながら、これ放置してたらどうなったんだろうなと心配になってしまう。
因みに、母ちゃんと父ちゃんには、日向が魔力を吐き出しているのは伝えてある。でも、前世云々は伝えていない。
ヒナタには、田中日向として生きてほしいのだ。
魔力に関しては、「これも時代なのね〜」と遠い目をして受け入れてくれた。
まあ、近くにフウマが居れば何があっても大丈夫なので、心配する必要は無いとも伝えてある。
魔力の発散が終わった日向を母ちゃんに返して、んじゃ買い物行って来るからと家を出る。
今日の昼頃に、兄ちゃんと姉ちゃんが実家に帰って来る。
二人の所にも子供が生まれていて、俺と合わせる為に連れて来てくれるらしい。
本当は、もっと早くに会えば良かったのだけれど、タイミングが合わなかったのと、俺がダンジョンを優先しているのが原因ですれ違ってばかりだったのだ。
因みに二人は、俺がいない時に帰って来ているようで、日向と一緒に並んでいる赤ん坊の写真が飾られていたりする。
スーパーで適当に買い物を済ませて家に戻ると、兄ちゃんと嫁さんのヨシナさん、姪と先日生まれた甥がいた。
姪はフウマの所に行っており、乗って遊んでいた。
久しぶり。
そう声を掛けると、あちらも気さくに「久しぶりだな」と返してくれた。
その子が甥っ子?
ふーん、おとなしいんだ。
名前は?
武光……いい名前じゃん。
ヨシナさんが抱えている、小さな甥っ子に触れてみる。
頬はぷにぷにで、ふんっと息を吐き出している姿に、何だか既視感を覚えてしまった。
雑談をしつつ、食材を冷蔵庫に詰めていると、姉ちゃんが帰って来た。
マサフミさんと甥っ子と、先日生まれた姪っ子も一緒だ。
そこにお茶を持った父ちゃんと母ちゃんがやって来て、広めだったリビングが一気に狭くなる。
姪の名前は瑠衣というらしく、可愛らしい女の子だ。
日向と同じ女の子だが、こっちは魔力なんか無い、普通の女の子である。
賑やかな中でも、懐かしい気持ちになる。
これも、蘇生魔法を使えるようになって、魂を感じ取れるようになったからだろう。
この二人が将来結婚することになったら、俺は盛大に祝ってやろう。
従兄妹だからと反対されたとしても、俺が全力で応援してやろう。
だからお前達は、今度こそ幸せになれよ。
そう心の中で願っておいた。
ーーー
夜が更ける頃、父ちゃんと母ちゃんの寝室の扉をそっと開く。
扉の隙間からフウマが風を操り、日向を連れて来る。
寝ている二人が気付いた様子は無く、とりあえず成功だ。
今から何をするのかというと、イルミンスールの杖と会わせるのだ。
別に昼間にしても良かったのだが、何だか嫌な予感がしてこの時間にしている。
「う〜」とする日向を抱えたまま、収納空間から杖を取り出す。
すると、杖が大量の魔力を奪っていく。
俺の魔力を吸った杖は爛々と光を放ち、部屋をやばいくらいに照らした。
まじで夜にやってよかった。
雨戸やカーテンを閉め切っていなかったら、絶対に何かあるだろうと通報する人がいただろう。
爛々と輝いた杖は、人の形を作り出す。
それは昔にも見た姿で、ユグドラシルが大人になったら、こうなるだろうなって姿だった。
神々しい姿。
狭い部屋と場違い過ぎて、笑いそうになる。
そんな俺の心情に気付いたのか、俺を睨んで来る。
すまんすまんと謝って、早くしてくれとお願いする。
魔力量に問題は無いが、明る過ぎて目がチカチカしてしまうのだ。フウマは目を閉じていて、日向も顰めっ面をしており、今にも泣き出しそうだった。
そこら辺を伝えると、そういうことは先に言えとばかりに、光量を下げてくれた。
出来るんなら先に言え。
イルミンスールの杖は、日向の顔をジッと見つめる。
日向もイルミンスールを見つめており、「あう〜」と唸っている。
形は違うが、あの湖の光景を思い出す。
あの時の相手はト太郎だったが、今回はイルミンスールだ。
それだけの違い。
ただそれだけの違いなのに、何故だか無性に寂しくなった。
なので、ト太郎の剣も取り出してみる。
魔力を流して無理矢理覚醒させると、少しだけト太郎の意識が流れ込んで来た。
ただ一言。
“すまない”
この謝罪の言葉の意味を考えて、馬鹿たれと引っ叩いておく。
あれは俺が油断したからで、他の誰のせいでもない。
そもそも、ト太郎がいなかったら、ヒナタは生きていられなかったし、俺もヒナタと出会えなかった。
ナナシとも出会えなければ、二号とも会うことは無かった。寧ろ、二人とも死んでいただろう。
ト太郎は、みんなの命を救ってくれたのだ。
そんなト太郎に感謝こそすれ、恨み言なんてあるはずもない。
ただ、あの野郎への落とし前はきっちりと付ける。
そこまでは付き合ってもらうつもりだ。
そう告げると、ああ、と同意する意思が流れ込んで来た。
なんて会話をしていると、放っておかれたイルミンスールがふりふりと手を振る。
どうやら、こっちに注目! という意味らしい。
イルミンスールは片手を掲げると、魔力を収束させる。
まるでエメラルドのように結晶化させると、それを日向の額にくっ付けた。
それは溶けるように日向の中に消えていき、何事も無かったかのように「あう〜」といつもの日向の声が聞こえるだけだった。
イルミンスールは満足そうに頷くと、その体を消していき一本の杖に戻った。
何をやったのかは、何となくだが分かった。
恐らく、加護を与えたのだろう。
日向の中に、新しい魔力が流れているのが見える。その魔力は日向の暴れている魔力を抑えており、制御していた。
これで、近くにフウマがいなくても、無闇矢鱈に魔力を放出することも無くなるだろう。
まあ、それでも、フウマは護衛の為に置いて行く。
きな臭いことになっているのは確かだし、二号がいなくなった以上、ミンスール教会からの支援も期待出来ない。
つーか、フウマが追い返しているので、今更頼めん。
碌なことしないな、こいつは。
そう思いながらフウマを見ると、「ブルッ?」としていた。
まあ、何はともあれ、日向の魔力の放出が無くなったのは良いことだ。
杖にありがとなとお礼を言って、収納空間にぶん投げた。ついでに、長剣もぶん投げておく。
父ちゃんと母ちゃんが日向が居ないのに気付いて、二階から降りて来たのだ。
ごめんごめん、日向がグズってたから。
え、地震?
いや、起こってないと思うけど。
二階が揺れて物が落ちて来たって?
……大変だったね。一緒に片付けるよ。
地震の正体は、多分魔力を収束させたときの影響だ。
あんまり気にならなかったけど、膨大な魔力を操ったせいで二階が揺れたのだろう。
この夜は、二階の片付けで時間が潰れてしまった。