ダンジョン攻略6
2巻4月25日発売!!
地上に戻ると、テレビのニュースでミンスール教会の教祖が失踪したと報道されていた。
ネオユートピアの一件以降、時の人となっている二号こと世樹マヒト。
元々神出鬼没な存在として認知されていたが、失踪と報道されているのなら、それなりの理由があるのだろう。
それを知る為に、ミンスール教会に向かったのだが……。
……あの、大人しく入ってくれませんかね?
はい、大丈夫です。忘れていません。
ちゃんと日向に合わせますんで、大人しく収納空間に入って、入って! 入れーっ⁉︎
ミンスール教会の名前の由来になったであろう、イルミンスールの杖が、俺の腕に纏わりついて離れてくれない。
よほど、前回忘れていたことを怒っていらっしゃるのだろう。引き離そうとすればするほど、蔦の数が増えて、ガッチリと拘束されてしまう。
お願いですから入って下さい!
もう一度チャンスを下さい!
ちゃんと、ちゃんと会わせますから!
つーか、周りから注目されたんだよ!
俺がやべー奴だって勘違いされんだろうが!
言うことを聞いてくれないので、最後はリミットブレイクを使って、力尽くで収納空間に入れた。
あー酷い目にあった。
一人で探索をしているはずなのに、何故か一人でやっている気がしない。
それはきっと、あの杖の存在感が強過ぎるせいだろう。
マジで二号は何をやってたんだ?
そんで、何がしたいんだ?
……いや、やめよう。
こうなることは薄々気付いていた。
二号の手からイルミンスールの杖が無くなって、あいつの体に異変があったんだ。
杖を受け取った時、もしかしたら本当に対話は済んでいて、何事もなく平穏に過ごせるのかも知れないと、僅かな希望に縋っていた。
二号が望んでいたというのもあるけれど、自分の目的を優先して杖を受け取ってしまった。
だから、責任は俺が取るべきなのだろう。
ミンスール教会に向かうと、報道陣が詰め掛けており、中に入れるような状況じゃなかった。
だけど、建物の中から俺を見付けたのか、大道が窓越しに指をさして合図をして来る。
俺はそれに頷いて、適当に移動した。
魔力を流していれば、あいつなら痕跡を辿れるだろう。
んで、二号はどこに行ったんだ?
分からないのか?
手掛かりとかは……そうか、無いのか。
ミンスール教会から離れた公園で合流すると、ベンチに座ってどうなったのか事情を聞いて行く。
大道によると、杖を手放した直後の二号に、特に変わりは無かったそうだ。
しかし、日が経つにつれて独り言が多くなり、深く考え込むようになっていたという。
じゃあ、体に異変があったとか、傷が開いたとかじゃないんだな?
そうか、それならまだ良かった。
話を聞いて安堵すると、大道がどうしてだと聞いて来る。
あいつには古傷あってな、それが開く可能性があったんだよ。もしも、開いてたら助からなかっただろうな。
だから、まだ良かったんだよ。
最悪じゃなかったからな。
そう説明すると、大道は驚いていた。
その兆候も見られなかったようなので、二号は間違いなく生きているだろう。
それが分かっただけで十分だ。
じゃあなと言って大道と別れる。
大道はまだ話したそうだったが、俺には特に無いのでさっさと離れる。
空間把握が、人が近付いて来ているのを察知したのだ。それは、ミンスール教会の前にいた報道陣で、大道を追って来たのだろう。
ある程度離れると、俺も帰ろうと魔法を使う。
早く日向の顔を拝んでおきたい。それに、杖とも会わせないといけないからな。
だからさっさと帰りたかったのだが、空間把握に反応があって魔法を解除する。
はあ、とため息を吐いて収納空間から杖を取り出すと、近付いて来る人物に目を向ける。
俺が、よう、と声を掛けると、そいつは昔に見た笑みを浮かべて近付いて来た。
「お久しぶりです、権兵衛さん」
そいつは、若い頃の二号の姿をしていた。
とても懐かしくて、つい俺も笑ってしまう。
どうしたんだよ、こんな所で油売ってないで戻ったらどうだ?
「戻っても私に出来ることはありませんから、このまま姿をくらませるつもりです」
そりゃ無責任じゃないか、お前が作った宗教だろう?
「ええ。ですが、権兵衛さんが現れた時点で役目は終えていますので……」
俺のせいにすんなよ。
んで、残された奴らはどうするんだ? お前を信じて付いて来たんじゃないのか。
「私は、その資格を失ってしまいました。後は託すしかありません」
世界がダンジョンに飲み込まれたら、誰が世界樹まで導くんだ?
「それも、もう託しています。彼がいれば信徒は救われます」
こいつの言葉を聞いて、つい杖を握る手に力が籠ってしまう。
それに、今の俺と同じ感情がイルミンスールの杖からも流れ込んできて、我慢するのに苦労した。
……なあ、お前は何をしようとしているんだ?
「もう一度、見定めてみようと思います」
何を?
「人類です。救うに値するのか、滅ぼすべきか……」
また極端だな。
んで、お前は二号なんだよな?
そう尋ねると、こいつは黙って俺をジッと見る。そして一度目を瞑ると、縦に走った瞳孔を見せる。
「……どうなのでしょう。私は変わったつもりはありませんが、すでにNo.4に飲み込まれているのかも知れません。権兵衛さんから見て、私はどう見えますか?」
…………。
言葉に詰まる。
目の前のこいつから感じる物が、二号ではないからだ。
見た目は若い頃の世樹マヒト。
だが、宿る魔力は全くの別物。
感じる雰囲気も、穏やかな物ではなく肉食獣のそれ。
俺の感覚が、こいつはもう二号ではないと言っている。
それを察したのか、二号の姿をしたこいつが、前にも言った言葉を吐く。
「……権兵衛さん、私を殺して下さい」
この言葉が本意でないのは、なんとなく理解した。
以前のような覚悟がなくて、ただ俺を試すような言葉だったのだ。
だから返す言葉は、
「ああ、お前がそれを望むのならな」
先送りだった。
どうして、わざわざ俺の前に姿を現したのか理解すると、もしかしたらを考えてしまう。
それに一瞬だけど、こいつの中に二号を見てしまった。
「これが、最後のチャンスかも知れせんよ」
そうかも知れないが、まだ行動してない奴を殺すのは違うだろ。
「これから、多くを殺すかも知れませんよ」
だったら、行動する前に俺の所に来い。ちゃんと殺してやる。
「あなたは、相変わらずですね……」
嬉しそうに微笑む姿は、昔の二号そのものだった。
こいつはきっと、多くの血を流す。
二号の皮を被った化け物。
さっさと殺すべきなのは理解している。
だけど、その中に二号を見てしまった俺では、殺し切れない。
そんな自分自身から目を逸らして、「またな」と別れを告げて空へと上がった。
杖から本当に良いのかという意思が伝わって来る。
俺じゃ無理だってと杖に告げて、収納空間に入れた。
ったく、ダンジョンの方が考えなくて楽に感じるの、何なんだよこれ。
殺伐とした世界から出ると、待っていたのは友人との別れ。
まったく、嫌になるな。
日向の顔を見て癒されようと考えて、俺は実家に急いだ。